1-14 ドラゴン・ファイト
グロ注意です。
「ド、ドラゴンだって~?」
「そうです。こいつは小型ですが、銃弾なんかが刃が立つ相手ではない。対空ミサイルでも追い散らすのが精一杯ですので。何故奴がここに。くそ」
奴が正面から襲ってきたのを、大林さんは急ハンドルを切って、すんでのところで躱したが、俺は揺られていざってきた真ん中の住人のアタックを受けて悲鳴を上げた。
ついでに気前よく血飛沫のプレゼントをしてくれたのだ。主な出血はし終わったのか、もう血は吹き上げてはいなかったのだが、ドカンと俺に勢いよく体当たりすると、死者は絞り出すように、もう不要となった命の液体を振り撒いた。
おまけに俺の足元を、藤田君の首が転がっていて揺れる度に足に当たるのだ。人間の頭って八キロくらいあるんだよね。
その重い感触があまりにもリアル過ぎる。うわああああ。叫び声すら声に出ないほど、俺はパニックしていた。だが、大林さんがこんな事を言うのだ。
「雷太さん、いざとなったら応援が来るまで凌ぐように、車を捨てて山に逃げ込みますよ。あの手の奴はスキル持ちでないと相手をするのが辛い。大佐が来てくれるまでなんとか生き延びるのです。藤田は可哀想な事をしてしまった」
そして、次の瞬間に可哀想な藤田君は、今度は大林伍長側にアタックをかけて、大林伍長にも景気よく血を振る舞った。
まさに出血大サービスだ。藤田君、サービスはそれくらいにしておかないと、大林伍長の目に血が入ったら最悪だよ。
俺は少し落ち着いたというか妙な感覚でハイになったというか、そのようにセンスオブワンダーのような、あるいはブラックユーモアとでもいうような考えに捉われるくらいの余裕があった。
だが、次の瞬間に凄まじい衝撃がトラックを襲った。巨大な八輪トラックが宙を舞った。大地に叩きつけられる衝撃、エアバッグが作動し、俺は瞬間シートに押し付けられた。
こいつは、そのようなまるで民生用のような非常装備がついた車種だったのだ。
その事に驚きながら感謝しつつ、本当は非常に僅かな間だけしか拘束されていなかったにも関わらず、その押し付けられた状態のままで俺には永遠かと思うような時間が過ぎ去った。
その怪物相手の凄まじいインパクトにより、俺の生理的時間は無限大に伸びたのだ。
「うおお、化け物めが。こいつが一体何トンあると思っているんだあ」
「しまった。飛行種の魔物がよく使う風魔法です。肉弾戦を挑んできていたので油断していました。雷太君、今のうちに脱出して山の中へ。それでも助かる保証はないのですが、このままでは助からない。私はもう動けないから、君だけでも行ってください」
その苦しそうな物言いに慌てて彼の方を見たら、おそらくは藤田君のものとは違う、新しそうな血に塗れた大林さんが呻いていた。
「くそ、くそ、くそ。兄貴ー、早く来てくれ。みんな、みんな、あんたの部下がみんな死んじまう」
この車両が道を塞いでしまったので、後続も身動きできない。後ろの車が邪魔になって身動きが取れない状態で、全車もれなくストップだろう。
それは既に命取りとなるタイムロスなのだ。こうなれば手持ちの小火器でやるしかないのだが、それはあまりにも分が悪い。
大林さんが言うように山の中へ逃げた方が賢明だろう。そして俺は、今は天井になっている、左側のドアを開けようとしたが重くて開かない。
こいつは軽いハッチじゃないのだ。半装甲の巨大な重量のあるドアだ。上方向に上がるようにはできていない。おまけにまだシートベルトをつけたままの無理な態勢だった。
「ドアを上に開けるのは無理でしょうから、足でフロントガラスを蹴り割って出てください。並みの車よりは、かなり丈夫な窓ですが、もう半壊していますからできるはずです。急いで、もう奴が来る! あなたを死なせたら大佐に合わせる顔がない」
大林さん、顔、いや首ごとないのは藤田君の方だよ。そのままじゃ兄貴に合う前に、あんただって死んじまうって。
シートベルトをはずしたら、俺は下に落ちた。即座に上がる苦鳴。ああ、ゴメンよ、大林さん。落ち着けよ、俺。だが、奴は『愉悦の笑いを浮かべながら』迫ってきていた。無力な人間を嘲笑うかのように。
「ちっくしょう。もう駄目なのかよ。せっかく、ここまでやれたのによ。後は帰るだけだっていうのに」
俺は大林伍長のベルトも外し、今は床となり果てた右側のドアに立ち、大林伍長を起こしながらもたれさせた。奴のアタックを上方向から右側にかけて食らったらしい。
それくらいならトラックは持ちこたえたのだろうが、奴に魔法とやらを使われたらしい。その時に右肩から右上腕部にかけてやられたのだ。傷口が酷い有様で、かなり出血も多いようだ。
「このままじゃ死んでしまう」
だが逃げる事は叶わない。
奴は意地悪そうに、俺達の目の前でホバーリングしていた。これが魔法って奴か。俺は大林伍長を庇うように抱きしめながら、奴を睨みつけた。




