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Ch7- The red looming on the horizon./迫る赤の兆し(3)

[おや。原作では、彼はこれをザイドに持ち込んでいたはずですが]


 本の言うとおり、漫画とは違う展開になっていた。原作では、クロウは黄金の鍵についてザイドに助けを求めていた。けれど今回は、エイミーのところへ来た。


 鍵を見た瞬間、エイミーは妙な既視感を覚えた。もちろん、漫画で見たことはある。物語上の重要アイテムで、この鍵が関わる展開も、エイミーの嫌いなものの一つだった。だが、それだけではなかった。意識の端に引っかかるような、奇妙な懐かしさがある。彼女はその感覚を押しのけ、クロウの言葉へ集中した。


「君が予見で見たと言っていた鍵だ」クロウは鍵を二人のあいだに掲げた。「昨学期、北部遺跡への遠征中に発見した。ヴァンハイム教授は『自主研究』という名目で、俺が保管することを許可してくれた」


「それから数か月、こいつはずっとこの鍵に振り回されっぱなし」アッシュがにやりと笑って付け加える。「ありとあらゆる魔法解析を試したんだぜ」


「だが、確かな手がかりは得られなかった」クロウは眉を寄せた。「歴史記録、魔法解析、それに教授たちへの内々の相談。これが何なのか突き止めるため、考えられることはすべて試してきた」


「それで今度は、予見の力に頼ろうとしているわけですね」エイミーが言葉を継いだ。改めて鍵を見つめる。漫画だけでなく、どこか別の場所でも見たような気がする。その引っかかりを無視しようとした。変なの……。


「俺は、これがアカデミーのどこかに隠されたものと関係していると考えている。だが、それが何なのか、どこにあるのかがわからない」


「……どうして私なんですか?」エイミーは好奇心を抑えきれずに尋ねた。「私たちのクラスには、ほかにも予見者がいるでしょう。ザイド・ガスパール、でしたよね? 彼のほうが適任なんじゃないでしょうか?」


 クロウの表情が曇った。「ザイドと俺は……少し複雑な関係なんだ。敵ではないが、友人とも言えない」


「変に聞こえるかもしれないけど」アッシュがいたずらっぽく笑って口を挟む。「クロウはザイドより、怪しさ満点の初対面の君を信用してるってわけ」


 エイミーは、その理由を思い出そうと記憶をたどった。数秒して、ようやく思い出した。ザイドはガスパール家の人間で、クロウは父親の失踪にガスパール家が関わっているのではないかと疑っているのだ。「そうですか。私はずいぶん運がいいようですね」


「それで……できるのか?」


 原作を読んでいたエイミーは、この鍵が何を開けるのかすでに知っている。つまり、答えようと思えば答えられる。だが、もちろん知識をそのまま渡す意味はない。むしろ、この状況は利用できる。


「おそらくは」エイミーはそう告げた。


 たった一言で、空気が止まった。四人の2年生は、目に見えて驚いていた。クロウの眉が少し上がり、アッシュにいたっては、あんぐりと口を開けていた。ライラの目は、これ以上細くなるのかというくらい険しくなった。


「おそらく?」クロウが慎重な声で繰り返す。「そんな簡単に? まだ鍵をまともに調べてもいないのに」


 エイミーは肩をすくめた。彼らの反応に満足感が込み上げてきたが、顔には出さない。「必要ありません」


「どうしてそんなに確信できるの?」ライラが一歩踏み出して迫る。「予知魔法は、そんなふうにすぐ答えが出るものじゃないでしょ。儀式も、集中も、準備も必要なはずで――」


「エイミー」クロウがライラの声を遮った。視線はエイミーに固定されている。何かを考え込んでいるようだった。数秒の沈黙のあと、彼は口を開く。「よければ聞かせてほしい。君の力は、具体的にはどういうものなんだ?」


 ああ……こうやって全部が噛み合う瞬間って、最高に気持ちいい。


 これこそ、エイミーが望んでいた展開だった。口角が上がりそうになるのを抑えるには、かなりの意志力が必要だった。


 ありがとう、クロウ。これでようやく、私の能力を練り上げられる。


 今朝、本と話した内容を彼らに伝えるには、まさに完璧なタイミングだった。この会話は間違いなく、次の話に載る。


 レベルアップの時間だ。


「私は、自分が辿り着きたい未来を見ることができます」エイミーは慎重に説明した。神秘的に聞こえつつ、多少の矛盾なら覆い隠せる程度に曖昧な言い方を組み立てる。「目的地へ辿り着くために、兆しを手がかりにして、運命の大まかな道筋を辿るんです」


 ここまで黙っていたレインが、聞き逃しそうなほど小さな声で言った。「運命を……操れるの?」


「操る、というよりは」エイミーは、自分で決めた能力設定を思い出しながら訂正する。「どちらかといえば……進むべき道を見極める、に近いでしょうか」


 クロウはしばらく、彼女をじっと観察した。黒い瞳は、射抜くように鋭い。「昨日、君は俺のことを『兆し』だと言った。つまり、俺を見つけたのは、君がアカデミーへ行く必要があったからなのか……?」


「はい。もっとも、あなたを特に探していたわけじゃありません。私の力は、道の細部までは教えてくれません。ただ、目的地と、そこへ至るための大まかな進み方を示すだけです」


「……そうか」なぜか、彼の眉間に皺が寄った。


[自分が今、どれだけ怖いことを言ったか、理解していませんね?]


 ん……? この本、何言ってるの?


 沈黙が長引き、会話はいったん途切れたようだった。ライラとアッシュは読み取れない表情で目を合わせている。レインは一秒たりともエイミーから視線を逸らさない。そしてクロウは、深く考え込んでいた。


 待って、何この空気……?


[あなたはただでさえ、彼らの目には相当怪しく、場合によっては危険な存在なんですよ。そこへ来て、自分の力は望んだ目的を何でも達成できるようなものだと告げたわけです。そうなると当然、ある疑問が浮かびます。この会話は偶然なのか、それともあなたの計画の一手なのか、と]


 え……? 待って。それ、たしかに普通に怖いかも。


「なら……」ようやくクロウが沈黙を破った。「君は……その鍵で開く先まで、俺たちを導けるということか……?」


「おそらく」


「またおそらく、か……」アッシュは思案顔のまま、その言葉を繰り返した。さらに数秒ほど黙ってから深く息を吸い、エイミーの目を正面から見据える。「代わりに、何が欲しい?」


「そちらは、何を提示できますか?」


 クロウが姿勢を正した。「もちろん報酬は払う。金額を言ってくれ」


 エイミーは考えるふりをした。内心ではおかしくて仕方がない。お金? もらったところで何に使うというのか。本当に必要になったら、本に頼み込めば資金くらい何とかなるはずだ。


[なぜでしょう。急に嫌な予感が……]


 エイミーは本の言葉に笑いそうになるのをこらえた。


「どのくらい出せますか?」彼女は尋ねたが、答えそのものにはあまり興味がなかった。欲しいのは別のものだ。そもそも金が欲しいわけではない。だって――


「成功したら、ゴールドクラウン50枚」


 エイミーは瞬きをした。


 それは、ほとんど本能に近い衝動だった。原始人が初めて火を目にしたときの恐怖。赤ん坊が初めて母親のぬくもりに触れたときの安堵。その瞬間、エイミーを襲ったのは、それらにも匹敵するほど強烈な何かだった。その場で飛びつかずにいるには、持てる意志力のすべてと、それ以上の何かが必要だった。


 漫画を読んでいたからこそ、それが実際にどれほどの大金なのかは知っている。だからこそ信じられなかった。


 主人公、なんでそんなにクソほど金持ってるの!?


 脳が追いつくまでに、少し時間がかかった。そして思い出す。レインも貴族令嬢で、いずれ家を継ぐ立場だし、クラスSの面々は文字どおり将来的にこの世界の中枢を担う者たちなのだ。金を持っていて当然ではある……それでも、ゴールドクラウン50枚は明らかに盛りすぎだった。家一軒が買えて、しかも1年くらい働かずに暮らせる額ではなかったか……?


 神様、いや女神様、どうか力を貸してください。今こそ本当に必要なんです。未来の私、これからすることを許して。

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