ろくじゅーなな
回転寿司でハーティ先輩のコラボメニューを堪能した集まりから数日後、妹のこよみから相談事があるって連絡があり、なんとか予定をあけた。
僕が引っ越してからしばらく不機嫌だったけど、落ち着いたんだろうか…。
最近は僕も本当に忙しくて構えなかったし、時間を取るのも大変だったけど、妹の相談を無下にしたくはないから、紲さんにお願いして予定の調整をしてもらった。
当然、こよみも学校があるから、休みの日に合わせて会社にある僕の部屋に集まった。
「待たせてごめんね、相談ってなんだったの?」
「…私もデビューする」
「うん?」
デビューって…ヴァーチャルライバーって事だよね?
「学校はどうするの?」
「辞めないよ、それはお母さんとお父さんとも約束したから」
「それならいいけど、突然だね」
「元々、社長ちゃんからもどう?って声はかかってたんだよ。ほら、私はアルジェちゃんのママでしょ?アルジェちゃんの人気につられて私も絵師一気に有名になったんだよ」
「そうなんだね…」
未だに妹にママを名乗られるのには抵抗があるけれど、この業界ではそういうものだと無理やり納得している今日この頃。
「てことはヨミとしてデビューするって事?」
「そうなるかな。お絵かき配信とかそういうのを中心にするつもりでね。同期の人たちも、私みたいに絵師の人ばかり集めるんだって」
「へぇ〜。先輩たちのママだったりするのかな」
「そう聞いてるよ。まだ声をかけてる段階らしいけどね」
「すごいね、でもちょっと楽しみかも」
「楽しみ?」
「うん。だってこよみと同じ会社で仕事できるのっていいなーって思うから」
「本当!? 私がいたら嫌とかない?」
「ないない。むしろ居てくれたら心強いくらいだよ」
「よかったぁ…」
こよみは心底ホッとしたように力を抜いてテーブルに突っ伏してしまった。
「相談ってそれだったの?」
「うん…。お兄ちゃんが嫌がるのなら説得するか、どうしても無理なら諦めるか…だったからね」
「学校をやめるとか言うんだったら止めるつもりだったけど、違うならいいよ。せっかくこよみはいい学校に入ったんだから無駄にしたらだめだよ」
「…はい」
「デビューはいつになるの?」
「まだ未定。他の絵師の人達からの返事次第なところもあるし」
「なるほど…みんな忙しかったりするのかな」
「そりゃーね、私だって個人アカウントにソシャゲのキャラ絵の依頼とか結構くるようになったし」
凄っ…。こよみは絵がうまいからなぁ。
「完全にアルジェちゃん効果だけどね」
「いやいや、元々絵はうまかったでしょ」
「名前が売れたのはアルジェちゃんのおかげ」
「そんなこと言ったら僕がこの仕事を始められたのはこよみのおかげでしょ?」
「…そうだった! まァじゃあおあいこってことで」
「わかったよ。こよみはお仕事忙しくないの?」
「大丈夫だよ、個人的な依頼は断ってるからね。元々私もこの会社と契約してる、いわゆる専属絵師みたいなものだし」
「あ、そっか。 じゃあお仕事は他に受けられないの?」
「ううん。社長ちゃんに申告すれば問題はないけど、ほら、私も未成年だからね。会社が仲介する形になるんだよ」
さすが社長ちゃん。ちゃんとこよみを守るために考えてくれてるんだ。
「お兄ちゃんに許可がもらえたなら、もう一つ相談!」
「うん?なに?」
「私のキャラどれがいいかな?」
こよみが見せてくれたタブレットにはいくつものキャラ案が…。
「私的には、アルジェちゃんのママっていうのを印象付けるためにも髪色と目の色は同じにしたいんだよね」
そういって、多分こよみが一番気に入ってるだろうキャラを見せてくれた。
「………」
「ダメかな?」
駄目じゃないけど、すっごい色気のあるお姉さんキャラなんだけど!?
「…全然こよみっぽくなくない?」
「ママの色気はこれくらいないと」
いやいや…。偏見が過ぎる。
「僕はもっとこよみらしいキャラのがいいと思うけどなぁ」
「えー」
違和感しかないし…。仮にコラボとかした時に反応に困りそうだよ。
「ちぇー…社長ちゃんにも絶対にそれは違うって言われて、最終的にはアルジェちゃんの同意が得られたら考えるって…」
社長ちゃん、僕に丸投げするのやめてもらえません?
「こよみが一番自分らしくなれるキャラがいいと思うよ。僕のキャラだってそうやって考えてデザインしてくれたんじゃないの?」
「…そう…だね、 わかった、もう少し考える。まだ時間はあるし」
「それがいいよ。大切なキャラになるんだから」
こよみはウンウンとうなりながらまたデザインを始めてしまい、僕はお茶のおかわりとお菓子を用意しておこうかな。長くなりそうだし。
それにしてもこよみまでデビューかぁ…。
確かに先輩たちもご家族の方がコラボとして声だけ出演してる動画は見かけたけど、明確にデビューしてる人はいなかったと思う。
「…もしかしてこよみも会社に引っ越すとか言わないよね?」
「本当はそうしたかったのに、だめってお母さんが…。学校も遠くなるし仕方ないんだけど、お兄ちゃんの近くにいたかったよ…」
「学校に通うための時間が長くなるともったいないよ。その時間でやれることもあるでしょ」
「そうなんだよね…。だからしかたなく諦めた。その代わりね?」
「うん?」
「週末はここに泊まっていい?」
うーん…。まぁ今は紲さんも自室へ戻ってるから部屋は空いてるけど…。
「だめ…?」
「両親と社長ちゃんの許可があるならいいよ」
「…わかった」
こよみも配信とかをするのなら会社のが楽だろうから僕としては歓迎だけど…。許可を出すのはあくまでも両親や社長ちゃんだからね。




