ななじゅー
夕食後の片付けもの終わり、こよみと部屋へ戻ってきた。
キャラデザについては、まだ仮だけども社長ちゃんのオッケーが貰えたと見せてもらった。
「前のよりずっとこよみっぽくていいと思うよ」
「可愛いってこと?」
「うん。可愛いと思う。ほんとこよみは絵が上手だよね」
「…絵の方かぁ」
うん?何か僕は答えを間違えたかな。
ちゃんとこよみが書いた絵を見て言ったんだけど…。
「あのね、お兄ちゃん」
「どうしたの、改まって」
正座して真剣な雰囲気だからこっちまで背筋が伸びちゃう。
「もしもだよ?もし私とお兄ちゃんの血が繋がってなかったらどうする?」
「はい? 血のつながりって…つまり本当の兄妹じゃなかったらってこと?」
「そう…」
そんなの考えたこともない。だって記憶にある物心ついた頃から一緒にいたし、義理の兄妹な訳ないもの。
赤ちゃんの頃の写真だってお互いにあるし…。
「想像もできないけど、もしそうだったら流石にちょっとショックかな。だって血のつながりが無いってことは他人って意味でしょ。それはなんか寂しいな」
「…そっか」
「急にどうしてそんな事言い出したの?」
「なんでもない。ちょっと言ってみただけ」
僕が引っ越したせいで、もう兄でもないって言われるのだろうか…。悲しくなるからやめて欲しいなぁ。
「こよみは他人のがよかったの?」
「だって! 他人ならお兄ちゃんと…」
「僕と何?」
「何でもない…」
こよみはそれ以上会話をしてはくれず、和室へと引きこもってしまった。
何だったのだろう。突然あんなこと言うなんて。
気になってなかなか寝付けなくなった僕は、エセル先輩のお休み配信の動画音声を聞きながら眠ることにした。
優しいふわふわとした話し方は聞いてると安心するから…ふわぁ…。おやすみなさい。
エセル先輩ありがとう…ございます…。
…………
……
どれくらい眠っただろうか。重みによる寝苦しさで目が覚めた。
もしかして金縛り…?初めて経験したかも…。
配信のネタになるかな?とか寝ぼけた頭で考えながら目を開けたら、とんでもない格好をしたこよみが馬乗りになって僕の上に乗っかってた。
「起きた…?」
「こんな時間に何してるの。その服、昼間に見せてきたやつだね。パジャマだったの?」
「違う。お兄ちゃんを誘惑するための服。ベビードールっていうの。高かったんだよ?」
ちょっと妹が何言ってるかわからない…。配信のネタとか言ってる場合じゃないなこれ…。
「お兄ちゃんは気になったことないの?」
「何を…」
「お母さんはA型、お父さんはB型。ひろ姉はAB型。私はA型」
えーっと血液型の話かな?
「お兄ちゃんは?」
「Oだね」
「おかしいでしょう?」
「別におかしくはないでしょ」
両親がAOとBOならあり得るわけだし。
つまり、こよみの言う血の繋がり云々の話は、血液型から来てたんだってのは理解した。
「私さ、お兄ちゃんがこっちに引っ越したとき拗ねてたじゃん」
「うん。それはごめんだけど…」
「あの時にお父さんとお母さんから話を聞いたんだよ」
「血液型の話?」
「じゃなくて! 私とお兄ちゃんが血の繋がりがないって話」
え……。嘘だよね?どういうこと!?
慌てて起き上がろうとしたらこよみに押さえつけられて阻止された。力つよ…。
「最後まで聞いて!」
「聞くから降りてよ」
「やだっ!」
えー…。こんな重大なカミングアウトを聞く姿勢ではないと思うんだけど…。
「というわけでね、私をお兄ちゃんの彼女にしてください」
「意味わからないんだけど。こよみは妹だよね?」
「今まではそうだったけど、もう妹でいるのは嫌! ここにいたらお兄ちゃんは絶対にだれかと付き合っちゃうもん」
「へっ…?」
いやいや、なんの話?付き合うって…もしかして先輩の誰かとって話?
無いでしょ。みなさん年上の大人なお姉さんばかりなのに。僕みたいな子供が相手にされるわけがない。
「お願い…養ってくれるって約束したよね?」
「とりあえず落ち着いてよ。突然の話がかさなりすぎてもう意味わからないから。まず、血の繋がりがないって本当なの?」
「うん…」
なんで目をそらす。
「本当のことを言ってよ。流石にこんな内容で嘘をつかれたら僕でもショックだよ?」
「多分本当…」
多分て…。一番有耶無耶にしたら駄目なところだよね。
「お父さんかお母さんに連絡して確認する」
「ダメ!!」
「どうして?嘘だから?」
「違う! 違うけど…とにかくダメ!」
「だったらこよみがちゃんと本当のことを話してよ」
「そうしたら彼女にしてくれる?」
「それとこれとは話が別!」
「じゃあ言わない!」
枕元のスマホを手探りで探して、連絡しようとしたら取り上げられた。
どうしてうちの妹はこうも力が強いかな。僕が貧弱なのかな!?
「とにかく、こよみは妹だから彼女にはなれません! わかったら部屋に帰ってちゃんと寝なさい」
「……お父さんがポロって口を滑らせたんだよ」
こよみは渋々といった様子だけど話し始めた。
僕が引っ越した後、すねてた時に両親と話し合いをしたそう。
その時に、”他の誰かに取られるくらいなら私がお兄ちゃんの彼女になる”と宣言したと。
両親は兄妹なのに何を言ってるんだ?と呆れていたそうなんだけど、お父さんが口を滑らせたらしい。
「”例え血の繋がりはなくても今は兄妹なんだから無理だ”って…。お母さんは慌ててお父さんを止めて取繕おうとしたんだけどね」
「それで血の繋がりがないのを知ったと」
「お兄ちゃん知ってたの?落ち着いてるけど…」
「知らなかったし、落ち着いてもないよ。意味がわからなさ過ぎて混乱してるだけ」
「兄妹でも義理なら大丈夫でしょ?」
「なにが?」
「彼女にもなれるし、結婚だって…」
うちの妹は何を言ってるんだろう。ちっともわからない。仮に義理だったとして、いきなり妹じゃなくなるわけないのに。
ただ、ここでこれ以上こよみを頭ごなしに否定してしまったら、それはそれで兄としてどうなんだ?とも思うし…。
こよみの性格をよく知ってるからこそ、そんな事をしたら更に意固地になるのは目に見えてる。
「こよみ、まずは落ち着こうよ。僕はまだ何もわからないし、両親から一切何も聞かされてもいないのに、判断できるわけないよね?」
「つまり、本当に義理の兄妹だったとしたら付き合ってくれるってこと?」
「仮にそうだったとして、すぐには無理だよ。だってずっと妹だと思ってきたんだから。こよみだって僕から突然、”お前はもう妹じゃない”なんて言われたら嫌じゃない?」
「それは…」
「もし僕が養子かなにかだったら気持ちの整理をする時間もほしいよ…。だって、両親もひろみ姉さんも血の繋がりのない人だってことになるんだから」
「…あっ…。ごめ…」
「こよみが突拍子もないことをしてくれたお陰でショックも半減されたけどね…。明日は忙しいし、今は寝させてくれる?」
「わかった…ごめんなさい」
こよみは謝りはしたものの、部屋に戻ってはくれず…。
いつ以来かぶりに二人で一緒のベッドで寝た。
僕もあんな話を聞かされた後だ、一人だったら寝れなかったかもしれない。そばにいてくれて良かったかも…。
やっぱり家族の存在は大きいよ。例え血の繋がりがなかったとしても…ね。




