1-10 スキル
「ひでえな。なんか、こっちの世界の勢力が地球の代理戦争になっているの?」
だが兄貴は俺の予想に反し、即座に首を振った。
「いやむしろ逆で、こちらが異世界の代理戦争に巻き込まれているのだ。それを始めたのが魔王レーニッヒなのだ。
だが、それが地球陣営の代理戦争にもなっていて、副産物として実際には地球の紛争が減っているというだけの話なのだ」
俺は思わず絶句した。地球人が異世界の戦争に巻き込まれて、それで地球人同士がこんな異世界に来て近代兵器で殺し合っているのか。
でも地球側にも利益が上がる話なんだな。あちこちの勢力が欲の皮を突っ張らせて異世界でも殺し合いをやっているのか。
なんだかなあ。聞いているだけで切なくなるよ。俺の身内もそれに関わっていて、俺自身もその多くの血の流れた上での金の恩恵に預かろうとしている。
なんだか胸が苦しくなるような話だ。でもそうしないと、俺の店はもうどうにもならない。
「具体的に地球の勢力はどんな得をするの?」
「まず一般的な資源だな。これは大きい。獲得に失敗すれば、その陣営は即敗者となる。
これをたくさん獲得した陣営は宇宙開発競争にさえ大きくリードを広げて勝利し、そこが地球のみならず宇宙の覇者を目指す権利を有する事になる。
この差は大きいぞ。今のところ南極の資源が使えない以上、ここが一番有力な資源の超大型供給先だ。
月は月でまたいろいろと厄介だし、軌道エレベーター時代にでもならない限りはそれもあまり現実的ではない話だろう。
他には魔法素材などだ。特別な魔法薬なんかもある。魔法金属なんかは対抗する勢力を殲滅してでも手に入れるほどの奪い合いの様相だ。
むしろ、こいつを独占的に手に入れられればタダ同然で手に入れた獲得資源と共に、さっき言った軌道エレベーターを建設して宇宙へ大勢力を送り込み、それによって月を制し、さらにその先の宇宙へも行く道が開けるだろう。
あれは赤道上の限られた場所、地球上でも三か所くらいしかないと言われる場所に作らないと各種の問題を招く。
早いもの勝ちだ。あれこれと法律なんかもあるから国際機関でなければ作れないなどといわれているが、力の論理の前にはそれすらもどうだかな。
世界を牛耳るほどの圧倒的な力があれば、どんな無体な事でも押し切れる。こちらの世界の権益を握れば、それ以外の場所でも強引に軌道エレベーター建設する事すら可能かもしれないがな。
あるいは現状の宇宙技術でも格安で手に入る資源さえ十分にあれば、やれない事はない。
地球衛星軌道に軌道エレベーターという鉄道を敷くか、ロケットによる物量作戦でコンボイを送り込むかというようなお話なのだ。
お前が憧れていた火星やアステロイド、はたまたその先の遥かな世界までも目指すためのな」
ああ、とてつもない国益がかかっているから、こうなっているのか。
しかも自国の兵士を無駄死にさせるとマスコミや国民が煩いので、金に困った食い詰め者や、高額報酬を求めて金で命を切り売りする考えの兵士が活躍するPMCの出番なのだろう。
正規の軍隊にいて給料が安いからPMCに転向する者もいるくらいだ。同じ分だけ命をかけるのなら安月給でやっていられるかというわけだ。
傭兵だって何もみんな最初から死ぬつもりでやるわけじゃない。その支払いは異世界からの資源や魔法素材などで賄っているんだろうな。
すなわち経済の拡大、紛れもなく一種の世界的規模の適正なインフレだ。PMCだって立派なビジネスなんだけど、実際に契約に縛られて現場で戦う兵隊は大変だ。うちの兄貴みたいにさ。
「へたにそんなお宝を手に入れると敵が大増援を受けて、部隊に大ピンチを招く恐れもあるのだが、あれがまた入手に成功するとボーナスが大きくてな。
ここへやってくるのは皆食い詰め者ばかりだ。手にした金で人生をやり直そうという物もいる。自分の命をベットしてな。
俺は司令官として、奴らのために利益を与えてやらねばならん。所詮、俺達は金で雇われたに過ぎない傭兵なのだからな」
そこなんだよなあ。俺が一番疑問に思っているとこ。俺はパイプ椅子の上でどっしりと腕組みをしている兄貴に訊いてみる。
「ねえ、兄貴。なんで兄貴が大佐で司令官なのさ。そんな要素がどこにあったんだい」
俺は昔の兄貴を思い出してみたが、どう考えても思い当たる理由がなかったのだ。
「それはな、スキルの存在だ」
「スキル?」
あれだろうか。
「あなたのスキルをランクアップ。就職に有利な講座を是非どうぞ」
「スキルアップで転職と給料アップを成功させよう」
こういうキャッチーな煽り文句で客を誘惑する奴。そんなに優秀だったのか、うちの兄貴って。そう言ったら、兄貴は笑って否定した。
「違う、ほらあれだ。ほらラノベなんかに出てくる、あの魔法やスキルなんかの、あのスキルだ。そう、お前の大好きな奴さ」
「げ」
まさか、こんなところで兄貴の口からそのような話題が出るとは。兄貴はああいう物が嫌いだったはずなんだが。俺は大好きだったんだけどねえ。
「そいつを身につけると、部隊の戦闘力が上がる事が多いので重用される。この俺のようにな」
「あ、兄貴が~?」
嘘だろ。だって、兄貴はいつも俺がそういう本を読んでいると、思いっきり馬鹿にしてたじゃないの~。
「じーーーー」
「う、そういう目をするなよ。仕方がないだろうが。俺だって、こんな事は予想していなかったさ。堅物だったこの俺が、まさか異世界でスキル持ちの『勇者』扱いになろうとはな」
「ゆ、勇者~‼」
「笑うな」
そいつだけは無理だぜ、兄貴。言うに事欠いて、勇者かよ。あんたがなあ。「勇者? 馬鹿だな雷太。そんな者がこの世にいるわけがないだろ」とか散々言っておきながら~。
「勇者氷河。なんて素晴らしい響きなんだろうか。お袋や麻季菜にも是非伝えておくぜ。そうだ、親父の仏壇とお墓にも報告にいかなくっちゃあ」
「うわ、それだけはやめろ。いやホント、やめて、お願い。いや、昔にお前の趣味を小馬鹿にしたのは謝るからさ」
「うーん。じゃあ、俺もスキルが欲しい」
「無理だ。戦闘に従事しない物に、あれは絶対に現れないからな」
「じゃあ、いらないや~」
「うん。お前って、そういうところは本当にあっさりしているな。そういや、子供の頃からそういう奴だった」
へっへ、そういうあんたこそ頭がイカレているぜ、兄貴。少年漫画じゃあるまいし、挫折したラーメン屋の跡継ぎ崩れが傭兵、しかも司令官でスキル持ちの大佐だって?
本日終了です。




