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王国の白き監獄

こんにちはー!ピーナッツです。ぜひ楽しんで読んでいってください!行ってらっしゃい!

揺れ動く荷台の木板が、傷ついた背中に容赦なく突き刺さる。

意識は濁流の中に沈んでいるかのようだった。時折、視界が明滅し、窓の外を流れる異国の街並みがまるで走馬灯のように脳裏を焼き付ける。高くそびえる石造りの尖塔、人々のざわめき、そして行き交う馬車の轟音。すべてが僕にとっては、現実感のない幻影のようだった。

病院へと運ばれる間、僕は何度も意識を失いかけた。そのたびに、誰かの温かな手が右肩を冷やしてくれているような錯覚に陥る。

(……彼女か?)

淡い期待を抱いて目を凝らすが、視界にあるのは質素な荷台の天井と、吹き込む乾いた風だけ。少女の姿はどこにもなかった。

やがて、荷台が停止した。

重厚な扉が開かれ、冷たい夜気が流れ込んでくる。そこは、街の喧騒から隔絶された場所だった。

「……着いたぞ。ここが『聖王国ルミナリア』王立中央病院だ」

男の言葉通り、そこは避難所とは比較にならないほど巨大で、冷徹な威圧感を放つ白亜の殿堂だった。

運ばれていく僕の視界には、清潔すぎるほどに白い廊下が映る。壁には紋章が刻まれ、魔導の灯りが異様なほど明るく点灯していた。

「おい、重症患者だ。戦場の生存者だが、魔法の適応が極めて異常でな」

男の声に、白衣を着た医官たちが一斉に振り返る。彼らの瞳には、同情など微塵もなかった。あるのは、未知の個体に対する露骨な好奇心と、値踏みするような視線だけだ。

「……また、あの大罪を犯したような力を持つ者か」

「噂の『因果の先出し』……。肉体の崩壊が酷いな。これほどまでになって、まだ生かされているとは。……おい、治癒魔法はかけるな。このスキルが魔法に干渉して、かえって組織を破壊する可能性がある」

医官たちは手早く僕を診察台に固定した。彼らは僕の能力が、この国の理屈から外れたものであると知っているようだ。しかし、彼らはそれを「治療」しようとはしなかった。

「この身体、魔力を完全に弾いている。これほど強力な斥力を放つ個体は見たことがないな。我々が知る治癒魔法ごときが効くはずがない」

「当然だ。彼の『因果の先出し』という異能は、魔導の理から外れた代物だ。そもそも、この異能を持つ者のことは上層部以外には秘匿されているはずだぞ。余計な口を利くな」

麻酔も、痛みの緩和も与えられない。彼らは僕の肉体を、一つの「解剖標本」として扱った。僕の意識が朦朧とする中で、彼らの冷たい会話だけが鮮明に響く。

「寿命を前借して因果を変えるたび、魂がすり減っていく……。まるで、燃え尽きるロウソクだな。……おい、彼を治せるのは、王宮に仕える極めて限られた『素』を操る魔導師だけだ。我々には何の手出しもできん」

治療ではない。これは観察だ。

僕は、見知らぬ天井の下で、逃げ場のない檻に閉じ込められたことに気づいた。彼女がここへ来るために莫大な代償を払ったと聞いたが、その場所で待っていたのは、僕の人間性を剥ぎ取る病院の冷酷な実態だった。

深夜、激痛で目が覚めた。

誰もいない病室で、僕は天井を見つめる。

右腕は重く、感覚が遠い。僕はもう、自分が何者なのかさえ思い出せなくなっていた。

――その時、ふと廊下の方から、聞き覚えのある足音が聞こえた気がした。

かすかな衣擦れの音。そして、息を殺した忍び足。

扉がわずかに開き、月明かりが細く差し込む。

そこに立っていたのは、質素な服を纏った、あの少女だった。

「……やっと、見つけた」

彼女は周囲を警戒しながら、僕の元へと駆け寄る。その手には、病院の医官たちが使っていたものとは明らかに違う、清らかな光を宿した小さな小瓶が握られていた。

「ごめんなさい、遅くなって。……あなたを、必ずここから連れ出すから」

彼女の瞳に浮かぶ涙は、あの泥の中で見たものと同じだ。

僕は弱々しく口を開いた。

「……なぜ、そこまで。僕の力は、呪われていると言われた。魔法さえ効かない、救いようのない体だ」

少女は僕の手を握った。その瞬間、彼女の手から、信じられないほど繊細な魔力が僕の体内へと流れ込んできた。それは僕の能力に弾かれることなく、まるで寄り添うように優しく、しかし確かな手応えを持って僕の裂けた肉を塞いでいく。

その温もりに、僕はただ圧倒されるしかなかった。魔法というよりは、彼女という存在そのものが、僕の傷を癒やしているかのような感覚。僕には、なぜ彼女の力だけが特別なのか、その理屈は全く理解できなかった。

「……あなたが私にとっての『希望』だからよ。……さあ、行くわよ。この白き監獄から」

彼女の言葉に、僕の凍りついていた因果が微かに凪いだ。

僕は彼女の手を握り返し、この先の見えない脱獄の準備を始めた。彼女が何者なのかも、なぜこれほどの力を持っているのかも分からない。けれど、今の僕には、彼女という「現実」だけが、唯一の救いだった。

読んでいただきありがとうございました♪また帰ってきてください。それじゃあまた次の物語で!see you again!


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