22.人事を滅茶苦茶にしよう!
毒を食らわば皿までって、こういう意味じゃなかったと思うんですけどねぇ……。
『おっ、そこの侍従。貴様が毒を盛った下手人だな?』
「なっ!? そ、それは……」
『くくっ、別に隠さずともよい。手際は悪くなかったが、その殺気と不自然な筋肉の緊張を隠し切らねば効果は半減だ。今後は気を付けよ。あと、毒の残りがあれば味付け用に寄越すがよい』
どうやら皮肉ではなく本当に毒の味が気に入ったのでしょう。
うちの神様は犯行がバレて絶望的な表情を浮かべている侍従さんから毒入りの小瓶を取り上げて、塩でも足すみたいに料理に振りかけながらモリモリ食べています。無事なのは結構なのですけど、それをやられるとわたしが食べられなくなってしまうのでちょっと残念。
『なに、そなたへの罰? 要らん要らん。懐にしまってある自害用の短剣を置いて、疾く仕事に戻るがよい』
毒殺未遂犯の侍従さんはというと、なんと全くのお咎めなし。
身体が頑丈すぎて死の危険がなかったせいもあるかもですが、ラメンティア様が不自然に優しいと失礼ながら不気味なものを感じてしまいます。ほんのちょっと前に王様達へ下した沙汰に比べると、ずいぶんと対処が甘いように思えるのですが……これも単なる気紛れなのでしょうか?
『くくっ、サヤよ、そのあたりの基準が気になるか?』
「え、ええ、後学のために知っておきたいかなぁ……なんて」
わたしがいつまでこの神様の近くにいるのかは分かりませんが、もしかすると何かの拍子に不興を買ってしまうこともあるかもしれません。その際の罰の軽重の基準がある程度でも分かっていれば、あらかじめ気を付けておくこともできるでしょう。
『そうだな、言葉で説明するのは簡単だが……この際だ、更なる実例を見たほうが分かりやすかろう。おい、国王。この城を守る兵を呼び集めるがよい。上から下まで全員な?』
「は、はいぃっ、ただいま!」
わたし的には口頭で簡単に教えれば良かったのですが、なんだか思った以上の大事になってしまいました。王城に勤める兵士の皆さんがいったい何人いるのかは存じませんが、恐らく百人や二百人では利かないでしょう。
ラメンティア様にアゴで使われている王様が部下の皆さんに命令し、そこから数分も経つ頃には玉座の間には大勢の軍人さんが詰めかける格好になっていました。流石に全員一度には入れないので、部屋の外には更に何百人も待機しているようです。
「あれ? なんだか怪我をされてる方が多いような?」
『ああ、さっき悪が殴り込んだ時に軽くシバいてやった連中だな』
招集を受けた兵士の皆さんとしては、非常に不安になるシチュエーションでしょう。
つい数時間前にお城に殴り込んできた神様が……玉座の間でのあれこれを見ていない彼らにとっては神様云々の真偽は未だ不明でしょうが、少なくとも彼らの仕える王様がそう信じ切っているのは自明です。加えて、その王様がラメンティア様への絶対服従を命じたことで抵抗することもできなくなってしまいました。
で、そんな相手がわざわざ自分達を呼び出した原因は非常に気になるところのはず。ロクな抵抗もできなかったとはいえ、王城を制圧する際に邪魔をしたことで怒りを買ったのでは……なんて、そんな風に考えても無理はありません。
『ふむ、たしか……ああ、そこにいたか。おい、そこの前から三列目の右端にいる若造。たしか二階の廊下を守っていたヤツだな? ほれ、ちょっと前に出てくるがよい』
「は、はい……」
ラメンティア様から直々に指名を受けたのは、玉座の間にいる皆さんの中でも特にボコボコに顔を腫らした若い兵隊さん。彼我の力の差を存分に思い知ったせいもあってか、見るからにビクビクと怯えていたのですけれど、
『若造、貴様は将軍に昇進だ』
「え……えっ、あれ、顔が痛くない? そ、それより、お、俺が将軍!?」
『然り。二度は言わぬ、精々励むがよい』
ラメンティア様の前に出てくると同時、腫れあがっていた顔や折れた歯も健康なそれへと回復し、更には異例にも程があるであろう大出世。ご本人も嬉しさより戸惑いのほうが遥かに勝るご様子です。
『次は……ああ、そこのハゲ頭。たしか周りの者に将軍と呼ばれていたヤツだな? 貴様は一番下っ端の兵卒に降格だ。初心に返って一から心身を叩き直すがよい』
「なぁっ!? そ、そんな馬鹿な!?」
異例の人事は更に続きます。
ハゲ頭の将軍さんがさっきのお兄さんと入れ替わりで下っ端に降格。
抗議の声は情け容赦のないゲンコツを頭に落とすことで封殺していました。
それからラメンティア様は、他にも何人かの皆さんを指名しては階級を上げたり下げたり。怪我を治してあげたり、逆に怪我を増やしたり。そもそもの話を辿れば先程の毒殺未遂の侍従さんに関係あるはずなのですが、ここまで見ていても何も理解できません。
『くかかっ、とりあえずはこんなところか? 貴様らも此度の差配の理由が気になっていることだろうが……これから悪の神たる悪がキチンと教えてやるゆえ、心して拝聴するがよい』
傍目には乱暴な気紛れにしか思えずとも、口ぶりからするにラメンティア様には何かしらの基準があるのでしょう。わたしも他の皆さんも、耳を澄ませて続く言葉に意識を傾けるのでありました。
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