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ラスボス様は破壊したい!  作者: 悠戯


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16.現実逃避をしよう!


 いったい数え切れないほどあるお店のどれに入ればいいのやら?


 隣の村まで足を伸ばさねば商店というものすら存在しなかった田舎者にとっては、まだお店に入る前から混乱して目が回ってしまいそうです。王都にお住まいの皆さんは、よく迷わずに生活できるものだと感心してしまいますね。



『サヤ君。こうして突っ立っていても仕方がないし、これといって希望がないならとりあえず服でも見に行かない? 流石に一から仕立てるのは時間的にも予算的にも厳しそうだから、今回は古着屋ってことになりそうだけど』


「あ、はい。それじゃあ、そういう感じで」



 肩掛けカバンに収納したツルギ様が提案してくれなかったら、あのままいつまでもボケっと棒立ちになっていたに違いありません。

 わたしが今着ている服は傷んだ箇所を幾度となく繕いながら騙し騙し着ていたような有様ですが、一応これでも女子の端くれ。これまでは予算の都合でデザイン面は最初から二の次にしていましたが、可愛いらしい服への興味関心だってないわけじゃあないのです。


 そんなわけで、我々はまず近場の古着屋さんを目指すことになりました。

 そして新しい服と、ついでに靴や髪飾りまでゲットすることができました。



『ははは、私の値切り交渉のテクもなかなかのものだろう?』


「ええ、お見それしました。まさか八割引きまで粘るとは……」


『いやいや、私の実力はこんなものじゃあないよ? 今回は時間の都合で早く切り上げたけど、自己最高記録は二十割引きだからね。ちなみに二十割っていうのは、商品をタダで提供させた上に代金分のお金まで貰ったって意味なんだけど』



 ツルギ様とお店の人との交渉の様子を余さず眺めていたはずなのですが、何をどうしてあんな値引きを実現できたのか未だに理解できておりません。


 服の袖にあるかないかの僅かな傷やほつれがあるのを指摘したり、別の店で似たような品がもっと安く売っていたという嘘八百で対抗心を煽ったり、あれよあれよという間にどんどん値段が下がっていったのです。

 見ていた限りでは特に脅迫や洗脳まがいの真似はしていなかったと思うのですが、純粋な話術だけでこの成果だとしたら、それはむしろ超常的な不思議パワーを使うよりも恐ろしいのでは?



『なに、それほどでもあるけどね。そんなことより、サヤ君なかなか似合うじゃあないか! うんうん、こうして見ると都会育ちの良いとこのお嬢さんって感じだね』


「そ、そうですか? いやいやツルギ様ってばお上手なんですから、えへへ……」



 購入したのは白い襟飾りの付いた藍色のワンピース。

 それから黒のローファーと白い花を模した髪飾り。

 店内で試着したまま会計を済ませ、元の服はツルギ様と同じカバンにしまってあります。


 わたし自身は自分のファッションセンスに自信などありませんが、そのあたりの見立てはツルギ様に丸投げしたおかげか、少なくとも変な風にはなっていないはず。なかなか良い買い物ができたのではないでしょうか、と思った矢先。


 ぐぅ。



「おっと、失礼……そういえば、今日はまだ何も食べてないんでした」


『はっはっは、なに、お腹が空くのは健康な証拠だとも。幸い予算は大幅に浮いたことだし、どこかの食堂にでも入ってランチといこうか?』


「いいですねぇ。わたし、外食なんてずいぶん久しぶりですよ!」



 周囲を軽く見渡してみると、食べ物屋さんだけで軽く二桁はあるでしょうか。

 甘いお菓子やボリュームのある肉料理、刺激的な匂いのするよく分からない料理など、バリエーションも多岐に渡るようです。明らかに予算オーバーの高級店は候補から省くとしても、美味しそうなお店が多くて迷ってしまいます。



『サヤ君はスパイス系とか刺激が強いのには不慣れだろうし、成長期の子が甘いお菓子だけで食事を済ませるっていうのも保護者としては止めておいたほうがいいか。それだと……ああ、そこの食堂なんて良さそうじゃない? ちょうど席の空きもあるみたいだし』


「ええ、それじゃあここで」



 そうして我々が選んだのは、肉体労働者と思しきお兄さんやおじさん方でひしめく食堂。周囲のお店の中では比較的お安めで、その割にボリュームはたっぷり。普通は子供が好んで入るようなタイプのお店ではないらしく周囲の注目を集めてしまいましたが、それでも特に止められたりすることなく席に通していただけました。



「タレに漬けて焼いたお肉にパンとスープのセット? じゃあ、それをひと……いえ、二つでお願いします!」



 ニンニクの香りが効いたタレに漬けた厚切り豚肉を焼き網の上でジュウジュウと。お店の外まで食欲をそそる香りが漂っていましたが、店内では一段と風味が強く感じられます。



「綺麗な服を買って、美味しいご飯を食べて、こんな幸せな……ゆ、夢じゃないですよね!? 目を覚ましたら絶賛生贄中だったりとか!?」


『夢じゃないから大丈夫だよ。それはそうと、そろそろだと思うから心の準備はしておいたほうがいいかもね?』


「そろそろ? ……きゃっ!?」



 ツルギ様の忠告の意味を判じかねていると、突然、大きなカミナリでも落ちたような轟音がズドンと聞こえてきました。お店の中にいたせいか音の発生源までは分かりませんでしたが……。



「なんだ、落雷!? いや、爆発か!?」


「これってお城のほうじゃないか?」



 これだけ大きな音が鳴ったのだから無理もありませんが、お店のすぐ前を行き交う皆さんも今の音の正体が気になるご様子。更に数分の後には、慌てた様子の兵隊さん方がお城へ向けて走って行くのも見えました。


 そうこうしている間に王城付近にいた野次馬から広まったのか、真偽定かではない噂を話す人々がそこかしこに。



真実マジだって、城門が吹っ飛んでるんだよ!?」


虚偽ウッソだろ! どうやって都に破城槌なんか持ち込んだんだよ!?」


「それが見てたヤツによると変な女が前蹴り一発でやったとか……いや、たぶん幻覚か何かだと思うんだけど」



 うふふ、世の中困った人もいるものですねぇ。

 まあ、人ではないんですけれど。

 今度はいったい何が気に喰わなかったのか分かりませんし、もしかすると理由など存在しない気紛れという可能性もありますが、どうやらうちの神様はお城に殴り込みをかけている真っ最中のようです。



「なるほど……そろそろ、ですか」


『うん、そういうこと。おっと、そんなことより料理が来たみたいだよ』



 周囲の喧噪にも惑わされずお料理を続けていたとは見事なプロ意識。

 料理人さんのおかげで、こちらの現実逃避も捗るというものです。

 わたしはこの後に確実に待ち受けているであろうトラブルから目を逸らすかのようにして、運ばれて来たお肉の味へと全神経を集中させるのでありました。



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