Ch7- The red looming on the horizon./迫る赤の兆し(4)
「お金はいりません」エイミーはきっぱり告げた。自分でも驚くほど、言葉はあっさりと口をついて出た。その一方で、内心では激痛が走っていたけれど。「こうしましょう。あなたたちを手伝う代わりに、今回のことは貸し一つということにしてください」
そう、貸し。まさに必要なのはそれだった。クロウがこの世界で最も重要な人物だと言っても、決して大げさではない。彼は主人公なのだから。その人物に貸しを作れるなら、得にしかならない。必要なら金だって、それ以上のものだって頼める。そう、これが最善の選択だ。
「貸し?」クロウの表情が、露骨なまでに警戒を帯びた。エイミーは少し傷つきさえした。
私を何だと思ってるの……?
「貸しって、どんな?」アッシュも、クロウと似たような目で尋ねた。
「まだ決めていません」エイミーは意図的に謎めいた雰囲気を保ち、役に徹した。「ただ、いざという時に、あなたたちの力を借りられるようにしておきたいんです」
クロウはしばらく、疑いを隠そうともしない目でエイミーを見ていた。「それで構わない」
「クロウ――」
ライラが反論しかけたが、クロウは手で制し、続きを口にした。
「ただし、制限はある。違法なこと、誰かを傷つけること、俺の信条に反することはできない……それでいいか?」
エイミーは考えているふりをし、場の空気を少しだけ張り詰めさせた。それから、うっすら笑ってうなずく。「はい。それで構いません」
「わかった」クロウは少し身じろぎした。黒い瞳が、エイミーの顔を探るように見つめていた。その視線の強さに、エイミーは居心地の悪さを覚えた。一方で、ほかの面々は彼女の返事にどこか安堵したように見えた。
「君は……」クロウは続けかけ、それから言葉を選び直すように一度止まった。「今からでも、この鍵が何を開くのか探れるか?」
エイミーは少し考えた。今すぐベッドに倒れ込んで、数時間すべてを忘れたい気持ちはある。けれど同時に、この展開がどれほど重要で、どれほど危険かも知っている。そして、それが好機でもあると理解していた。
彼女はわざと目を閉じた。数秒が過ぎる。
「……見えました」そう呟き、再び目を開ける。「最初の兆しは、Bクラス棟の入口にあるはずです」
「クラスB?」アッシュが繰り返し、クロウと素早く視線を交わした。「本当に?」
エイミーは自信ありげにうなずいた。「そこから始める必要があります。明日の休憩時間に、そこで会いましょう」
「……わかった。俺たちも行く」
「それでは」エイミーはあくびをこらえながら言った。「ほかに何もないなら、そろそろ部屋に戻ります。長い一日でしたから。また明日」
彼女は背を向けた。彼らの視線が自分を追っているのを感じながら、ガラス扉を抜け、今はもう空になった収束の聖域へ戻る。
[予想以上にうまくいったのでは? 次の話が更新されれば、あなたの力にはかなり大きな変化が生じるでしょう]
「だね」エイミーは出口へ向かって足を引きずりながらつぶやいた。「でも、ゴールドクラウン50枚を断ったの、もったいなかったかも。身を切られるみたいに痛かった」
[私も困惑しました。あなたは裕福とは言いがたいでしょう? というより、今のあなたは一文無しです。ここまで私が用意したもので生き延びてきたのですから]
「……でも、あの貸しが本当に必要だったの」
[ふむ。本当に?]
嘘だけど。
「うん……だからこれからも私の面倒を見てください、ああ、我が恩人様」
[はぁ……]
アカデミーの入り組んだ廊下を進みながら、エイミーの考えは先ほどの会話へ戻り、そこからまた黄金の鍵へと向かった。息が詰まる。
「嫌だな……」
これから起きることを思い出し、手がかすかに震えた。
漫画では、古代遺跡で見つかった黄金の鍵の謎は、意味ありげに登場したものの、差し迫った問題ではないように描かれていた。クロウと仲間たちのちょっとした寄り道。そんな扱いだった。
だが、そのたった一本の鍵が、原作漫画の第二編――その第一幕を正式に開くことになる。
エイミーは身震いした。クラスBの生徒13人が虐殺される凄惨なコマを思い出す。彼らの遺体は、儀式の陣を形作るように並べられていた。
その話をレビューしたとき、自分はその場面を笑いものにしていた。やりすぎな残虐描写で、安っぽく読者を驚かせようとしているだけだと批判した。けれど今、その世界に自分がいて……。
「私、これから起きることに向き合えるのかな」声は、ほとんど息に溶けるほど小さかった。「今までだって大変だったけど、少なくとも、ここまでは安全だった。誰も死んでいないし、私の手も、まだ血で汚れていない。でも、これからは……」
エイミーは窓辺で足を止めた。夕方の光を浴びたアカデミーの敷地が見下ろせる。彼女は冷たいガラスに額を押し当て、目を閉じた。
「私はこの先の展開を知ってる。次に何が起きるかもわかってる。それなのに、今の私は彼らをそこへ導こうとしてる」
[……]
「私に、止められるのかな……」
[逃げることもできますよ]
「それで、終末の日まで待って死ねって……?」
[痛みは感じないでしょう。私も同じです]
「……世界の終わりが来たら、あんたも死ぬの?」
[ええ。ですが、ご心配なく。私は死を恐れません。それより、ここを離れることも本気で考えてみてください。はるか北には、あなたが暮らせる場所があります。必要なら、生活に必要なものもすべて私が用意しましょう。ただし、あまり図々しくならないでくださいね。私が用意するものを、当然のように受け取られるのは――]
「いや、大丈夫……」エイミーは窓から額を離し、目を開けて歩き出した。「問題を全部放り出して逃げるのは、たしかに魅力的だけど……私だって死にたくないし、あんたにも死んでほしくない。私は英雄でもなければ、そんな器でもない。それでも、自分が怖気づいたせいで誰かを死なせるのは嫌。まして、あんたが死ぬなんて絶対に嫌」
[……]
エイミーは建物を出て、寮室のある棟へと重い足取りで向かった。道中の記憶はぼんやりしていた。ほんの数秒しか経っていないように感じたのに、気づけばもう寮棟の中にいて、自室まであと数歩のところまで来ていた。
目の前には、静まり返った廊下が伸びていた。人影はない。まるで今、自分が踏み込んでしまった道そのものだった。
ようやく自室の扉の前にたどり着いたところで、本が再び口を開いた。その声には、今朝と同じ機械めいた響きが混じっている。
[あなたのその感情は……予想外で、私にはまだ理解しきれません。ですが、嫌ではありません]
エイミーは返事をしなかった。これ以上会話を続けるには疲れ果てていた。彼女は扉を押し開けた。
本の入った鞄をナイトスタンドへ放り出し、そのままベッドへうつ伏せに倒れ込む。やわらかな寝具が体を包み込んだ。黄金の鍵、儀式殺人、世界の終わり――そうした不安が、ひとときだけ意識の奥へと遠のいていく。
[眠る前に、靴を脱いだほうがよいかと]
「んむぅ……」エイミーは雄弁に返事をした。体はもう一ミリも動かない。
[それから、制服に皺がつきます]
彼女は不満げに声を漏らしながらも、どうにか靴を蹴り落とした。靴は小さな音を立てて床に転がる。「……これで満足……?」
[大満足です]




