39.ドスケベ&サンダー
流石のラメンティア様もこの状況には戸惑いを隠せないようです。
大神官さんも恋人の皆さんも、その表情や雰囲気から察する限り、とても幸せそうなのは間違いなさそうではありますが……。
『ううむ……悪はてっきり大神官の権威を悪用して神官見習いの小娘に修行と称したエロい悪戯をやるとか、悩みを抱えた信者の相談に乗る体でなし崩し的に寝床に連れ込むとか、そういう同人誌でありがちなのを想像しておったのだが』
うちの上司の言うことは相変わらずよく分かりませんが、本来なら禁欲や節制を心がけて然るべき神官が陰で不貞を働いているとなったら、まあ普通なら明るい想像はできそうもないでしょう。
そんなイメージ通りなら権力や財力で不幸な被害者の声を隠蔽したりなどもセットで付いてきそうなものですし、とてもこんな風に笑い話にはできないはずです。
「ええ、拙僧は世の女性達の幸せを何よりも願っておりますゆえ。ラメンティア神が仰ったような卑劣な真似は、一人の男として断固許せませぬ」
とても大神官さんが嘘を言っているようには見えません。
心理操作のテクニックに熟達されているようですし、一度はまんまと引っ掛かったわたしが言っても信憑性は微妙そうですが、この場にいる恋人さん達までもが一人残らずそういった技術をマスターしているというのは流石に考えにくい。ならば、考えられる可能性としては……なかなか失礼な発想になってしまうのですけれど。
「あのぅ……もしかして、大神官さんはここにいる女性達を自分の恋人にするという名目で保護されているのでは? 皆さん、なんというか、その……一般の社会の中ではご苦労が多そうに思えたので……ええと、ごめんなさい」
今ここにいるだけで十人近くもいる恋人さん達は、極度の肥満体であったり目立つ傷跡や火傷があったりといった外見的特徴を有している方がほとんどのようです。
別に世の中の全員が全員そういった人に対して辛く当たるわけではないにせよ、そうではない人々も決して少なくないはず。本当に我ながら失礼な推測だとは思うのですけど、この神殿内で保護されている限りはそういった生き辛さと無縁でいられるのなら、徳に篤い人物が自ら汚名を背負う覚悟で彼女達を匿うことはあり得るのではないでしょうか。
「うふふ、賢いお嬢さんね。そんな風に申し訳なさそうにしなくていいのに」
「ええ、貴女が言ったので正解よ。半分はね」
わたしの推測は当たらずとも遠からずといったところだった模様。
当の恋人さん達が言うのだから間違いはないでしょう。
とはいえ、果たしてどこがどう半分当たっていたのやら。
「ふふふ、最初に言った通りですよお嬢さん。拙僧、筋金入りのドスケベ野郎なものでして! 神殿の者達や信者の皆様にはなかなか分かっていただけないのですが、この世に美しくない女性など一人として存在しないのです。故に、こちらの彼女達を口説いたのも本気でしたし、拙僧が心の底から美しいと思っているのを……成人前のお嬢さんの前で直接的な表現をするのはアレなのでボカしますが、時に言葉以外のコミュニケーションも駆使しながら自分に自信を持ってもらえるよう頑張りましたとも。ああ、無論合意の上でのアレでしたのでご心配なく」
なんという曇りのない眼……!?
言葉はいくらでも偽れるでしょうが、この場合は、ええと……実際の行為が伴っていたわけで。それを表面的な嘘だけで乗り切るというのは、特に男性の場合は肉体の仕組み的に難しいのではないでしょうか。わたしも書物由来の断片的な知識しかないので確かなことは言えませんけど。
「たとえ自分が自分を嫌っていても、少なくとも大神官様だけは心の底から私を綺麗だと思ってくれている。それにどれだけ心を救われたことか……」
「ええ、ここにいる皆がそう。できれば自分だけで独占したいって気もないわけじゃなかったけどね」
「そればかりは本当に申し訳ない。なにしろ拙僧の愛とスケベ心は、到底一人の相手に収まる大きさではありませぬゆえ」
俗と欲に塗れた破戒僧には違いなのでしょうが、それもここまで突き詰めると一周回って最初の聖人のような印象が正しかったような気がしてきます。そして、そういった感想を抱いたのはわたしだけではなかったようで、
『う、うむ、なんかもう貴様らはそのままでよい……いや、本気凄いなお前!?』
「ははは、これは恐縮。拙僧のスケベ心も、とうとう神のお墨付きが出るところまで来ましたか」
流石のラメンティア様も、彼らを脅迫したり暴力を振るったりする気にはなれなかったのでしょう。そのままお茶とお菓子をご馳走になり、見送りを受けてソルブライト神殿を後にするまで一切の暴力沙汰がありませんでした。
まったく、世の中にはとんでもない人物がいるものです。
うちの神様関連の出来事としては驚異的としか言いようがありません。
『ん?』
「ラメンティア様、どうかしました?」
『ああ、サヤ。そこから三歩ばかり後ろに下がれ』
「はい?」
もっとも、ここまでの分の埋め合わせであるかの如く、この直後に特大の暴力事案が巻き起こることになったのですが。それというのも、我々が神殿を出てまだ十歩も歩かぬうちに、
『ぬおっ!?』
「きゃっ!? なっ、ラ、ラメンティア様!?」
空はロクに雲も見当たらぬほど晴れているというのに、突如、特大のカミナリがラメンティア様の頭上にズドンと落ちてきたのです。




