11.神様の御利益を堪能しよう!
『くくっ、ずいぶん貯め込んでおったではないか』
今や見るも無残な廃墟と化した領主のお屋敷。
壁や床のあちこちに大穴が開いてすっかり風通しがよくなって、自慢の美術品コレクションも容赦なく砕かれたり破かれたり。そんな破壊活動を行った悪の女神様はというと、たっぷりとしまい込まれていた金貨銀貨や食料の山を前で機嫌良く笑っておりました。
そもそも取り立てた税が集まる場所だからという理由で襲撃をかけたわけですが、その量はわたしが漠然と想像していたより遥かにボリューミー。
我が故郷たるカナイド村にも武装した領兵を引き連れた徴税官が時折やって来ては、ほとんど脅し取るかのような高圧的な態度でお金や食料を持って行ったものです。恐らくは領内全ての町や村々で、似たような強引な取り立てをやっていたからこその目の前の光景なのでしょう。
『よし、じゃあコレは貴様らにくれてやろう。適当に分けて持って帰るがよい』
「え、ええっ!? 本気ですか、ラメンティア様!?」
『サヤよ、そなた悪を何か誤解しておらぬか? 悪はこう見えて気前の良い神なのだ。ケチくさい吝嗇家扱いするでない』
これほどの財貨があれば他領から食料や家畜を購入するなりして、十分な余裕を持って冬を越せることでしょう。強引に連れて来られた各村の人々にしてみれば、一日そこら付き合っただけで、かなりのお金と食料を得ることができたのです。
まあ、その報酬はつい先程まで建っていた領主屋敷から強奪したものですし、それを考え無しに持ち帰ることが新たなトラブルの火種になりかねないのですけれど。
もう完全に放心状態の領主様はともかく、いくら地方の小領とはいえ反乱勢力が領主の住処を襲撃した話が王都に伝われば、王国の威信を守るためにも相応の対応が取られるものと思われます。
ですが、しかし。
『くかかっ、安心せよ。どうせ、近いうちにそれどころではなくなるからな。国がこの件に首を突っ込んでくることはあるまいよ』
いったい何を企んでいるのやら?
あまり深く考えたくはないですし、できることなら関わりたくもないですが、なにしろ今のわたしは見るからに邪悪な笑みを浮かべている神様のペットも同然。まず間違いなく巻き込まれることになるのでしょうねぇ……。
◆◆◆
各村からお越しの皆さんが、大量のお土産を手に帰った後のこと。
廃墟と化したはずの領主屋敷の前に残った我々が何をしているかと申しますと、
『かかっ、なかなか良いコックを雇っているではないか、領主。だが……ほれ、もう皿が空いてしまったぞ? 疾く次を持てい』
「は、ははっ、ただちに!? おい、ラメンティア様がお待ちだ! 早くっ、頼むから急いでくれ……!」
その領主屋敷の食堂にて、テーブルを埋め尽くさんばかりのご馳走を堪能しておりました。別に先程まで破壊活動を楽しんでいたラメンティア様が食堂や厨房だけ手心を加えたというわけではなく、パチンと指を鳴らしたらガレキがひとりでに動き出して見る見る間に壊れる前の屋敷へと『復元』されてしまったのです。
そして、その光景を目の当たりにした領主様や部下の皆さんは、その直前までとは別の意味ですっかり心が折れてしまった。より具体的には、神を自称する目の前の女性が単に頭のおかしい乱暴者などではなく、本物の神様だと信じざるを得なくなってしまったのでしょう。
単なるオマケであるわたしにさえビクビク脅える様は、見ていて可哀想になるほどでした。それはそうと、出てくる料理は遠慮せず頂いておりますが。
『サヤも遠慮などするでないぞ。ほれ、喰え喰え!』
「え、ええ、いただいてます……いやぁ、こんな高そうなご飯食べるの初めてですよ」
大半の食料は持って行かれてしまいましたが、麦粒一つ残らぬほど根こそぎになったわけではありません。ラメンティア様の慈悲……なのか、それとも単にご自分が食べる分を残すためだったのかは不明ですが、少なくとも今日明日で屋敷内の食べ物が枯渇するほどではないでしょう。
そうして残った食材を屋敷で雇われている料理人の方が調理した夕食は、わたしにとっては初めて見るほどの大ご馳走。流石はプロの料理人の仕事と言うべきか。とても残り物で工夫したモノとは思えません。ちょっと気を抜くとラメンティア様とツルギ様によって片っ端から食い尽くされてしまうので、ゆっくり味わう余裕もなく早食いを強いられてしまったのが少々心残りではありますが。
さて、そんな慌ただしい食事も終わりかけた頃のこと。
『そうそう、二人とも。さっきの家探しの途中で見かけたんだけど、この屋敷には大きめの浴室があるようでね。食事が始まる前にメイドさんに頼んでお風呂の支度を頼んでおいたんだ。そろそろ沸いた頃合いじゃないかな』
『ほう、でかしたぞツルギ! では、早速参るぞサヤ。神の身に触れることを許すゆえ、悪の背中を流させてやろう』
ちゃんとしたお風呂なんていつぶりでしょう。
ここ数年はお湯か水に浸した布で身体を拭うか、夏場なら人目につかない川沿いの木陰で水浴びをする程度。それも最近は川の水が濁ってできなくなっていました。
ここまでの過程に思うところは多々あれど、まさか死を覚悟した翌日にご馳走やお風呂を堪能することになろうとは。悪の神様の御利益には凄まじいものがあるようですね。
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