はちじゅー
初めての実写配信と、親会社の方とはいえ初めてファンの方と直接関わる、というとんでも体験をし、その余韻も消えないうちに次のプロジェクトに向けて本格的に忙しくなった。
こよみとの事や、両親やひろみ姉さんとの血のつながりについて、不安になったり気に病む暇もないくらいに。
逆にそれで良かったのかもしれないけど…。あれからこよみも何も言ってこなくなったし、こよみ本人も忙しいと聞いてる。
その理由というのが、大きなドームを貸し切って行われるニューホープの一大イベントが迫っているから。
今年で四回目になるのだけど、過去一で規模が大きいそう。
年々ファンの人やメンバーも増えた結果だと社長ちゃんは言っていたけど、大凡の総工費を聞いて頭が真っ白になった。
絶対に失敗やミスなんて出来ない。
と思っていたのに…。
色々なプレッシャーのせいかわらないけど、ついに今日はダンスや歌のレッスンでミスを繰り返し、スタッフの方や同期のヴィオラさんとマローネさんにすごく迷惑をかけてしまって…。
心配してくれるお二人にも謝ることしかできず。
部屋で一人落ち込んでいたら、来客が…。
対応に出ると、パルム先輩が…。
「どうかされましたか?」
「それは私のセリフだと思うけど? 少しお邪魔するね」
パルム先輩はいつもと違い、かなり強引に部屋へと入ってきて、何がなんだかわからなくて戸惑ってしまう。
「アルジェちゃん、そこに座りなさい」
いつもと違い、少しキツイ言い方のパルム先輩にビクッとして、指定された向かい側へと座る。
「最近どうしたの? なにか悩みがあるなら話してくれないかな。 私が前に言ったことをもう忘れちゃった?」
「えーっと…」
「同じ事を繰り返すのはよくないよ。一人で悩まないようにっていったよね?」
「はい…」
「なにか言いづらいことなの?」
「いえ…そうではなくて…」
悩みというか単にプレッシャーに負けて萎縮してるというのか、自分でもどうしてこんなに上手くいかないのかわからない。
それをどう言葉にしていいかもよくわからなくて、誰にも相談できないまま…。
「ヴィオラとマローネもすごく心配してたよ。 確かに最近は私も含めみんなが忙しいから声をかけづらいのはわかるよ?でも今のままではよくないのはわかるよね?」
「はい…」
「私には話したくない? 他の誰かなら話せる?」
「そうではなくて…。 多分…えーっと…怖い…んだと思います…」
「え…私がってこと?」
「いえいえ! イベントが、です。 たくさんのスタッフの方や、高額のお金をかけたイベントですよね?僕がもし何かミスをしたら…って考えたら…」
「ああ、なるほどね。 そういう事ならすぐ言ってくれれば良かったのに」
自分でもこの今の感情というのがよくわからなくて言葉にできてなかったから…。
「アルジェちゃん達、五期生にとっては初めての大きなリアルイベントだもんね」
「はい…」
「あのね、ミスなんてみんな当たり前にするよ? スタッフも私達もみんなね。去年なんてピノが大切なステージの冒頭で派手にコケて、巻き込まれたソフィリナが突き飛ばされてもう大騒ぎ。 当然そのまま映るわけでしょ?でもそれすら盛り上がったくらい。 つまりね、普段通りでいいんだよ。 みんなが見たいのはそういうアルジェちゃんなんだよ。 考えてもみて? いつもの配信と違うアルジェちゃんをみんなが見に来ると思う? そりゃあ、普段見れない姿を見たい! ってのもあるだろうけど、ミスを気にして楽しんでないアルジェちゃんなんてのは誰も見たくないんだよ。 このイベントは私達もだし、見に来る人たちもみんなが楽しむためのものなの。ミスなんてイベントを彩るスパイスの一つでしかないんだよ。仮に大きなミスがあったって、みんなで創り上げるイベントなんだから当然みんなでフォローする。ちがう?」
「はい…」
パルム先輩の言葉はすっと耳に入ってきてストンと心に落ち、ものすごく気持ちが軽くなったのがわかった。
「ありがとうございます。そうですよね…楽しまなくてはみんなも楽しめないですもんね」
「そうだよ。 アルガードのみんなも、他のみんなもそう。楽しんでる私達を見に来るの。それでみんなと一緒に盛り上げて更に楽しいものにしていくんだよ。お祭りなんだからこのイベントは」
「はい」
「ふふっ、やっと笑顔になった。 私達ってそんなに頼りない先輩かな?って不安になったよ」
「そんな…」
「冗談だよ。 ヴィオラ達もその笑顔を見たら安心するだろうね。 いい?もしまた悩むなら誰でもいいから話すんだよ?」
「わかりました。ありがとうございます…。 少し気晴らしするためにもキッチンエリアでなにか作ろうと思います」
「いいね。 最近はそんな暇もなかったもんね? みんな喜ぶよ」
パルム先輩と一緒に部屋を出ようとしたところで、後ろから急に抱きしめられてびっくりした。
「無理しなくていいから。いつでも頼ってね? 一人で抱え込むのは絶対によくないんだから」
「はい…」
「私は頼りない?」
「そんな訳ありません!」
「ならいいけど…。 …ねぇ、アルジェちゃん。……私と…その…付き合わない?」
「えっ…」
「食事にとかそういうベタなボケはやめてね? 真剣に恋人にならない?って話し」
「ええっ!? パルム先輩とですか!?」
「私じゃ嫌なの!? 年上は無理とか?」
「そうではなくて、突然でびっくりしすぎて…。だってパルム先輩みたいにきれいで大人な人にそんなこと言ってもらえるなんて想像もしてなくて…。いつもみたいな冗談でからかわれているのかと」
「あーだからかぁ。 結構アピールしてたつもりだったんだけど、冗談みたいにしてたこっちも悪かったんだね。手応えないなーと思ってたら…それが原因かぁ。 アルジェちゃんも恋愛の対象じゃなく大人として見てたんだね?」
「恋愛経験もないので…。ずっとからかわれているのだとばかり…。周りは皆さん大人の女性ばかりですし、冗談を真に受けてしまってイレギュラーな僕が迷惑かけないようにと…」
「気を使ってたんだ?」
「変に意識してしまったりしてご迷惑をかけないように気をつけていた…ですかね」
「なるほどね。 じゃあ今は意識してくれた?」
「…はい…。めちゃくちゃドキドキしてます…」
「そっかそっか!」
これが喉から心臓が出そうって表現されるアレかな?って思うくらいには心臓がバクバクしてる…。
「アルジェちゃんいるー?」
ガチャっとドアが空いて入ってきたのはピノ先輩。
「あ、ヤバっ…」
「パルム?」
「いや…えーっとこれには深ーい訳が…。というかノックもなしにいきなり後輩の部屋の扉開けるか?ふつー」
ピノ先輩は無言でスマホを操作。
「ちょ、やめ! ピノ!?」
焦るパルム先輩の抱きしめる力が強い…。ちょっと苦しいけど、今度は恥ずかしくなってきた。意識しちゃうとこんなに変わるものなの!?
「あ、メルティ先輩ですか? パルムが裏切りましたー。 はい、もうまさに今、現場を押さえました」
「ああもう…。こいつはほんと最悪のタイミングで来るんだから!」
「せ、先輩ちょっと苦しいです…」
「あ、ごめんね」
離してはもらえたけど、まだドキドキしてる。恥ずかしくて先輩の顔見れないかも…。
「アルジェちゃん、大丈夫? パルムに何もされてない?」
「え…」
「は?ちょっと! なんでほほ赤らめてるの!?ねぇ! え、可愛い…」
「ピノ、あんたは何でもいいのか…」
「いや、だって…。こんなアルジェちゃん見たことないし」
「そう?」
前に廻ってこられたパルム先輩の顔を直視できなくて。つい目をそらしてしまう。
「うわ、可愛い…」
「でしょ? 何したんだよぉ…あんな事やこんなことするなら混ぜてよ!」
「ピノ、ほんとにバカだろ…」
「いいじゃんー! 三人でも四人でも私はウエルカム!」
「絶対に嫌だから!」
「っはぁ…はぁ…アルジェちゃんは…無事…?」
息を切らせて部屋に駆け込んできたのはメルティ先輩。なんか人が増えていってる……。どうしよう。
「メルティ先輩、見てください!」
「え…かあいぃ……」
みんなで僕の顔を覗き込むのはやめてください…。
「とりあえずパルムはぎるてぃー…。 言い訳ある…?」
「ありません…」
「じゃあやっぱりもうやっちゃったの!?」
「違うわ! ピノはすぐ話をそっち方面へ持っていくな!」
先輩達の賑やかな話し声も耳に入らないくらい、僕の頭の中はパルム先輩に言われたセリフでいっぱいだった。
さっきのっていわゆる告白ってやつだよね。今回のはからかわれたのとは違う。流石にそれくらいは僕でもわかる…。
どうしよう。え…どうしよう!?




