番外編 ヴァーチャルライバーの里帰り
お盆休みという事で思いついて書いてみたネタです。
お盆休み。
世間では長期休みとか、学生なら夏休みの真っ最中。
僕らみたいな仕事をしてるとあまり関係はないのだけど、夏休みに入ってからほぼ会社に入り浸ってるこよみにしつこく言われて、里帰りをすることにした。
マネージャーの紲さんにも話したら、お盆の間は企業案件もないから休んでも大丈夫だと許可ももらえた。
「ついでだからちっとも帰ってこないひろ姉も迎えに行くよ」
「いいね、お母さんも心配してたし…」
あのひろみ姉さんが素直に応じるかはわからないけど、頑張って説得しよう。
社長ちゃんと副社長ちゃんにも挨拶をして、一泊だけ実家に帰ると報告。
「もっとゆっくりしてきていいのよ?」
「うむ。最近はずっと忙しかったでしょう。ニューホープのスタッフも交代で休みをとってるからゆっくりしておいで」
「ありがとうございます」
社長ちゃん達も何日かのんびりするそう。会話から南国へ旅に行くみたいな雰囲気。
さすが社長ちゃん。お金持ちだ…。
会社におられた先輩方にも挨拶して、会えなかった人には社内メッセージの方で報告。
すぐに返事が…。
「すっごい反応。さすがアルジェちゃん、会社のアイドル」
「やめてよ…。みなさんご飯どうしよう?って困ってるだけだよ」
「アルジェちゃんがそう思うのならそうなんだろうね?」
含みのある言い方するね?
キッチンエリアの冷蔵庫にたくさん作り置きしておきました。とメッセージを送ったら今度はお礼のメッセージで埋め尽くされた。
「うちのお兄ちゃんが小悪魔すぎる件について」
「なにそれ…」
「一度絶望に叩き落としてからの救済とかそれ以外にある!?」
そんなこと言われても…。
紲さんがひろみ姉さんのマンションまで送りましょうか?って言ってくれたけど、今回は一人でもなくこよみもいるから大丈夫だと思う。
何より紲さんも里帰りすると聞いているから手間をかけたくない。
「タクシー呼んだからね」
「そうなの?」
「当たり前でしょう。 またストーカーに出会ったらどうするの!」
もう平気だと思うけど、妹のこよみもいるのだから油断したらだめだね。
タクシー代もちゃんと経費で落ちるし…。
会社の前には社員の人がいつも利用してるタクシー会社の車が。
待たせちゃったかな。
「すみません、お待たせしました」
「大丈夫ですよ。いつもご利用ありがとうございます。本日はどちらへ?」
「○○マンションへお願いします」
「了解しました」
ひろみ姉さんの住んでるマンションは結構高級なところだから、名前を言うだけですぐに伝わるのは楽だよね。
5分足らずでマンションの下に到着。
「すみません、すぐに戻るので待っててもらえますか?」
「大丈夫ですよ」
こよみ?
「行くよ!」
手を引っ張られるようにしてひろみ姉さんのマンションへ。
部屋に行くと、ひろみ姉さんがきちんとお出かけスタイルで待っててびっくり。
「ひろみ姉さん出かけるところだったの?」
「何を言ってる。一緒に家に帰るんだろう?」
まさかこよみが先に連絡しておいたの?
チラッと見るとすっごいドヤ顔。どうやって説得したんだろう。
すぐにマンションを降り、タクシーで自宅までっていうすごい贅沢をしてしまった。
「領収書もらえますか?」
「はい。またのご利用をお待ちしております」
タクシーの運転手さんにお礼を言い、お金を払って降りた。
「お兄ちゃん、領収書貰ってどうするの?」
「会社に渡すとお金返してもらえるんだよ」
「へぇー! すっごい待遇いいね」
「…いや、私的利用は経費で落とす会社は少ないぞ? 仕事での移動ならいざ知らず、帰省の旅費を出す会社なんて聞いたことないぞ」
そうなの!? んーでもいいや。お小遣いで払える程度だし。
「ほれ」
「ひろみ姉さん? いいよ…」
「あのな、弟に出させる姉がいるか。受け取っておけ」
「…ありがとう」
お釣りもいらないってかなり余分にもらってしまった。
久しぶりの実家。
両親もお盆はお休みだから一緒にゆっくりできそう。
「ただいまー! お兄ちゃんと、はくじょーな姉も連れてきたよ!」
こよみはそう叫びながら玄関を入っていく。
「チッ…」
後ろからひろみ姉さんの舌打ちが聞こえて怖い…。
「あらあら…本当にひろみだわ〜。おとうさーん。ひろみが帰ってきたわよ〜!」
「久しぶり…」
「本当によ。 ありがとね、ひろみを連れてきてくれて」
「僕じゃなくてこよみだよ、説得したのは」
「そういうことにしておくわね」
事実なんだけど…。
リビングにはこちらも少し久しぶりのお父さんが。テレビを見ながらのんびりしてて。
僕らが帰ってきたのをあまり気にした様子はないみたい。
「お父さん、あなた達が帰ってくるからって昨日からずっとソワソワしてたのよ」
「そうは見えないんだけど…」
「恥ずかしいのよ。 テレビもさっきまでつけてもいなかったんだから」
へぇー。ちょっと意外。
「ただいま、お父さん」
「お、おう。 最近はどうだ?」
「変わりなくやってるよ。忙しくなったくらい」
「私もだな。特に変わらないぞ」
「そうか…」
「……」
会話終わった…。
「お父さんってば照れちゃって! ほら押しのアルジェちゃんだよ!」
「え…」
「お父さん、アルジェちゃんの動画欠かさず見てるんだよ」
そうなの!?なんかちょっと恥ずかしいんだけど…。
「お母さんも一緒に見てるわよ〜。楽しそうにしてて本当に良かったわ。社長さんには本当に感謝ね」
「うん、本当に僕もそう思ってるよ。 もちろん、きっかけをくれたこよみにも、初めるのを許してくれて、お金まで出してくれたお父さんとお母さんにも。 お仕事をさせてくれたひろみ姉さんにもね」
そんな話をしていたらチャイムがなった。
来客…?
お母さんが対応に出たんだけど、すぐにひろみ姉さんを呼び寄せた。
姉さんのお客様だったのかな。
あ、今のうちに聞いとこう。
「こよみ、どうやってひろみ姉さんを説得したの?」
「簡単な話だよ。 アルジェちゃんと里帰りするから付いてきてって」
「それでひろみ姉さんが動くわけが…」
「またストーカーに狙われるかもなぁー。心配だよねーって言ったらすぐにオッケーくれたよ」
「ひどくない? 騙すみたいな事をして…」
「実際に危ないかもだし、わからないでしょう?」
確かにそうだけど…。ごめん、ひろみ姉さん。 でもおかげで一緒に帰ってこれたのだからよかったのか?もうわからなくなってきたよ…。
とりあえずわかったのはこよみが策士だって事。絶対に敵わない。
「凄い荷物だな。 本当に全部うち宛なのか?」
「ええ…何度も確認したわ。 差し出し人は………え…」
「誰だ? 不信物なら…」
「いえ…」
お母さんが僕をじっと見てくる。なんだろう?
「城太郎、うちにお中元送ったかしら?」
「あ、うん! 会社からね。社長ちゃんにカタログを見せてもらって、マネージャーさんにお願いしてうちへ送ってもらったよ」
「これ全部か!?」
「そんなに多かったかな? みんなの好きそうなものをそれぞれ選んだつもりなんだけど…」
「せっかくお兄ちゃんが送ってくれたんだし開けてみようよ!」
こよみがとりなしてくれて、みんなで箱を開けていく。
お母さんにはお料理に使える昆布とかの詰め合わせと、美味しそうなお菓子。
お父さんにはお酒の飲み比べセット。結構高級品だって社長ちゃんが言ってたっけ…。
こよみには好きだったと記憶してるブランドの服とか小物の福袋みたいなものを。
後はみんなで食べられるようにと全国の名産、美味しいもの詰め合わせ。
「あ、ひろみ姉さんのはマンションの方へ送っちゃった…」
「私にもか!? 朝に受け取った荷物がまさかそれだったのか…。出かける準備で忙しくて確認しそびれたな」
「うん…だってひろみ姉さんにもお世話になったし」
ひろみ姉さんにも当然お酒とおつまみのセット。
「アルジェ…じゃない、城太郎。 嬉しいけど、こんな気を使わなくていいんだぞ?」
「でも、せっかく自分でお金を稼げだから何かしたかったんだよ」
「そうか…ありがとな」
お父さんも喜んでくれてよかった。さらっとアルジェと呼ばれたけど…。
「お兄ちゃんありがとう! 高かったでしょう、こんなに…」
「わかんない。社長ちゃんにお願いしてお給料から天引きしてもらうようにしてもらったから」
「あまり無理しないのよ?気持ちだけで嬉しいのだから。なによりこうやって帰ってきてくれるのが一番嬉しいのだから」
「うん。時間のある時にはちゃんと帰ってくるよ」
ひろみ姉さんが帰らなくなって寂しがってたお母さんを見てるからね。
「お兄ちゃん、もしかして会社の人にも送ったりしてない?」
「当然送ったよ。お世話になったもん。会社に届くようにしたけどね」
先輩方の住んでる場所の住所なんて知らないから仕方がないよね。ピノ先輩みたいに会社に住んでる人もいるし。今頃たくさん荷物が届いてるかもしれないね。
「はぁ…。お兄ちゃんはまったくもうだよ!」
「ええ…なんでこよみに怒られなくちゃいけないの」
お世話になったのに送らないのは違うよね?
「まあいいじゃないかこよみ。 せっかくこんなに美味そうなものがあるんだぞ?パーティーしよう、パーティー!」
「ひろ姉はもう酔ってるし!」
早速開けてお父さんと乾杯して飲んでくれてるね。
「あらあら…じゃあ何か作りましょうね」
「お母さん、手伝うよ」
「ありがとう。ひさしぶりね?一緒に台所に立つのも」
「そうだね。 でもお母さんが教えてくれたおかげで会社でも先輩達に美味しいもの食べてもらえたから…。本当にありがとう」
「ふふっ。これならいつでも嫁に出せそうね?」
お母さんまでやめてよ…。
「だからアルジェちゃんは嫁に出さないってば!」
「どうかしらねぇ〜。貰い手ならたくさんいそうよ?」
「私が許しません!」
僕の意志は関与しないんだね…。まず男だってところを強調したいんだけど、最近はこの扱いに慣れてきてしまってる。
悪意があっていじめで言われるのと、会社の先輩たちに言われるのとでは全然違うからかな。
「お兄ちゃんもまんざらじゃない顔しない! え、まさか嫁に行く宛があるの!?」
「違うってば…。 学校で似たようなことを言われてイジメられたのは本当に辛かったのに、今は気にならなくなったから、なんでだろう?って考えてた」
「あ…ごめ…」
「ううん。大丈夫だから。 多分会社の人たちのおかげだよ。僕に居場所をくれたからね」
「それ、言い出したのも面接の仲介をしたのも私だよ!」
「うん、だからこよみにも感謝してるよ。ありがとう」
「あらあら…。 よかったわね…。素敵な会社で素敵な人たちに出会えて」
「本当にそう思う」
変われたのは間違いなくこの仕事を始めたからだもんね。
初めにきっかけをくれたこよみには足を向けて寝られないってやつかも。
本人は不機嫌で、お母さんが窘めてるけど…。
久しぶりの帰省は家族みんなで楽しく過ごし、お父さんとひろみ姉さんは結構酔っ払ってリビングで寝てしまった。
「お父さんね、今日をずっと心待ちにしてたのよ」
「そうは見えなかったけど…」
「照れくさいのよ。あんなに酔うまで飲んだのも随分久しぶりだもの。楽しかったんだと思うわ」
「だったらいいのだけど…」
信じられないなら〜とお母さんは押入れの中を見せてくれた。
そこにはアルジェのグッズがあれもこれも仕舞われてて…。
「普段はリビングや家中に飾ってるの。でも帰ってくるって聞いて慌てて片付けたのよ?可笑しいでしょう?」
「フィギュアドールまであるんだけど…これ、買うの大変だったんじゃない?単純に高いってのもあるけどすぐ品切れたって聞いてるよ」
「お父さんと二人で公式通販サイトにかじりついてたのよ。なんとか一つ買えて良かったわ」
まさか両親がそんな事までしてたなんて…。
「よかったね?アルジェちゃん」
「うん…」
家族に認めてもらえた気がして本当に嬉しい。
ありがとう…。




