はちじゅーいち
ドキドキしたままキッチンエリアにはいけず…。というより、先輩方に”そんな状態で部屋の外を歩いたらダメ!” と自室へと押し戻された。
リビングで座る様言われて…。
「さてとメルティ先輩、パルムをどう処します?」
「まず何をしたのか…それだけは聞く…。どうするかはそれから決める…」
「別に何もしてませんって!」
「手出してたよね? ほら!」
「おま…いつの間に写真とった!? 後で送ってそれ」
「断るね!」
僕の部屋に女の人が三人。今までは年上の大人な女性ばかりだから、色々と気をつけなきゃという方へばかり意識がいってたけど、今はもうこの状況にすらドキドキしてしまう。
「アルジェちゃん、パルムに何もされてない…?」
「え…は、はい! 最近イベントに向けて色々と忙しかったんですけど、ここ何日かはミスとか失敗ばかりしてしまって落ち込んでたんです」
「それは知ってる…。今日くらいに話を聞こうかと思ってたんだけど…先を越されたね…」
「抜け駆けですよ、パルムのは!」
「やっとなんとか時間を空けたんだからいいでしょ!?」
「二人は少し黙って…!」
「「はい…」」
「悩みは解決したの…?」
「はい! それはパルム先輩が……」
話を聞いてくれたし、あんな事まで言ってくれて…悩みなんてぜーんぶ吹っ飛んだ。
「何したの…?そんな真っ赤になってパルムと何したの!?」
「だから何もしてませって! 悩みを聞いただけです!」
「じゃあこれはどう説明するんだよ? 全部吐け!」
「慰めようかなーって…」
「それで?」
「……私と付き合わない?と…恋人になれば悩みも打ち明けやすくなるだろうし、私もそばに居る理由が出来るし…」
「ギルティーだ!!」
「別に告白するくらいいいでしょ!? こよみちゃんだってしたんだから」
「パルムにそんな度胸があった事にびっくり…」
「ひどくないですかメルティ先輩。私だって負けられない時もありますよ」
「返事は…?」
「ピノに邪魔されて…」
「邪魔した私、ナイス!」
「ほんっとタイミング最悪だよ。今回ばかりはガチで恨むから!」
「なら私もいいよね…。アルジェちゃん?」
「は、はい!?」
メルティ先輩が突然僕を抱きしめてきたからまた頭が真っ白に。
「私もアルジェちゃんが好き…。本気で嫁に欲しい…」
「ええ!? それって前にも言われましたけど冗談では…」
「ないよ…。 そんな嘘っぽかった?」
「い、いえ…。僕なんてまだ子供ですし、からかわれてるのだとばかり…」
「メルティ先輩、アルジェちゃんはここに来てからずーっと私達に迷惑かけないよう気をつけていたみたいで…。自分一人だけ男の子だからと。 あとは私達のが歳上なのもあって、そもそも恋愛対象として意識してなかったみたいです」
「なるほど…? え…年上苦手…!?」
「今の様子を見るに、そういうわけではないみたいですが…。急に意識してしまってこんな感じに可愛くなってます」
「ああ…。よかった…。歳上は無理とか言われたら数年落ち込むところだった…」
「それ、本気で婚期逃しますって…グフッ…いきなり…殴ります? ゲホッゲホッ…」
「今のは明らかにピノが悪い。あんたも私も似たようなもんでしょうが」
「私は別に結婚とかはどうでもいいかなー。愛人枠でいいし! 結婚しなくても子供は産める!」
「ピノの性癖に巻き込むな!」
パルム先輩だけじゃなく、メルティ先輩まで…。
え…もう意味がわからない。後輩として可愛がってもらえてるとは思ってたけど、ここまではとは予想外すぎる。
「答えは焦らなくていい…。妹ちゃんとか、家族のこともあるでしょ…?ただ、アルジェちゃんの返事次第でいつでも恋人になるつもりなのは覚えておいて…?」
「はい…。わかりました…。ありがとうございます。今はびっくりしすぎててどうしていいかもわからないので…」
「あーあ。一人勝ちのチャンスをピノに邪魔された!」
「ピノナイス…」
「ま、最後に勝つのは私ですけどね!」
「「ピノはないわー」」
その後、紲さんが部屋に来るまで、パルム先輩とメルティ先輩に耳元で色々と囁かれ…。
こういうお仕事をしている、声の良いお二人だからこそ余計に破壊力が凄い。まるで有料のASMRボイスを独り占めしているような贅沢。ファンの人に恨まれるなーとかちょっと現実逃避。
ピノ先輩だけはずーっと意味のわからないことを言ってた。だいたいは途中でパルム先輩かメルティ先輩に殴られて最後まで言わせてもらえないからだったけど…。懲りないピノ先輩が逞し過ぎる…。
ほんと、紲さんが部屋に来て先輩方を止めてくれなかったらどうなってたか…。ものすごいため息をついてたけど。
僕自身もあんなに囁かれてたら恥ずかしさに耐えられなくておかしくなってたかも。
「最近はおとなしくしてるから安心してましたが、こんなタイミングで進展しなくてもいいのでは?今は色恋にうつつを抜かしてる暇なんてありませんよ! ほらほら! それぞれマネージャーから呼び出しも来ているはずです」
「私はちゃんと話してから来てるって」
「私も!」
「当然…」
「わかりましたから! 私がアルジェさんに話があるので部屋を出てください! 大切な話なんです!」
「え、紲ちゃんも!?」
「仕事の話です!! 邪魔されるのなら社長ちゃんにすべて報告しますよ?」
いつもは怒ることも声を荒げることもない紲さんにピシャリといわれて、先輩達も渋々といった様子だったけど、部屋を出ていかれた。
「大丈夫ですか?アルジェさん」
「はい…。ちょっと色々と驚く事が重なりすぎて頭の整理もできてませんが…」
「打ち合わせできそうですか?」
「お茶淹れますね。僕も少し落ち着きたいですし…」
「それがいいかもしれませんね」
いつも通りの優しい口調の紲さんの声に少し落ち着けたかも。
二人分のお茶とお菓子を出して、今後の打ち合わせ。
一度キッチンに立つと落ち着くのはなんだろう。わからないけど、今後も何かあったらキッチンに立とう。きっとそれが一番いい気がする。
「悩みの方は解消されたようですね?」
「はい。パルム先輩に話を聞いていただいて、イベントに関する不安はなくなりました」
「良かったです。 なのに、またイベント関連のお話で申し訳ありませんが…」
「今、一番大切な内容ですから聞かせてください」
「ではまずはこちらから…」
紲さんがそう言って手持ちの大きな紙袋から出して並べたのは、今回のイベントで販売される各種グッズ。
こよみはこれらの絵を書いたりとかもしてたから忙しかったと聞いてる。今は会場に映し出す、描き下ろしの立ち絵を書いてるんだって言ってたっけ。
Tシャツにアクリルキーホルダー、アクリルフィギュア。これらは絵柄違いでいくつも種類がある。
基本は中身のわかるもので、当日に買えなかった場合は注文ができて、後日宅配で届くそう。
他にも色々とグッズはあるけど、一番の目玉はやっぱりフィギュアドールかも。これだけは本当に会場限定の特別仕様。
「当日に限定販売されるフィギュアドールは全員のがフェイスリンクシステムの搭載された物になります」
「僕のフィギュアドール以降はヴィオラさんのもマローネさんのもそうじゃなかったです?」
「ええ。 なので五期生のは再販分と、新衣装も付属した特別仕様になります」
別売りで即日完売してた衣装と髪型のセットのやつだね。
「プラスで当日販売分には直筆サインの入った箔押しカードが入るので、プレミア感は相当高いと思います」
「何日かに分けてサインしたカードの事ですよね」
何枚だっけ…。他にも直筆サインのはいるグッズはあるから、結構な枚数書いたと思う。何枚かはメッセージも書いた記憶があるし。
一通り全部のグッズは見せてもらったけど、小物から大きなものまで相当な量。
一番大きいのはやっぱりコスプレ衣装かな。これは受注生産という形になるそうで、実際に手元に届くのは結構先になるんじゃないかな。
初期衣装と新衣装両方ちゃんとあって、僕も当日にどちらも着る予定。
ステージでちゃんと反映されるそうだから…最新技術がすごい。
「あとは…そうですね…。 ファストフード店とのコラボ期間がそろそろ終わりますが、どこかの店舗に顔を出されましたか?」
「行ってる時間がなくて…。一度は行ってみたかったんですけど」
「でしたら今から行きましょうか。ちょうどお食事の時間も近いですし」
時計を見ると確かにそんな時間。
「いいんですか?」
「折角ですし! 柚希に車を回させますね」
紲さんは”気分転換にもいいでしょう”って僕を外へと連れ出してくれた。多分…というか間違いなく紲さんにも心配かけてたんだと思う。




