02.まさかまさかの受け取り拒否
悪神ラメンティア。
そう名乗った女神様は、続けてこんなことを言ってきました。
『ところで、そこな娘よ。貴様、何故縛られておるのだ? しかも屋外でとは、ちと上級者が過ぎるだろう。悪は多様性に寛容な神ゆえ、そういうプレイも一種の趣味として認めるのは吝かでないが……まだ若いうちから特殊な性癖を拗らせすぎると、将来要らぬ苦労をすると聞くぞ?』
なんだか、ものすごい誤解をされている気がする!?
というか将来も何も、この神様は生贄であるわたしをペロリと平らげるために出てきたのでは? なんでしょうか、上手く言葉にできない違和感のようなものを感じます。いえ、それはさておき先に誤解を正さねば。
「い、いえ、これは別に好きで縛られているわけではなくてですね……わたし、神様に捧げる生贄として選ばれた者でして」
『ほう? どうやって悪の降臨を予見したのかは知らぬが、神の中の神たる悪への捧げ物を用意しておこうとは感心な心掛けだな……だが、要らん! ちなみに生贄ってクーリングオフの対象だと思うか?』
「え、ええぇぇぇ!? その、クー……なんとかは分かりませんけど、そこを何とか! もう村にも戻れませんし、このままだと縛られて動けないまま飢え死にするのを待つだけですし、せめてなるべく痛くないようサクッとやっちゃっていただけないでしょうか!?」
『うっさい、貴様のような貧相なガキなんぞ要るかバーカバーカ!』
なんだか予想もしない流れになってきました。
まさか受け取り拒否を喰らうとは思いませんでしたよ。
生贄の風習が何百年前からあるのかは寡聞にして存じませんが、そもそも神様がご所望だったからこそ今回わたしが捧げられることになったのでは? もしや長老様や村の皆さんが知らぬ間に、神様が菜食主義に転向していたとでもいうのでしょうか?
『というわけで、悪は貴様に用などない。さらばだ!』
「ちょっ、ま、待って待って待って!? せめて縄だけでも外して行ってくれませんか!」
ペロリと食べられずに済んだのはこの際良いとして、手足を縛る縄がそのままでは結局死んでしまいます。それも尊厳と一緒に色々垂れ流しながら苦しみ抜いた末に。動けるようになったらなったで行く当てなどないのですが、このまま祭壇の上で死ぬよりはマシでしょう。
そして、そんな必死の願いは無事届いてくれました。
ただし神様にではありませんでしたけれど。
『まあまあ、待ちたまえラメンティア君。生贄云々はともかく、その子にさっきのヤツを料理してもらうってのはどうだい? ほら、なにしろ私達ってばそっち方面はどちらもからっきしだしね』
「え……誰です?」
どこからともなく女の人の声が聞こえてきました。
ラメンティア……様とは明らかに別人ですが、どこにも人らしき姿は見当たりません。
いえ、それよりも気にすべきは謎の声の提案についてでしょうか。
ラメンティア様も謎の声の言葉に思うところがあったのか、手にしていた白い剣を肩に担ぐよう持ち替えてから、改めてわたしに問いました。
『やれやれ仕方ない。おい、娘。貴様、料理はできるか?』
「お料理、ですか? ……ええと、簡単に煮たり焼いたりくらいなら」
『ふむ……ま、この際それで我慢してやるか。さっきそこでデカいイノシシを仕留めてな。食おうと思ったのだが、悪は料理などというチマチマした真似は性に合わん。故に、貴様に神に捧げる料理を作る栄誉を与えてやろう!』
特別に料理上手というわけではないですが、両親が亡くなってからは一人で暮らしていた都合もあって簡単な煮炊きくらいはできなくもありません。そうすれば助けていただけるというのであれば、いくらでも腕を振るわせてもらいますとも。
『こちらだ、ついて来い』
「え……あっ! 縄が切れてる、いつの間に……」
神様特有の不思議な力でも使ったのでしょうか。
あれだけ藻掻いてもビクともしなかった手足の縄は、縛られていたわたし自身すら気付かぬうちにバラバラに寸断されておりました。何時間もキツく縛られていたせいで痺れが残り、まともに歩くのも一苦労ですが、今は夜の山をスイスイ進むラメンティア様を急いで追いかけないといけません。わたしはフラフラよろけながらも、必死に神様の後を追って走りました。




