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見知らぬ救済

こんにちはー!ピーナッツです。ぜひ楽しんで読んでいってください!行ってらっしゃい!

――静寂が、世界を支配していた。

大地を揺らしていた数千の魔族たちの叫びは消え、ただ黒い霧が、彼らが消滅した跡に渦巻いている。焼けるような硫黄の匂いと、鉄錆の匂いが混じり合い、鼻の奥を突き刺す。

僕は泥の中に顔を突っ伏したまま、激しい呼吸を繰り返していた。肺が焼けるように熱い。喉から溢れる血液が、自分の意志とは裏腹に泥を赤く染め上げていく。視界は真っ赤に染まったままで、右肩の先にはもう感覚がない。腕が、肩の付け根から弾け飛んでしまったのではないかというほどの鋭い鈍痛が、脳を何度も叩いている。

(……助けてくれ)

助けを求める言葉が、喉から血と共に漏れ出た。

この痛みは異常だ。このままでは死ぬ。かつての自分が、今の自分を見たら悲鳴を上げるだろう。

死の恐怖が、僕の理性を焼き切る。

僕は自分の能力に縋った。

未来の結果を強制する。ならば、「治癒」の結果も先出しできるはずだ。

「……久世慎の傷は、癒えた」

震える喉で、絞り出すようにそう告げた。

因果をねじ曲げ、傷を消失させる「結果」を今この瞬間に確定させる。

だが、その瞬間だった。

――バキリ、という湿った音が体内で響いた。

「が、ぁっ……!」

傷を癒やすための「エネルギー」が供給されるはずが、僕の体はその莫大な負荷に耐えきれなかった。

強制的に傷を塞ごうとする理の力が、逆に骨を軋ませ、内臓を圧迫する。治癒されるどころか、無理やり肉を縫い合わせるような激痛が全身を襲い、僕は自分の血を大量に吐き散らした。

失敗だ。

僕の能力は「勝利」という外向きの結果には強くても、自分自身の「生存」という内向きの結果を強要するほど、この肉体は頑丈にできていない。

(……ああ、そうか。僕は、自分自身さえ救えないのか)

絶望が、体温を奪っていく。

泥を蹴る足音が近づいてくる。指揮官とその護衛だ。彼らは僕が血を吐きながらもがく姿を、ゴミを見るような冷徹な瞳で見下ろした。

「……お前か。この地獄のような惨状を、たった一人で成し遂げたのは」

男は冷淡に報告書を指先で弾く。

「『因果の先出し』か。……随分と無様な姿だな。その不完全な能力で治癒を試みたか? 貴様の肉体は、魔法に対する許容度も限界に近い。今それをやれば内臓が破裂するのは当然だ。……大人しく、ここで果てるがいい。それが貴様の『勝利』の末路だ」

男は冷酷に踵を返し、部下たちを引き連れて去っていった。

助けは、来ない。

意識が急速に遠のいていく。誰からも名前を呼ばれず、ただの「欠陥スキルを持つ消耗品」として、冷たい泥の中で死んでいく。

その時だった。

「……嘘、でしょう?」

風に混じって、そんな声が聞こえた。

泥を跳ね上げ、誰かが僕の側まで駆け寄ってくる。その細い腕が、震えながら僕の肩を抱きかかえた。指揮官のような冷たさではなく、生きている人間の、熱い体温。

「……誰、だ」

意識が途切れる直前、僕は彼女の顔を認識しようと目を凝らした。

濡れた瞳で僕を見下ろしているのは、見たこともない騎士の少女だった。彼女は僕の胸元に耳を当て、かすかな鼓動を確認すると、安堵したように息を吐いた。

「……死なせない。この場所から、絶対に連れ出すわ」

その言葉を聞いた瞬間、限界を超えていた僕の意識は、糸が切れるようにプツリと途絶えた。

暗い闇の中で、彼女の体温だけが、唯一の現実として僕の意識を繋ぎ止めていたが、それも束の間、僕を深い深淵へと引きずり込んでいった。

読んでいただきありがとうございました♪また帰ってきてください。それじゃあまた次の物語で!see you again!


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