38.聖スケベ野郎
時代や土地や宗派によって神官に求められる振る舞いも様々ですが、一般的には禁欲や節制を心がけ、人々の模範となるような立派な人物であることが求められるのではないでしょうか。
「ふふふ、念の為申し上げておきますと拙僧が属する宗派においては神官の妻帯も認められておりますが、複数人のお相手と同時に愛を交わし合うような真似はどう考えてもアウトですな。もし一般の信徒の皆様に拙僧の行状がバレた日には、袋叩きに遭って神殿から叩き出されても文句は言えますまい、が……なにしろ拙僧、筋金入りのスケベ野郎なものでして!」
「いや、あの……そう堂々と開き直られましても」
目の前で熱く語る大神官さんが非の打ち所がない聖人に見えていたとは、わたしの人を見る目のなさには呆れるばかり。最初から本性を見抜いていたらしいラメンティア様にとっても、慌てるでも逆上するでもないこの反応は少しばかり予想外だったようです。
『ううむ……最初は隠し事をネタに脅迫するつもりだったのだがな。むしろ、バレて喜んでおらぬかコイツ?』
「それは喜びもいたしましょう! 見目麗しい女性が自分のことを深く理解して下さったのですから。できれば互いが互いへの理解を深められればベストではありますが、それは流石に無礼が過ぎるというものでしょう?」
『うむ、悪は見ての通りの美女ゆえ只人が魅了されるのは仕方あるまいが、だからといって身の程を弁えずに調子こいていたら容赦なく蹴り潰しておったところだ』
何を蹴り潰すつもりだったのかは……まあ、聞かないほうがいいでしょう。
『ところで、茶と茶菓子を献上したいということだったが、貴様どこまで行くつもりだ? もう随分と歩いておるが』
「これは失敬、先に説明をしておくべきでしたな。そこの廊下を渡った向こうに庭園がございまして、そこの東屋にて拙僧の恋人達に支度を進めてもらっております」
『また堂々と言いおったな、コイツ……まあ、飲み食いできるなら誰が用意したものだろうが構わぬが』
あまりにも開けっ広げすぎる大神官さんのせいで、珍しくラメンティア様がペースを崩されているような印象です。いざとなれば得意の暴力に訴えるだけでしょうし、別に何らかの危険があるとかではないとは思うのですけれど。
『……なあ、本当に人間かアレ? 陸に打ち上げられたセイウチとかではなく?』
実際、神殿内に危険など何ひとつとしてありませんでした。
とはいえ、この光景には流石の悪の神様も大いに度肝を抜かれたようですが。
◆◆◆
神殿の建物に四方を囲まれた屋外庭園。
その一画に屋根があってテーブルや椅子など一通り揃った東屋がありました。
もう冬も近い時期だというのに付近の花壇には様々な花が咲き誇り、丁寧に刈り揃えられた芝生は青々と茂っている様子。余程の手間暇をかけなければ、こんな空間を維持することはできないでしょう……が、それはこの際どうでもいいのです。
「ラメンティア神、ご紹介いたします。こちらが拙僧自慢の恋人達で御座います。見ての通り、この破戒僧には勿体ないような絶世の美女ばかりでして」
「あらぁ、自慢だなんて。大神官様ったら、いつもお上手なんですから」
「うふふ……好き……」
「さぁさ、ちょうど婆お得意のパウンドケーキが焼けたところだからね。新顔のお嬢ちゃん達も遠慮なく食っておくれ」
大神官さんが複数人の女性を侍らしていると聞き、なんとなくお金や権威に飽かせて如何にもな美女を集めたんだろうなぁと想像していたのですが、実際の恋人さん達はなんというか……大変に個性的な方ばかりでした。
間違いなく特注であろう大型サイズのドレスが内側から張り裂けそうな肥満体だったり、顔や身体に目立つ傷跡や火傷があったり、あとは単純にかなりのお歳を召してらっしゃったり。
『なあ、大神官とやら。好みは人それぞれではあるが、流石にこれは、その……いくらなんでも上級者向けが過ぎんか?』
“あの”ラメンティア様が気を遣って言葉を選んでいる!?
凄まじくレアな光景を見たような気がします。
わたしも先程から予想外の状況に圧倒されてしまい、ただただ勧められるがままにお茶とお菓子を口に運ぶことしかできていませんが。
ここまで来ておいてなんですが、今がどういう時間なのか全然分かりません。
この状況、いったい何なんでしょう?




