↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

3

 いやだいやだと思いつつ、かれこれ半年。



 ホウキに乗って隣国まで移動する。

 魔法陣で瞬間移動してもいいが力の消費が半端ないのでこっちの方が安全に務めを果たせる。


 終戦を迎えたあの日からこうして隣国と我が国を半年ほど行き来しているけれど、こちらの出向く回数が多いのはひとえに惚れたもの負けの宿命でしかない。王様の。

 王様が隣国の女王の尻に敷かれているのは誰の目から見ても明らかである。

 あれは近いうちに求婚でもしだすんじゃないかと王都や国境までもっぱらの噂だ。まだしてないのか。

 二人とも権力争いの末に一族は滅んでいるので、邪魔する人間は誰もいない。

 民としてはもう喧嘩しないで仲良く暮らしてくれれば言うことは何もなかった。

 はよくっつけチューしろ。



 あの日の私の泣き言は大臣に通用せず、それは災難でしたね、では今度はお菓子を持って~と一蹴された。

 何がなんでも私にやらせる方向でしかなかったから、諦めた。


 最近は伝令先で茶を出されるようになった。

 貴族でもあるらしい男のその屋敷は、主人である男みたいに無駄にでかく広く、使用人もたくさんいる。

 女王にもそこで一度会ったことがある。

 書簡の内容を訂正するためにわざわざやって来たのだ。

 女王は身軽な人らしい。笑顔も可愛く美しく、こんな人ならうちの王様も負けるのは仕方がないと思った。


「なにわの剣というものがありまして」

「それは切れ味がいいの?」

「いいってどころじゃありません。城なんかもう、真っ二つですよ!」

「凄いなぁ」

「なんでやねんって言いながら振るとさらに威力が増します」


 茶をずびっと啜りながら世間話に花を咲かせる。

 国家間の伝令係と化していた私は、このやり取りがいつまで続くのか焦れったくてしょうがないのだが、近頃はこんな時間も悪くはないと思えるようになってきていた。

 

「君だって癒しの魔法が使えるんだろう? 凄いことだ」

「全力出してもかすり傷ちょっと治せるくらいですけど、そう言ってもらえると気分はいいです」

「どうやって治してるの? 俺はそっち方面疎いからさ」

「まず……魔力が逃げちゃうので傷口はおさえておいてもらわないとダメで」

「逃げちゃう?」

「例えが合ってるのか分からないんですけど、私はこう、身体に傷がつくとそこから力が逃げちゃうから治りが遅くなるのかなって、勝手に思っていて」

「逃げちゃうか……」


 ハハハと笑う外交官に何か変なことでも言ってしまっただろうかと恥ずかしさに俯く。

 例えがよくなかったのかもしれない。

 逃げちゃうって、逃げるわけないもん。そんな論文ないし。



 王都の役所にある魔法課、通称なんでも課に勤めている私だが、別に普段から暇なわけじゃない。

 こうして書簡を任されるのもいつの間にか業務のうちに入っており、上司から宰相様がお呼びだと言われて向かわされているだけである。

 魔法課はなんでも課と呼ばれていて、役所の規則に引っ掛からない程度のことならたいてい何でも引き受ける部署だ。

 例えばだ。

 お婆さんが歳で足が億劫だから代わりに買い物に行ってほしい、などと頼み込んできたとする。

 これは管轄外なので、お引き取り願う。

 けれど、目的地に行くまでの道の鋪装が悪い、魔獣がいて通れない、倒壊した家屋が道を塞いでいて困っている、などは対処してあげられる。魔法でちょちょいのちょいだ。

 個人的な願いは聞けないが、周囲に影響を及ぼす困り事は基本全部引き受ける、そんな仕事だった。

 私は基本、人の役に立ちたい。

 ありがとうとか、凄いねとか、褒められたいのである。

 ここはそんな私にピッタリな職場だった。

 働きが良くなければ当然怒られるけど、そんなのはどの仕事でも当たり前だ。


 母親は城勤めをしてほしかったみたいだけど、優秀の塊ですみたいなあんな集団に入っていける図太い神経は持っていない。

 妬みそねみで黒魔術に手を出しそうになるより、役所で書類に囲まれて時々誰かを助ける仕事をしていたほうが精神的にはずっといい。

 



「え? 嘘ですよね」

「本当なんだな、これが」


 あくる日。

 外交官から聞かされて知ったことだが、私が届けていた『和平交渉の書簡』だと思っていた物。

 なんと実は、王様と女王様の恋文だった。


 フ、そんなわけ……と鼻で笑いかけた私に、外交官が大切な大切な書簡の中身をピラピラ見せびらかしてきたので、そんなことしていいの!? と思いながら指の隙間から薄目で読んでみたら、本当だった。


 毎夜貴方を想っている~国がまとまるまで~私も毎夜貴女を想っている~城を作り替えておこう~民がなんか好意的みたいよ~フフフ~将来子どもを~……。


 そんな内容だった。


 なるほどね、そっかそっか、だから私に任せたのか。

 そーんなイチャイチャ公文を届けるのにわざわざ外交官なんか使わないか。

 お仕事は何ですか?

 私ですか? 外交官です。

 内容は?

 王様の恋文を恋人へ届けるお仕事です。

 なーんて馬鹿馬鹿しくてやってられないもんね。へー。

 こうなってくると、外交官たちのぎっくり腰嘘だったんじゃないか説が浮上してくる。

 恋文なんてものを届ける仕事なんてしたくないから、適当な人間を見つけて向かわせて……絶対そうだ!

 でもコンタスティ外交官は隣国の外交官で、わざわざこの手紙を私から手ずから受け取ってくれている。

 じゃあ隣国からの手紙はぎっくり腰外交官か外務大臣が受け取っているってこと?

 なんかちょっとイラっ。


 私の顔を見て、外交官は腹を抱えて笑っていた。

 この人いつも笑ってるな。

 人生楽しそう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。