18.王権神授説の逆
王権神授説というものをご存知でしょうか?
ざっくり説明すると王様が国を支配する正当性、すなわち王権とは神から授けられた神聖不可侵なものである……みたいな。ずいぶん前に本で読んだきりのうろ覚えの知識ではありますが、大体そんな感じだったかと思います。
『さっきこいつらに聞いてみたが、案の定この国にもそういうありがちな設定があるらしい。それがどこぞの神に由来する真実話なのか、それとも箔付けのための虚偽なのかは現代の人間には誰も分からんのだろうが』
果たして、これは何の前振りなのやら。長い脚を組んで玉座に腰かけたラメンティア様は、わたしや周囲の皆さんに向けてそんなお話を始めました。
この玉座の間にいる人達は当然ながら王国の要人ばかり。
きっと平時であれば威厳ある方々だと思うのですが、今は怯えた子猫のような目を玉座のほうに向けながら弱々しく震えることしかできない様子。きっと、大変怖い目に遭ったのでしょう。
『正直、そのあたりの真偽はどちらでもよい。問題は、王権なるものが神によって与えられ得るという点だ。それ自体は貴様らも素直に認めるところであろう?』
王国の中枢に近い人であればあるほど、その権威の源についても自然と肯定せざるを得ないでしょう。今の王様の何代前だかのご先祖様が、いずこかの神様に何らかの才覚なり善良な人格なりを見出され、近隣一帯を治める王として任命された。
その実際の真偽はラメンティア様が仰ったように不明ですが、現実の出来事に関係なくそれが是であるという建前で国というものは成り立っているのです。王権神授を前提としていない形態の国だとまた事情が違うにせよ、少なくとも我が国に関してはそれこそが国を国として成立させている根幹と言っても過言ではないでしょう。
『王権とは神によって授けられるものである。そして、悪は神である。もし信じ難いというのなら、素直に認めるまで神の力を見せつけてやるのも吝かではないが?』
「い、いえ、いえいえいえいえ滅相もない! 貴女様が神様だと認めますので勘弁してください!?」
『そうか? やれやれ、つまらん』
それはまあ神様でもなければ単独でお城を攻め落とすなんて不可能でしょう。王様や他の皆さんも、ラメンティア様が本物の神であるという点はまるで疑っていないようです。
『で、ここからが本題だ。神によって与えられることがあるなら、逆に神によって取り上げられることがあっても不思議はあるまい?』
このあたりでようやく今回の趣旨というものが分かってきました。
他の皆さんも察しが付いたのか、ただでさえ悪い顔色がどんどん青みを増しています。
『悪がここまで見てきた王国の惨状……不正を働き私腹を肥やす貴族がのさばり、地方の民は明日をも知れぬ貧しい暮らしをしておる。くくくっ、心優しい悪としては到底見過ごせる状況ではないなぁ? そうした良からぬ貴族共の元締め、すなわち王の責が問われて然るべき事態であろう?』
見てきたも何もラメンティア様はまだ一例しか知らないはずですが、こうも堂々と言い切られると何もかも全部お見通しであるかのような説得力があるものです。
あるいは王様の側には、わたしの地元以外の領地に関する不正について心当たりでもあったのでしょうか。もしも、そうした悪徳貴族の存在を把握していながら何らかの理由で放置していたとしたら、それはまあ一国の最高責任者として責任を取るのが道理なのかもしれません。
『おい、国王。以上の理由により貴様から王権を剥奪する!』
「そ、そんなっ……ど、どうかお慈悲を……!?」
『くくっ、慈悲だと? まあ悪も鬼ではない。素直に言うことを聞けば、王権の完全剥奪ではなく一時凍結という沙汰で勘弁してやろう。その凍結が解けるかどうかは貴様の努力次第であるがな?』
「はいっ、なんでもしますので何卒……!」
『ん、今なんでもすると言ったな?』
あ、これは不味いですね。追い詰められて冷静でいられなかったのでしょうが、この神様に軽率に言質を取られたら、いったい何を要求されるやら。
そもそも、うちの神様がか弱い民草を救済したり不正義を正すために行動するはずがありません。表面上そう思えたとしても、その裏には何かしらの悪意があるに決まっています。わたしとしても大恩ある御方を悪く言いたくはないのですが、なにしろラメンティア様に関しては実は善意でやっているとか言われたほうが嫌な顔をしそうですし。
『では、まず手始めに国内の各領全ての領主を集めよ! 今から三分以内な?』
「む、むむ、無理です!?」
『馬鹿者、なんでもすると言ったそばから無理とは何事だ!』
どうやら事はわたしの地元や王都のみならず、国内全てが関係してくるようです。
そしてラメンティア様が集めろと言った以上は、今はまだ何も知らない各地の領主さん方に逃れる術はないのでしょう。わたしは、まだ顔も知らない犠牲者達に密かに同情するのでありました。
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