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Ch6- Gaspards./ガスパール家(3)

「見事です」カエレンは、並びを変えたネクサス・ストーンを観察しながら言っていた。「訓練を受けていない予見者としては、並外れた力です」


 エイミーは体勢を立て直し、今起きたことをどうにか飲み込もうとした。演技ではなかった。実際に何かが起こったのだ。自分では制御も理解もできない何かが。


「石がここまで……激しく反応することは、めったにありません」カエレンは、先ほどまで以上の鋭さを帯びた黒い目で彼女を捉えた。「具体的に、何を知覚しましたか?」


「糸です」エイミーは、できるだけ事実に沿って答えることにした。「意味のある地点同士を結んでいました。一本を終点まで辿ろうとしたら、圧倒されてしまって」


 カエレンはゆっくり頷いた。


「想定どおりです。予見系の能力は、魔法の中でもとりわけ肉体と精神に大きな負担をかけます。適切な訓練と制御なしに長く使えば、深刻な結果を招きかねません」


 彼は、新たな並びへと変わった石を収めた箱の蓋を閉じ、脇へ置いた。


「あなたには、力に耐える強さと、踏み込みすぎない抑制の両方を身につけてもらう必要があります、ミス・ステイク。あなたの潜在能力は相当なものですが、そのぶん危険も大きい」


 それまで戸口で黙って見ていたヴァンハイム教授が、前へ出た。


「君の訓練計画には、専用の持久力訓練を組み込む。予見者にとって、肉体の鍛錬は不可欠だ。予見の力を扱っても、身体が耐えきれるだけの強靭さが必要になる」


 エイミーは頷いた。内心では、体力訓練という響きにすっかりげんなりしていた。スポーツなんて、昔から大嫌いだったのに……。


「もう一つ」カエレンがエイミーへ近づく。「先ほど見たものの中で、何か……阻まれるような感覚はありましたか? 進もうとした先を遮られたり、別の方向へ逸らされたりするような感覚は?」


 エイミーはためらった。質問の意図を探る。


「おっしゃる意味がよくわかりません」


「時に」カエレンの声が、まるで内緒話のように低くなる。「予見の領域で、ほかの力が予見者の知覚に干渉することがあります。とりわけ、ある種の……慎重を要する道筋を探る場合には」


 その口調には、何か探りを入れるような響きがあった。エイミーの警戒心が一気に跳ね上がる。


「いいえ」エイミーは言葉を選んだ。「私自身の限界だと思います。先生がおっしゃったとおり、まだ訓練を受けていないので」


 カエレンは表情の読めないまま、しばらく彼女を見据えた。そして唐突に微笑む。だがその仕草は、不気味な黒い目に一切の温度を与えなかった。


「ところで、私の甥であるザイドも予見者だと知っていましたか? クラスSで予見能力を持つ生徒は、あなた以外では彼だけです」


 ザイドの名を聞いた途端、エイミーは内心で身構えた。それでも表情は変えない。漫画の中で、彼は後に物語に深く関わる脇役だった。ただし、善人とは言い切れない。むしろ、かなりグレーな立ち位置だ。


「ガスパール家には、予知魔法の長い伝統があります」カエレンは、じっと彼女を観察しながら続ける。「この分野において、我々は……他家とは一線を画す知見を有しています。ガスパールの血を引かない者が真の予見者としての力を発現するのは、きわめて稀です」


[独占をずいぶん上品に言い換えましたね]


 人を見る目には自信があるエイミーには、ガスパール家が自分を歓迎していないことくらい、難なく察せた。


「知りませんでした」エイミーは淀みなく嘘をついた。「私の家系で魔法の才を示したのは、私が初めてですので」


「なるほど」カエレンの笑みは貼りついたままだ。「実に興味深い。あなたとザイドは……一度、話してみるといいかもしれませんね。彼にとっても、あなたの予見手法を知ることは大いに刺激になるでしょう」


 提案自体は穏やかに差し出された。けれど、その底にはエイミーの本能をざわつかせる何かがあった。カプ推し勢のコメントを読んだときの、あの嫌な感覚に似ている。しかも、それよりずっと気持ち悪くて怖い。


「そうですね。機会があれば」


 エイミーは当たり障りなく返した。


 言葉のあと、沈黙が落ちる。ほんの数秒のはずが、ひどく長く感じられた。二人は互いの目を見たまま動かない。


「では」二人のにらみ合いに割って入るように、ヴァンハイム教授が口を開いた。「ミス・ステイク、君の査定は以上だ。ほかの生徒の評価が終わるまで、待機場所に戻っていなさい」


 エイミーは頷いた。解放されたことに安堵しながら、扉へ向かう。


「ああ、ミス・ステイク」背後からカエレンが呼び止めた。振り返ると、黒い目が彼女を射抜くように見ている。「先ほどのような予見には、十分気をつけなさい。踏み込まないほうがいい道もあります。とくに、自分が何を見ているのか、完全には理解していない者にとってはね」


 エイミーは平静を保ったまま部屋を出た。けれど、ねじれた廊下へ戻った途端、震える息が漏れる。


[いやはや、ずいぶん強烈な査定でしたね。しかも、なかなか面白い結果です。あなた、本当に何か見えていたのですか? それとも演技でした?]


「今回は、ほぼ本当」エイミーは声を落として囁いた。「実際、何か見えた。というか、『レベル2』ってどういう意味?」


[そのままの意味です。能力レベルが上がりました。おめでとうございます]


「……どうも」エイミーは呟いた。「そのシステムとやら、あとでちゃんと説明してもらうから。こっちはまだ仕組みが全然わかってないんだから」


[ええ、そうしたほうがいいでしょう。今後の授業にも役立つはずです]


 エイミーはため息をついた。


「授業といえば、あの不気味な先生には気をつけないとね……それから、ザイドにも」


[はい。増え続ける懸念事項リストに、また一つ追加ですね]


「思い出させてくれてどうも」エイミーは乾いた声で返す。「これ以上、厄介ごとはいらないんだけど」

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