21.毒を食らわば
これ、わたしが聞いてもいい話なんでしょうかね?
『くくく、よくこれだけ悪行を重ねたものよ。この調書が外部に流出したら、怒り狂った民が反乱でも起こすか? それとも、どこぞの国が弱みを盾に属国になれとでも脅してくるか?』
ブタ化の神罰で完全に心折れた皆さんは、それはそれは素直にこれまで重ねてきたやらかしの数々を白状してくれました。脱税や賄賂くらいなら可愛いもので、酷いものになると殺人や傷害およびそれらの罪の揉み消し、更にはちょっと口にする気にもなれないようなモノもチラホラと。
ラメンティア様が仰るように、これらの事態が表沙汰になったら亡国待ったなし。
下手人たる皆さんは良くて一生幽閉、悪ければ苛烈な拷問やリンチにかけられた上で公開処刑が妥当でしょうか。青ざめた顔で憔悴する今の彼らを見ていると少し可哀想な気もしますけど、うちの神様はこの聞き取り結果をどのように使うつもりなのでしょう?
『では、ツルギよ。いつも通り、仔細は任せる』
『おや、ようやく出番かい? 待ちくたびれたよ』
大人しく成り行きを見守っていたところ、場の主導権はラメンティア様からツルギ様へと移った模様。何がどう『いつも通り』になるのでしょう?
『では、諸君。キミ達がせっせと溜め込んだ財産を使って、どのようにこの国の財政状況を立て直すか少しばかり助言をさせてもらおうか。なぁに、悪いようにはしないとも』
「財政の立て直し、ですか? ツルギ様、そういうことも出来るんですねぇ」
口ぶりからして自信があるようですし、『いつも通り』を素直に受け取るならば一度ならず似たようなお仕事をされてきたのでしょう。この喋る剣は持ち主に負けず劣らず色々な芸当ができるようです。そもそも剣である意味があるのかという疑問はありますし、それ以前に刃物として使われるのを未だ一度も見ていない気もしますが。
『思った以上に溜め込んでいたようだからね、まずは特に食糧難に苦しんでいる地域に予算を回して当面を凌ぐのが第一の目標かな? とはいえ、いくら諸君の財産を片っ端から注ぎ込んだところで流石に数年もすればジリ貧だ。この国の文明レベルでも運用可能な効率的な農法だとか鉱山の採掘方法なんかを教えてあげるから、地道に各分野の生産力を上げていく方向で考えていこうか』
なにしろ国のお偉いさん方から脅し取ったばかりなので予算は十分。
これならば冬越えでの国内の死者数を大きく減らせることでしょう。
それ以外の農作物の増産案だとか鉱山の稼働率向上については、実際に計画が動いて成果が出るのを見ないとなんとも言えませんが、なにしろ神様の相棒の仰ることです。なんとなく説得力があるように思えます。
最初は剣が喋ることに面食らっていたお城の皆さんも、すぐにツルギ様の語る内容のほうに興味が移っていった様子。お偉いさん方や記録係の文官さんだけでは手に負えないと判断したのか、王都内の研究所やら学校にお勤めの学者さんが何人も呼んでこられて、そのまま玉座の間で各分野の新理論について質問と回答を繰り返す学術会議が始まってしまいました。
話題が専門的なものになってくるとわたしもチンプンカンプンでしたが、専門家の皆さんの反応を見ている限りだとツルギ様の知識は非常に高度かつ有用性が感じられるのだそうで。与えられた知識を現場で有効活用できるかは未知数ですが、彼らには是非とも頑張ってほしいところです。
『次の皿を持て! ほれ、サヤもぼんやりしておらんで飲み物でも注がぬか』
「あ、はい。只今参りますね」
国家運営に関わる面倒事をツルギ様に丸投げしたラメンティア様はといいますと、玉座のすぐ前にテーブルを並べさせて、運ばせたご馳走を次から次へと満喫中。わたしはその給仕役ということになるのでしょうか。
『まあ、サヤに本職の給仕ほどの仕事ぶりは求めておらぬ。ちょっとつまみ食いをする程度は大目に見てやるゆえ、あまり硬くならんで適当にやっておれ』
「そ、そうですか? では、お言葉に甘えて……えへへ」
ここまでのメチャクチャな成り行きには目を瞑るとして、お城で出てくる豪勢なご馳走には自然と興味も湧いてくるというものです。ここに来る前に街中の食堂でご飯を食べてから何時間も経っていませんが、軽くつまむくらいなら食べ過ぎて苦しくなったりはしないでしょうし……。
『うむ、食え食え! ほれ、この肉を煮たやつとか毒の味がして美味いぞ?』
「ぶっふぉ!?」
口に運びかけた料理を思いっきり噴き出してしまいました。
いや、毒の味って……!
『国王の差し金……ではなさそうだな。臣下の誰ぞが主を救おうとして独断で仕掛けたか? 悪に毒が通じると考える見通しは甘いが、くくっ、なかなか見込みのある者もいるではないか』
毒を盛られたらしいのに、ラメンティア様は怒るどころか上機嫌になっています。ちょっとは慣れてきたかと思いましたが、この方の感性は独特すぎて読み切れませんね。
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