15.王都観光を楽しもう!
王都までは大人の足で約二日。
ですが、神の足ならどれくらいかといいますと。
『ふむ、二分くらいかかったか? サヤがバラバラにならぬよう加減したせいで思ったより時間を食ったな』
「そ、それは、お気遣い……ありが……ござい、ます……うぷ」
所要時間はなんと約二分という好タイム。
荷物として肩に担がれていたわたしは、空気抵抗が凄いわ揺れまくるわで正常な時間感覚などまともに働いていませんでしたが。頭上の太陽の位置を確認した限りでは領主屋敷を出た時とまるで違いませんし、本当にたったの二分で到着してしまったようです。
『ちなみに、悪が本気で走ったら軽く一秒を切るからな? 間違ってもコレが全速力だなどと勘違いするでないぞ』
この神様、畑の作物を生やしたり壊れた建物を直したりと超常的な能力もアレコレ使えるようですが、何故だかフィジカルでのゴリ押しを選びがちですね。まあ、それは別にいいとして。
「わ……うわぁ、本当に王都ですね! 人、多っ! お店もいっぱいありますねぇ!」
異常な高速移動で視界がクラクラしていたのが落ち着いてくると、次第に周囲の光景を正常に認識できるようになってきました。どうやら我々は、数多くの人が行き交い無数のお店が並ぶ王都の大通りにいたようです。
頭からツノの生えたラメンティア様がいるのに過度の注目を集めていないのは、あちらこちらに仮装をした大道芸人やら辻芝居の役者さんやらがいるおかげでしょうか。
『くかかっ、このおのぼりさんめ!』
「だってだって都会に来るの初めてなんですもん! うわぁ!」
いったい、この通りだけで何百人いるのやら。
もしかして、今日は何かのお祭りだったりするのでしょうか?
『田舎者のテンプレみたいな勘違いは笑えるので別に構わんが、見たところ特に何かのイベントというわけではない日常の光景のようだな』
「こ、これが日常ですか……いやぁ、実はお父さんが若い頃の学生時代に住んでたそうなんですけど、実際に見ると聞くとでは大違いですねぇ」
地元の村でも都に行ったことのある方は何人かいましたが、まさかここまで栄えていようとは思いもしませんでした。道行く誰も彼もが垢抜けたスマートな格好をしているように見えますし、パッとしないド田舎出身の田舎娘としましては特に誰かに何か言われたわけでもないのに、ついつい気後れしてしまいそうです。
『ふむ、そういうものか? くくっ、では突然だがそなたに小遣いをやろう!』
「えっ……お小遣い、ですか? わたしに? ラメンティア様が?」
『うむ、昨日も言ったような覚えがあるが悪は気前の良い神なのだ。というわけで、ほれ』
突然の展開になかなか思考が追いつきませんが、ラメンティア様がご自分の胸の谷間に手を突っ込んだと思ったら、昨日カツアゲした物と思しきお財布を三つばかりこちらに投げて寄越してきたのです。
『悪にも少し用事があるのでな。これから自由行動ということにしてやろう。そのカネで服を買うなりメシを食うなりして、しばらく時間を潰しているがよい』
「あ、ありがとうございます! 何をしようか迷っちゃいますねぇ!」
資金源が犯罪で手に入れたお金だというのが気にかからなくもありませんが、なにしろ先立つものがなければ折角の王都も十全に楽しむことはできません。ここは素直に欲望に従っておきましょう。
『それと、ツルギ。そなたをサヤに預けるゆえ、しばし子守りを頼むぞ』
『はいはい、任されたよ。ただ自分で言うのもなんだけど、抜き身の剣をそのまま抱えてると変に注目されそうだし、適当な布なりカバンなり創っていってもらえると嬉しいかな?』
『やれやれ、仕方ない。ほれ、サヤ。ツルギが入るカバンを用意してやったゆえ、これを持って行くがよい』
自由行動とは言いますが、自由なのはラメンティア様だけでわたしには保護者としてツルギ様が付くようです。まあ初めての王都でいきなり一人というのは心細いですし、同行者がいるのはむしろ好都合。
ラメンティア様がどこからともなく取り出した……その前の言葉をそのまま信じるなら、不思議な能力で創り出したらしい肩掛けカバンにツルギ様を収めたら準備は完了。
「では、ラメンティア様。また後ほど! ふふふ、どこから行きましょうか?」
十分なお小遣いを手にした上での王都観光。
わたしの人生にこんなに楽しいことがあってよいのでしょうか。
一柱で自由行動をするらしい上司が今度は何をやらかすつもりなのかという一抹の不安もありますが、流石の悪の神様もわたしが買い物や観光を楽しむより先に王都を滅ぼしたりはしないでしょう。多分、きっと、恐らくは。
一応ちょっとくらいはそういうオチも覚悟して、滅ぼされるより早くグルメやショッピングを大至急かつ全力で楽しんでおかないと!




