20.ブタさんパラダイス
神様は言いました。
『で、ぶっちゃけ貴様らどのくらい脱税しておるのだ?』
あまりに直接的な問いかけには、暴力に屈服した領主の皆さんも困惑顔。
なにしろラメンティア様のすぐ隣にはこの国の王様がいるわけですし、自分がどの程度の不正を働いてきたか正直に白状するのは抵抗が大きいことでしょう。
『はて、返事が聞こえぬな? ならば、脱税に限らず領民から不当に財産を取り上げたり、様々な形で無法を働いたりは?』
うちの上司が質問の範囲を拡大して問い直すも、やはりお返事はありません。
不正に手を染めていたのはわたしの地元のブタさんだけで、他の皆さんは正しい倫理観や順法精神を備えた立派な領主さん達なのですねぇ……と、いくら世間知らずの小娘でも無邪気に信じる気にはなれません。もしそんな風ならば、わたしの地元だってもう少しマシな状態だったことでしょう。
『ふむ……これも返事なしか。ということは、貴様らは一人の例外もなく清廉潔白。不正など一度として働いたことがないという返答と捉えてよいのだな? 沈黙も肯定と見做すぞ?』
「は、はい、それはもうっ」
「ええ、誠心誠意努めさせていただいております!」
重ねて問われること三度。
今度は領主の方々も無言ではなく明確に返答しました。
ですが、きっと彼らはまだ状況を甘く考えていたのでしょう。
神の問いかけに偽りで答えることがどのような結果を生むか、それについてもっと真剣に、なおかつ深刻に考えておくべきだったのです。
『相分かった。くく……さて、何人残るか見物だな?』
「あのぅ、ラメンティア様? それはどういう……?」
ラメンティア様の言葉の意味が気になって、ついつい口を挟んでしまいましたが、その答えは言葉ではなく視覚的に明らかになりました。
「うん? なんだ、なにかおかしい……ブヒィ!?」
「んなっ!? 卿よ、その鼻はいったい!?」
「貴殿こそ、手首から先がヒヅメになっているではないか!?」
わたしは一度見ていたので驚きも少ないですが、当人達にとっては天地が引っくり返るような驚きでしょう。悲鳴の内容を聞く限り痛みや不快感はないみたいですが、なにしろ人間だった肉体がブタのそれへと変貌していくのです。
『くっくっく、言い忘れておったが神に対する虚偽にはこのような神罰が下るのだ。それにしても国王まで含めて一人残らずパーフェクトとは……この国、心底終わっておるな。ウケる』
「いやいや、ウケないで下さいよ……」
王国民の端くれとしては、この光景をどう受け止めれば良いものやら。
恐らく程度の大小はあるのでしょうが、先程の問いに対する結果がこのブタさん達ということは、つまり王様や領主の皆さんが一人の例外もなく何らかの不正に手を染めていたというわけで。あまり認めたくないですけど、これは確かに終わっています。
「か、神様っ、ラメンティア様! どうかお慈悲をブゥ!」
「もう嘘は吐きませブヒ! なんでもしますから許してブゥ!?」
まだ半分くらいは人間の姿を保っているおかげで、なんとか言葉を喋ることはできるみたいですが、こうしている今もブタ化はジワジワ進行中。一瞬で身も心も本物のブタになってしまうより怖いものがありそうです。
『ふむ、そんなにブタは嫌か?』
「嫌でブゥ! 戻してくだブヒ!」
『くくく、そうかそうか。ならばブタではなく、ウシでもニワトリでもなんでも好きな動物をリクエストするがよい』
「人間がいいでブゥ!?」
『却下だ。よもや、それが罰だということを忘れてはおらぬな?』
そうしている間にもブタ化の神罰は更に進行し、玉座の間はすっかり養豚場も同然のブタさんパライダイスに。ここまでの過程を見ていなければ、誰も彼らがこの国の重鎮達だとは思わないでしょう。
人間としての名残は、今や変貌の最中に破れた衣服の残骸を纏うのみ。
もう家族が見ても絶対に本人だとは分かりません。揃いも揃って目から涙をポロポロ流し、ブゥブゥ鳴きながら悲嘆に暮れる彼らは……、
『こんなところか』
ラメンティア様がパチンと指を鳴らすや否や、瞬時にして元の人間としての姿を取り戻しました。いえ、破れた衣服はそのままなので厳密にはちょっと違いますが。辛うじて大事なところは隠れていますが、あまり愉快な光景ではないですね。
『さて、神に逆らうとどうなるか身に染みたであろう?』
「は、ははぁ! 誠に申し訳ございませんでした!」
人間に戻った皆さんは、必死に床に頭を擦りつけながら震えるばかり。
先程の体験がさぞや恐ろしかったのでしょう。
ですが、本当に恐いのはここからでした。
『それでは、改めて問う……で、ぶっちゃけ貴様らどのくらい脱税しておるのだ? ああ、そうそう。それ以外の罪も含めてキチンと記録に残すから、先に文官共を呼んでおくがよい。くくっ、まあどうしてもと言うのなら嘘や誤魔化しをするのを止めはせぬがな? サヤよ、今宵の晩餐はブタの丸焼きでどうだ?』
「えぇ~……元人間のブタは食欲が湧きませんねぇ」
この期に及んで更に嘘を重ねたら、今度こそはブタから戻れる保証もありません。
王国の重鎮たる皆さんも、それはそれは素直に話してくれることでしょう。
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