Ch7- The red looming on the horizon./迫る赤の兆し(1)
一行は、次第に装飾が凝っていく廊下をいくつも抜け、やがて708と記された巨大な両開きの扉の前にたどり着いた。扉は、鏡のように光を返す水晶でできていた。
「収束の聖域だ」ヴァンハイム教授が告げる。「クラスSの主要な学習・実践施設であり、諸君の理論系の授業の大半はここで行われる」
『収束の聖域』って大げさな……。普通に708号室とかでよくない……?
教授が扉の中央に手のひらを当てると、両開きの扉はゆっくり内側へ開いた。そこに広がっていたのは、天井が高く、開放感のある大広間だった。背の高い窓からは、アカデミーの敷地が一望できる。室内は円形劇場のような造りで、中央の壇を囲むように段差のついた座席が並んでいた。
そこにはすでに、クラスSの2年生たちが思い思いの席についていた。
エイミーはすぐに、部屋の大きな窓のそばの席にいるクロウを見つけた。周りにはいつもの面々――アッシュ、ライラ、レインがいる。少し離れた場所では、細身の黒髪の少年が一人、古びた書物に読みふけっていた。おそらくザイドだ。ほかの2年生たちも室内のあちこちに散っており、一人で勉強している者もいれば、小さなグループで固まっている者もいた。
ヴァンハイム教授が咳払いをすると、室内の視線が一斉に集まる。「2年生諸君、こちらが新しい同級生たちだ。同じクラスSの一員として、相応の礼節をもって接するように」
室内の空気が変わった。ただ好奇の目を向ける者もいれば、遠慮なく値踏みする者もいる。なかには、ライラのように――たぶん嫉妬もあって――明らかに身構えている者もいた。
ヴァンハイム教授の紹介が終わっても、1年生たちは入口のあたりで所在なさげに立ったままだった。2年生たちは、さまざまな視線を彼らへ向けている。
「彼らを任せるぞ、リリエンヌ」ヴァンハイム教授は、緑髪の教授へうなずいた。「カエレン、ドレイク。少し話がある」
三人の男性教授が去り、学生たちの前にはリリエンヌ教授だけが残った。彼女は優雅な足取りで中央の壇へ向かう。その豊かな緑の髪は、風もないのにさらさらと揺れていた。
あの髪、何のシャンプー使ってるんだろ。私も欲しい……。
「1年生のみなさん、好きな席に座ってください」彼女の澄んだ声は、広い部屋の隅々まで自然に届いた。「今日は本格的な講義というより、特殊能力と、それが魔法理論の中でどう位置づけられるのかを知ってもらうためのオリエンテーションです」
エイミーは、ほかの1年生たちが思い思いの席へ向かうのを眺めていた。アルバとステラは予想どおり二人で行動し、前のほうへ向かう。タレンは貴族出身らしい2年生たちのそばに、抜け目なく席を取っていた。リサンダー、もう一人の男子生徒、それからエイミーがまだ名前を知らない紫髪の少女は、それぞれ周囲と距離を置ける席に落ち着いた。
その流れに合わせるように、エイミーは部屋の後方に席を取った。ザイドからもクロウたちのグループからもできるだけ離れつつ、リリエンヌ教授が見える位置だ。隣の空いた机に鞄を置き、中の本からも授業の様子が見えるようにしておく。もっとも、人間のように物を見る目があるわけでもないのだから、意味があるかは怪しかったが。
全員が座ったのを確認してから、リリエンヌ教授は話し始めた。「本日は、特殊能力の基本的な性質について扱います。通常の魔法と何が違うのか。魔法理論とどのように関わるのか。そして、なぜ特定の個人に発現するのか」
彼女が手を振ると、壇の上空に複雑な図が浮かび上がった。
エイミーには、それが何を表しているのかさっぱりわからなかった。
「魔法とは、本質的には自然界のエネルギーを操ることです」リリエンヌ教授が説明した。「学習と訓練を重ねれば、十分な適性を持つ者なら誰でもそれらのエネルギーを導き、特定の効果を生み出せるようになります。呪文と呼ぶものですね」
図が変化し、流れがより整った形へと組み替わっていく。
「一方で、特殊能力は――」彼女は明るく輝く結節点を示した。「魔法的な潜在能力が、その人固有の形で生まれつき表れたものです。一般的な手段で教えたり、学んだりすることはできません。その人自身に根ざした力なのです」
ゆらめく図の光を見ているうちに、エイミーのまぶたは重くなってきた。集中し続けるのが難しい。教授の声も、遠のいたかと思えばまた近づくように聞こえた。
[授業は始まったばかりですよ。これほど早く退屈されるとは、さすがに予想外です]
エイミーは目をこすった。「それくらい学校が嫌いなだけ。昔からずっと」あくびをかみ殺しながら、ぼそぼそとつぶやく。「それに昨日の夜、ほとんど寝れなかったじゃん。あの査定で残ってた体力も全部持っていかれたし」
[事情は理解できますが、少しは聞く努力をしたほうがよいかと。この情報は、あなたの状況に関係する可能性があります]
エイミーは鞄へ視線を落とした。「どれくらい関係あるの? 『時間の無駄』から『このクソ退屈な話を聞き逃したら、たぶん普通に死ぬやつ』までで言うと」
[あなた固有の能力――まだ十分に理解できていない力の性質を考えると、その中間あたりでしょう。今すぐ致命的というほどではありませんが、役に立つ可能性はあります]
エイミーは息を吐いた。「……わかった」
背筋を伸ばし、無理やりリリエンヌ教授の話へ意識を戻す。教授はちょうど、特殊能力の分類体系について説明しているところだった。
「……大きく分けると、5つの主要分類があります。身体強化、元素適性、精神投影、現実改変、そして予知洞察です」リリエンヌ教授の浮かべていた図は、異なる色で区切られた五芒星へと変化していた。「登録されている能力の大半は、このいずれかに分類されます。もちろん、きれいに当てはめられない例外は常に存在しますが」
2年生の中にはメモを取っている者も数人いたが、多く――とりわけクロウの近くに座る者たちは、話を半分も聞いていないように見えた。彼らにとっては、明らかに復習内容なのだろう。
「特殊能力がとりわけ興味深いのは、通常の魔法訓練から独立している点です」リリエンヌ教授が続ける。「魔法教育をほとんど受けていない者が極めて強力な特殊能力を持つこともあれば、熟達した魔導師が特殊能力をまったく持たないこともあります」
彼女はそこで言葉を切り、室内を見回した。「ですが、魔法訓練と鍛え上げられた特殊能力が組み合わさったとき、その結果は……目を見張るものになります。みなさんがここにいる理由も、まさにそこにあります」
空中の図が再び変化し、今度は虹色の光を脈打たせる複雑な螺旋を形作った。
「外部のエネルギーを利用する呪文とは異なり、特殊能力は使用者のマジカルコア(魔力核)から直接力を引き出します。そのため効率は高いのですが、負担も大きい。過剰使用は深刻な結果を招くことがあります。最も一般的なのは魔力焼損ですね」
何とか聞こうとはしたものの、エイミーの意識はまたもさまよい始めた。内容そのものが退屈なわけではない。問題は、疲れが限界に近いことだった。眠気を振り払おうと、彼女は自分の腕を強くつねる。
リリエンヌ教授はその後1時間ほど、特殊能力の理論的基礎、歴史的意義、そして各文化圏における多様な発現例について解説した。時折、学生――主に2年生――を指名し、例や補足説明を求めた。
そしてようやく、講義が終わった。
「本日の概要説明はここまでです」リリエンヌ教授が優雅に手を振ると、魔法の図が霧散した。「明日は午前9時ちょうどから、より実践的な内容に入ります。授業名は『特殊能力チャネリング技法』です。みなさんの詳しい時間割は、明日の朝に配布します」
学生たちが持ち物をまとめ始めると、教授はさらに言い添えた。「1年生のみなさんは、残りの時間を使ってアカデミー内を見て回るとよいでしょう。もちろん、立ち入りが許可されている区域に限りますが、早めに構造に慣れておくことをおすすめします。2年生のみなさんは、質問があれば答えてあげてくださいね」
エイミーは、疲労で重くなった手足を動かし、ゆっくりと席を立った。鞄を肩にかける。寮室を探し当てて、夕食までの数時間、ベッドに倒れ込みたくて仕方がなかった。
もう面倒ごとはうんざりだった。ただ横になって、何も考えたくない。ガスパール家のことも、微妙に使えない自分の能力のことも、ファンタジー世界へ異世界転移し、それを受け入れるしかない現実も、まして物語の本筋や世界の終わりに関わることなんて、絶対に考えたくなかった。望みはただ一つ。ベッドで腐って、何もしないこと。
けれど、物事はそうそう彼女の望みどおりには進まない。
クロウが、先ほどと同じ思案げな表情でこちらを見ていた。仲間たちと短く言葉を交わすと、彼は立ち上がり、まっすぐエイミーのほうへ歩いてきた。
[厄介ごとの到来です]




