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1-13 行きはよいよい、帰りは怖い

「じゃあ、雷太。元気で。お袋や麻季菜にもよろしくな」

「ああ、兄貴も。本当にありがとう。兄貴こそ絶対に帰ってこいよ」


 司令部の面々と一緒に見送りされる中、俺は八輪トラックのサイドシートに乗り込んだ。


「では大佐、いってきます」

「ああ、気をつけてな」


 そう言って運転手の大林伍長を気遣い、トラックが出てからもずっと見送ってくれていた。


 俺は開けていた窓から顔を戻し、窓を閉めた。こんな道を走らせていたら埃がひどくて敵わない。他のトラックも皆窓を閉めている。


「どうでした、雷太さん。大佐に会われてみて」

 運転していた大林伍長が訊いてくれる。


「ああ、本当に来てよかったよ。兄貴があんなに俺達の事を思ってくれていたなんて。俺は兄貴の事をずっと恨んでいたんだ」


「そうですか。よかったです、本当に。大佐は部下達から本当に慕われていましてね。若い隊員の面倒もよく見るし。結構やさぐれて自暴自棄になっている連中も多いのですが、彼らも生きて戻ったらやり直すと言っています。


 大佐はよくあなたの事を言っていますよ。そして、俺は馬鹿だったとも。我々には大佐も心を開いてくれていました」


 兄貴、そんな事を。そして隣にいた若い兵士も笑ってくれていた。よかったな、兄貴。慕われているじゃんよ。


 司令官なんて、部下に死んで来いっていう立場なんだからなあ。普通なら嫌われる場合も多いだろうに。


「そういえば、向こう側の設備見たけれど、ゲートって結構電力がいるのじゃないですか。こんな山の中に発電設備や大型のゲート発生システムがあるとは思えないんだけど」


「ああ、あれは一度ゲートを構築した場所は待機状態になっていて、こちら側からは信号を送るだけで、向こう側の設備がそれを拾ってくれるのです。これは一種の魔導具という物でしてね。


 すると向こう側の設備で待機状態のゲートを開いてくれるのです。あれも一種の魔導具に近いようなものなのです。地球の技術だけでは、異世界へのゲートを開く事はできませんから」


「へえ」

 よくわからないが、向こうの世界にあった装置なんかはなんとなく、電気機械っぽい雰囲気だったなあ。


 なんか電子機器みたいなハム音もさせていたし。まあいいけどね。俺は帰って店のあれこれをやるだけなのだから。


 ふう、なんか先の話が見通しついたので、気が抜けたような感じだ。なんだか眠くなっちまったぜ。夕べはちょっと、あまり眠れなかったんだよね。うとうとしていたら、何か物凄い音がした。


「何だあ」

 だが、そんな俺に何か生暖かい物が降り注いできた。


「うおっ」

 そして正面から吹き込んでくる風。真正面のフロントガラスが砕けている。さっきの音の正体はこいつなのか。


 そして、降り注いだそれは赤味噌なんか比べ物にならないくらいの、まるで超濃厚な唐辛子を溶かしたみたいに真っ赤な液体だった。


「な!」

 そして俺の体を染めたものは、おそらくは血。俺は油の切れた機械みたいな妙な音を発しているのではないかという感じに、ぎこちない動きで真横を向いた。


 そこには首を失って、傷口から大量の血を吹き上げていた、ついさっきまで笑顔を浮かべていた若い兵士がいた。まだ心臓というポンプが機能していたものだろうか。


「うわあああああ」

 俺は間髪入れずに、女子供のように悲鳴をあげて叫んでいた。


「雷太君、魔物が出ました。くそ、飛行タイプの強力な奴です。しかし、体は小さい奴なのでしょう。まさか、こんな山中でゲートまでの道を襲ってくるとは。今基地の方には緊急信号を入れました。ゲートまで全力で振り切りますから、舌を噛まないで」


「は、はい」

 それだけ言うのが精一杯だった。今も隣の席では、さっきまで俺と兄貴のために笑ってくれていた兵士が激しく血を吹きあげている。


「嘘だ、こんな事は嘘だ。こんな事は現実じゃあない。俺は早く家に帰って店をなんとかするんだ。せっかく兄貴が金を用意してくれたんじゃないか。仲直りだってしたんだからな」


 俺は心の中でそう唱えていたが、現実は甘くなかった。そいつは真正面から降りて、こちらへ向かってきた。後続のトラックも大混乱中だ。


「おお、さっきはわからなかったが、こいつは」

「知ってるの、大林さん」


「雷太君、これがドラゴンです。最強種の魔物です。事態は最悪だ」


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