Ch4- Crowamy./クロウ×エイミー(2)
[最初に、どちらを表示しますか? 本編ですか、それとも読者コメントですか?]
「まずは本編から」
エイミーは勢い込んで、ソファの端へにじり寄った。「さっき起こったことが、漫画だとどう描かれてるのか見たい」
本のページがぴたりと止まり、さらに強い光を放ち始めた。小さな琥珀色の革装の本が、ゆっくりと色鮮やかな漫画の単行本へ姿を変えていく。変化が終わると、エイミーは身を乗り出し、その表紙に目を見開いた。
表紙では、メインの四人組が手前に大きく描かれていた。いつもの陰気な仏頂面をしたクロウ、氷のような気品をまとったレイン、明るく笑うライラ、自信たっぷりに立つアッシュ。その後ろには、エイミーの知る物語ではクラスSの2年生にあたる九人が、構図の中にバランスよく収まっている。
「うわ、待って」
エイミーは息を呑み、慎重に本を手に取った。「これ……私じゃん」
いた。背景の影の中、石のベンチに腰掛け、瞑想でもしているように半分目を閉じている。描かれた彼女には、どこか幻想的で、浮世離れした雰囲気があった。
「私、表紙に載ってる!」
エイミーは声を弾ませた直後、自分のはしゃぎっぷりが恥ずかしくなり、慌てて取り繕った。「まあ、隅っこに追いやられてるけど……」
[表紙の真ん中を飾りたかったのですか?]
「そういうわけじゃないけど……でも、隅って。なんでそこなの? しかも影に隠れてるし。ちょっと悪役っぽく見えるんだけど……」
エイミーは眉を寄せた。「何か悪いこと企んでる顔してない?」
[あなたらしいですね]
エイミーは呆れ顔で、改めて自分の絵を観察した。「でも、綺麗に描かれてる……金髪も金色の瞳も、ちゃんと光って見えるし。スタイルもなかなか……どうせなら胸はもうちょい盛ってくれてもよかったけど……」
[地球人の女性は、皆あなたのように品がないのですか?]
「もっとひどいよ」
いつまでも表紙だけ眺めているわけにもいかない。エイミーは早速漫画の1ページ目を開いた。
話は、クロウが幼い頃を過ごした孤児院を訪れる場面から始まっていた。質素な廊下を歩くクロウを、年下の子供たちが大喜びで迎える。そんなコマが続いていく。
「あーはいはい、お辛い過去回ね」
エイミーは、自分の登場シーンのほうが気になっていたので、その辺りはさっさと読み飛ばした。「孤児院訪問、思い出話、はい退屈……」
そして場面が茶館へ移ると、エイミーはぱっと顔を上げた。
「来た!」
コマの中では、クロウが隅の席に一人で座り、物思いに沈んだ様子で窓の外を眺めていた。モノローグ枠には、彼の内心が記されている。
『新任講師の噂が本当なら、ようやく父さんにつながる手がかりが――』
その思考は、鋭い目が何かの動きを捉えたところで唐突に途切れた。次のページには、近づいてくるエイミーの姿が見開きいっぱいに描かれていた。隣には本が浮かび、エイミーと本の一部は、演出めいた影に隠されている。薄暗い茶館を背景に、エイミーの輪郭からは金色の光がにじんでいるようだった。クロウでさえ言葉を失っている。
「筋金入りのアンチとしても、このコマは普通に認めるしかないわ」
エイミーは、自分の描写を隅々まで眺めながら呟いた。「人間って、こんな綺麗に描かれるんだ……」
[ずいぶん美化されていますね。どう見てもあなたではありません]
「もう、たまには素直に褒めてくれてもよくない?」
[失礼ですね。私は十分優しいつもりですよ。実際、かなり手を貸しているでしょう? ただ、あなたの自画自賛に付き合うのは、そろそろ飽きてきました]
「はいはい、もう次行くから」
次の数コマではクロウの顔がアップになり、エイミーに気づいた彼の目が少し見開かれていた。頭の横に添えられた小さなモノローグには、こう書かれている。
『見慣れない顔だ……それに、隣に浮いているあれは――アーティファクトか? こんな場所で?』
二人の会話は、緻密に描かれたいくつものコマにまたがって続いていった。エイミーがアカデミーへの入学を希望していると口にした場面では、クロウの反応が見事に拾われていた。目がほんの少し見開かれ、肩にかすかな緊張が走る。
『アカデミー志願者? こんな茶館で? しかも、入学手続きの締め切り間際に?』
思考の吹き出しは、さらに続いた。
『辻褄が合わない』
「最初から疑ってたんだ」エイミーは呟いた。「私、かなり自然にやれてると思ってたのに……」
漫画は続き、エイミーを助けるべきか迷うクロウの内心が描かれた。隅には小さな回想コマがあり、雨の中、幼いクロウが外套をまとった人物に助けられている。
『……迷子になる気持ちなら、俺にもわかる』
彼のモノローグはそう綴っていた。
「この回想、ちょっと差し込み方が強引じゃない? まあいいけどさ……」
[悪くはありません。あなたがアンチ目線なだけです]
茶館を出ると、絵は街並みを見せる構図に切り替わった。天へ伸びる尖塔と石畳の通りが、息を呑むほど細やかに描き込まれている。二人が歩く様子を追うコマの合間には、クロウが横目でエイミーを観察するアップが差し込まれていた。
『彼女には、妙なところがある』
クロウの思考が続く。
『あの本も……ただ浮いているだけじゃない。意識がある。ブラッドエッジに似ているが、どこか違う。彼女はオニキスの部族と関係があるのか? アカデミーへ潜入するために送られた密偵か?』
「あ、私のことスパイだと思ってたの?」エイミーは声を上げた。「疑い深すぎでしょ」
[私に言わせれば、妥当な反応です]
「あんたの意見は聞いてないから」
続くページでは、エイミーが「兆しを待っていた」と話すやり取りが描かれており、特にクロウの反応へ焦点が当てられていた。エイミーが彼こそ待っていた兆しだと告げたコマでは、クロウの頬にうっすら赤みが差している。
エイミーは慌てた。
「口説いたつもりないんだけど!? 何この空気!」
[作画からして、二人の間に何かあると思わせたいようですね]
「うわ、無理。絶対イヤ。ベタな恋愛展開に巻き込まれる気はないから」
[幸い、あなたの希望で展開が変わるわけではありませんから]
「……」
エイミーは唇を引き結び、本の挑発は無視して読み進めることにした。




