1-11 スキルの獲得方法
「ところで、兄貴はどうやってスキルを獲得したのさ。いや、ほんの参考までに」
俺は命懸けの戦闘なんぞに参加する意思はこれっぽっちもないからな。そんな物には縁がないのだが、ちょっとばかり昔ながらの中二病が疼いてね。
店のために入用だった金が入りそうなんで気持ちに余裕があるせいだろう。あ、麻季菜にもバイト代を出してやらなくっちゃあな。
俺も資金に余裕が出たら、気持ちから焦りが消えるので修行も進むだろう。とりあえず親の代から滞納した固定資産税二年分を払わないと、もうすぐ市役所が店を差し押さえに来そうな時期なのだ。
あれから届いた市役所なんかからの督促状の、通常とは色違いの封筒は開ける気にならなくて、そのまま積んであるのだ。あれ、段々色が変わってくるんだよな。いや、マジでヤベエよ。
「あとさ、今頃聞くのもなんなんだけど。ちなみに兄貴、この金って幾ら入ってるんだっけ」
うっかり聞くのを忘れていました。いやあ、いかにも俺らしいや。
「ああ、一億円だ。はは、金額くらい最初に確認しろ。もうお前はあの店の店主なんだぞ。どうだ、大金だろう。伊達に大佐なんかはやっていないんだからな」
「うっわあ、兄貴。いいの、そんなに貰っちゃって」
「店が一軒危ないとなったら、あれこれ考えて、それくらいないと持たんだろう。その金があるうちに一人前になれよ。どうせお前の事だ。親父の店は守ってみせるとか言って無理に意地を張っているんだろう」
おっと兄貴にはすべて見透かされていましたか。俺って結構、昔からそういう性格だったんだよね。
「それと、さっきのスキルの話だがな。極限まで戦って追い詰められた時、そういう時に自分の心の中でもっとも輝く何か、そいつが力となって現れる事があるのだ。その人間がもっとも心血を注ぎ、魂を込めたものに関係する能力がな」
俺の魂か。スキルを獲得する事はないだろうけど、もしそうであれば俺の魂は一体何を求めるのだろう。
わからない。その時々では思っているのだろうが。今の俺は立派なラーメン屋の親父になる事だけを夢見ているのさ。
「ちなみに兄貴のスキルは何だったの?」
「それがよくわからん。よくわからんのだが、超強力な氷系のスキルだな」
「え、ラーメン修行に命をかけていたはずでしょ。炎のスキルじゃあなくって?」
かつて修行したラーメンを茹でる炎じゃあなくって、何故氷なのか。
「う、うーん。そこはなんとも言えないのだが。とにかく俺は氷のスキルだな。ここではそれで助かるのだ。何せジャングルだからな。これが火のスキルとかだと大変な事になってしまうし。他のエリアに回るのは、またいろいろあってな」
小麦粉、麺、ラーメンスープ、お湯、丼、箸、チャーシュー、ネギ、味噌、醤油、湯切りザル、寸胴鍋。
どう考えてもわからん。何故そこに氷の要素があるのか。強いて言えば兄貴の名前? 氷河。酔っぱらった親父によく言われていたな。
「お前は氷河。けして揺るがぬ大氷河だ!」
お袋に言わせると、これまた酔った勢いで壮大な名前をつけただけらしいのだが。ちなみに俺のもね。
でも俺は気に入っているんだ。兄貴もそうなんだと思う。なかなか、これだけ思い切った名前を付けてくれる親って言うのもいないもんだ。キラキラネームじゃないしね。
それとはまた違う明後日の方向にぶっとんだ名前だ。そうなると、さしずめ俺は、もし手に入れるとしたなら雷系のスキルだとか?
あるいは雷太という事で火の魔法とか。ひゃっは~! 爆裂するぜ。いいねえ、実にいいねえ!
「まあ、兄貴は昔からクールな男だったというわけで」
俺が自分で選べるのなら格好良く炎を操るスキルかな。だってラーメン作るのに一番役に立ちそうじゃないか。
俺は日本一のラーメン屋を目指すのだから。まあとりあえず現実に戻る事にした。ここで戦わない俺には最初から縁のない話なのだから。
「ねえ、あと異世界ならではという感じの話って何かないの」
「そうだなあ、その他の魔法っぽいスキルの話とか。あとは魔物か」
「魔法か、いいなあ。それに魔物か。へえ、女騎士が捕まって『くっ、殺せっ』ていうような奴?」
兄貴はまた苦笑してこう言った。
「そういう奴じゃあない。どっちかというと怪獣に分類されるような奴だな。でかい奴が多い。空を飛ぶ奴とかが厄介でな。まあ、そのせいで対戦車ヘリとかも飛びにくいので俺達は助かっているのだが。
大体が手持ちの武器で殺せるが、たまに魔獣とか呼びたくなるような、とんでもない強力な奴が出る事がある。そういう時は戦死者も出るな。戦闘ではなくて、動物災害で死者が出るのは勘弁してほしいものだ」
えー、動物災害って一体何だ。なんだか俺には想像もつかないなあ。
「へえ、そういう奴を退治する冒険者みたいな奴がいるの?」
「そんな者はいないよ。あれは個人で対抗できるようなものじゃない。まあ強力な兵器担当の兵士ならできるわけだが。
あとはスキル持ちの勇者と呼ばれる人間だな。俺達だけではなく、この世界にもそういう人間はいるのだ。元々はスキルなんて、この世界のものなのだから」
なんか、わくわくするような話だ。そいつを見てみたい気もするな。もちろん安全な場所からの見学だ。もしも戦場で見るというのであれば、そこにいる勇者様の陰から。
「兄貴もそいつらと戦った事があるの」
「ああ、部隊を襲撃されたからな。でかい蛇で死者も出た。氷の霊気には弱かったようだ。あと、四足獣の奴なんかもいたな。足を氷漬けにしてやって、砲撃して殲滅した。まああれも素材を売ればいい金になるんだがな。
正直なところ、あのレベルの連中ならば俺だけでも楽勝で片付けられたが、そういう事をしていると上の連中が装備や弾薬をケチったりするからな。堪ったものではない。戦争は一人でやっているわけではないのだから。他の部隊でも大体そうする習わしなんだ」
そう語る兄貴の珍妙な表情を見て、俺はクスっと笑ってしまった。大変だなあ、指揮官っていうものは。兄貴だって、まだ二十七歳なのによ。部下に年上の人も、いっぱいいそうなのに。
その人たちに「死ね」っていう命令を出す役目なんだから。あの案内してくれた伍長だって歳は兄貴よりも上だと思う。
もちろん兄貴自身も戦場には立つのだろうけど。何せ勇者様なんだからな。




