ろくじゅーろく
パルム先輩のマネージャーさんにお礼を言って車を降り、お店の入り口に行くと”本日貸し切り“の張り紙。
「スタッフも表には出てこないから安心していいよ」
そう言いながドアを開けてくれたパルム先輩とお店の中へ。
「凄い人…」
「予定のない子はみんな呼んだし、スタッフの人達も出来るだけ呼んだからね。紲ちゃんも来てるよ」
「お仕事早く終わったんですね」
”打ち合わせがあるから終わり次第行きます“って言ってたけど、間に合ってよかった。
「主役の三人はこっちねー! おーい、主役の登場だー」
「やっと来たね」
「ほらほら始めるよぉ」
パルム先輩の声に、皆さん反応してくれる。
テーブル席の方へ案内してもらって座ると、レーンにはすぐお寿司が流れ始めてきた。
「じゃあここからはメルティ先輩におまかせしますね」
「ん…任されたパルム。 ……三人ともあらためて…。うちに来てくれてありがとう…。 デビューおめでとー!」
普段おとなしいメルティ先輩の目一杯の大きな声。
それに続くように皆さんからのお祝いの声が…。
「ありがとうございます! 今日はいっぱい食べるのでよろしくお願いします!」
「あはは! 食い尽くしていいから!」
「ほら、二人も応えないと!」
「ありがとう…ございます…。ちょっと感動して言葉にならないですけど…本当にありがとうございます」
「ほら、アルジェちゃんも!」
「は、はい! みなさんありがとうございます。本当に温かい会社に招き入れてもらえて僕は幸せです!」
ヴィオラさんにつられるように、僕もちょっとウルッときてしまった。
「ほらほら、主役がそんなんでどうするの。マローネみたいに元気にいくよ!」
パルム先輩が僕とヴィオラさんの頭をポンポンと撫ぜてくれて。
「「はいっ」」
そこからはもうみなさん食べたり飲んだりと大騒ぎ。
代わる代わる僕たちのテーブルに来てお祝いやお寿司を持ってきてくれる。
大人なヴィオラさんはビールかな?も貰ってた。
「今回はあーしのコラボメニューも主役だからね! ほら、アルジェちゃんどーぞ」
「ありがとうございます、ハーティ先輩。 コラボメニューって何があるんですか?」
「よく聞いてくれたね! あーしはハーピィなの知ってる?」
「もちろんです」
「(これはね…あーしのたまごだよ)」
耳元でそう囁かれて渡されたのは、卵系のお寿司がいっぱい乗った寿司下駄。
定番の玉子に、温泉卵の軍艦とか、香ばしく焼いた目玉焼きまで乗ってる。
え…
「ハーティ先輩のたまご?」
「そう。あーしのうみたてたまごだよ。っていったら興奮する…?」
「何してるか!」
「いったぁ!! パルム、なにもどつくこと無いでしょ?アホになる!」
「アンタはもう充分にアホでしょうが! こんなセクハラして!」
「いや、だって本当にそういうコンセプトのコラボじゃん!」
「こんな企画出す方も出す方だし、通す方も通す方だよ!」
「なにおー! あーしの有能なマネージャーちゃんを愚弄する気か!」
「そこまでは言わないけどね。実際、人気メニューなんでしょ?」
「とーぜん。あーしの産みたて卵なんてみんなにはご褒美だし」
そういう設定ってやつかな…。事実なわけないもんね。一瞬ビックリしたけど、全国でやってるコラボメニューなのにハーティ先輩一人では無理がある。
「あ、この子理解してないわ。全く動揺してないもん。あーしの精一杯の誘惑が…」
「やめろって言ってるでしょ! メルティ先輩呼ぶよ?」
「失礼しましたー! アルジェちゃん、味わってね?」
「ありがとうございます、ハーティ先輩」
卵のお寿司はどれも美味しかった。
特に目玉焼きはにんにく醤油でパリトロに焼かれてて握りのお米だけでは足りないくらい。これ、アレンジして丼とかにしたら絶対美味しいやつ。
「三人とも食べてるー?」
「ピノ先輩! はい、ハーティ先輩の卵美味しいですね」
「ぶっ…! それ誰から?」
「ハーティ先輩が教えてくれました」
「アイツ…許さねぇー!」
ピノ先輩はすぐに走り去ってしまった。
「アルジェちゃんって小悪魔すぎん? ヴィオラ、どう思う?」
「ん〜? そんなのわかりきってるでしょ〜。うちのアイドルなのよ〜!」
「こっちはもう酔ってる!? 誰かー、酔っぱらいに水くださーい。うちのアイドルに悪影響出そうでーす!」
「なによぉ〜。酔ってなんて…っく…ないわ〜」
「酔っぱらいはね、みんなそう言うんだよ、ヴィオラ。 あ、こらボクにもたれて寝ないで! お皿取れない…」
「マローネさん、僕が取りますよ。 欲しいのあったら言ってください」
「助かるー。 じゃあ、とりあえず今流れてくるの片っ端からとって!」
「了解です!」
「お水必要なの誰でした?」
「紲さん、お疲れ様です。 お水はヴィオラさんが…」
「お疲れ様ですアルジェさん。 もう寝てますね、起きたら渡してあげてください」
「わかりました」
「それと、こんな時にあれですが、今日の打ち合わせで試作品を貰ってきたのでお渡ししておきますね」
紲さんからもらったのは、カレーやサンドイッチとかのミニチュア。
僕がイベントの日に作ったものをそのまま小さくしたように出来てて…。
「すごいですね。こんな短期間で、ここまで精巧なものが…」
「試作品は早いですよ。市販用にはまだ暫く時間はかかりますが…」
紲さんはまたすぐに移動してしまって、あまり話せなかった。
最近は僕でも忙しかったから、紲さんなんてもっともっと忙しいんだろうな。
よし、なにか美味しいもの作って渡そう。それくらいしかできないし。
「かわいいね、それ。例の案件の?」
「はい。試作品を頂きました」
「へぇー、ボクらのフィギュアドールもそろそろ試作品ができあがるらしいから楽しみなんだよね」
「…たぶん社長ちゃんに脱がされたりと大変な目にあうので覚悟しておいてくださいね」
「ええっ!? いくらフィギュアドールでも脱がされるのを見るのはちょっと…」
「ですよね…」
「ん〜脱げばいいの〜?」
「あ、おいこらヤメロー! 一応ボクも未成年だからな!」
酔っぱらって脱ぎそうになるヴィオラさんを止めるマローネさん。
ここにいるわけには…。
「お花つみいってきます」
「うん! その間にこの酔っぱらいなんとかしとく!」
お願いします。
酔ってる大人の女の人ってあんなに色っぽいんだ…、初めて知ったよ。
うちの姉とか彩乃さんも、先日はかなり酔ってだけど、あんなふうにならないから知らなかった。




