Ch3- Scammer./詐欺師(6)
エイミーは息を呑んだ。体の内側から力が噴き上がり、金色の光が体の芯から波のように広がっていく。それに呼応するように、本の表紙に刻まれた三角形がまばゆく輝き、ページが激しくはためいた。
試験官たちが驚いて身を引く。エイミーの瞳には、この世ならざる光が宿っていた。ヴェリタスの鏡の表面が激しく波打ち、目覚めたばかりの力に応えている。
「女神の名において――」
銀髭の老人が言いかけたが、その声は途中で途切れた。鏡面がふいに静まり返り、ガラスのように澄み渡ったからだ。そこに映っているのは部屋ではなかった。目まぐるしく切り替わるいくつもの場面。未来の出来事が、早送りの映像のように次々と流れていく。
編み込み髪の女性が椅子から立ち上がった。先ほどまでの疑いは消え、隠しようのない畏怖に変わっている。
「時間投影……」彼女は呟いた。「私の知るどの型とも違う……」
銀刺繍のローブを着た職員が一歩後ずさった。紫の瞳が、信じられないものを見るように見開かれている。
「これは……」
「驚異的だ」
銀髭の老人が言葉を引き継いだ。先ほどまでの疑念は、もうどこにもない。老人はゆっくりと椅子に座り直し、今度は明らかな敬意を込めてエイミーを見た。
「どうやら謝らねばならんな、ミス・ステイク。あなたの才は……我々の知る型には収まらない。だが、予見の才であることは認めざるを得ない」
エイミーは深く息を吸った。目に宿っていた金色の光が少しずつ薄れ、意識がようやく現実へ戻ってくる。押し寄せていた幻視は引いていき、扱える程度の断片だけが意識の端に残った。
何、今の!? やばいやばいやばい、心臓止まるかと思った……!
「これで証明になりましたか……?」
エイミーは落ち着いた声で言った。自分でも、どうやって平静を保っているのか分からない。
編み込み髪の女性は、強い興味を隠そうともせずエイミーを見ていた。
「アカデミーに長くおりますが、このような形で力を発現させる予見者には出会ったことがありません」
彼女は同僚たちへ視線を向ける。
「結論は出ましたね」
銀髭の老人が厳かにうなずいた。
「そのとおりだ。エイミー・ステイク、あなたのアルカナム・アカデミーへの入学を正式に認める。あなたの才は、予知魔法の希少変種――『フェイツ・サイト(運命視)』として分類されるだろう」
老人はそこで言葉を切り、改めてエイミーを観察した。
「もちろん、専門的な訓練は必要になる。通常のカリキュラムでは足りまい。あなたのような特例は、間違いなくクラスSへ直接配属されるだろう」
職員が一歩前に出た。
「必要な手配は、私が責任を持って進めます」
その声には、もう疑いではなく、抑えきれない興奮がにじんでいた。
「これほどの予見者をアカデミーに迎えるのは、何世代ぶりでしょうか」
エイミーは、安堵が顔に出すぎないよう必死にこらえた。
やった。
「ありがとうございます」
短くそう言って、できるだけ品よく見える角度で頭を下げた。
試験官たちが今後の手続きについて話し合い始める中、エイミーはようやく考えをまとめる時間を得た。
[もうおしまいかと思いました]
本が少し近くへ浮かび、声を潜める。
[まあ、終わりよければすべてよしです。これであなたは正式に王立魔術学院の学生になりました。おめでとうございます]
エイミーは小さく安堵の笑みを浮かべた。
「あの読者たちと忌々しい女神が、今回の話を死ぬほど楽しんでくれてるといいんだけど。こっちは寿命が縮んだ気分なんだから……」と、エイミーは小声でつぶやいた。
[話の更新内容と読者の反応が気になるなら、インターネットに接続しましょうか]
エイミーの目が少し見開かれた。
「え。あんた、そんなことできるの?」試験官たちに聞こえないよう声を潜めて尋ねる。
[はい。私がどうやって更新を追っていたと思っていたのですか? 何もないところから魔法の通知でも受け取っていると?]
エイミーがその情報を飲み込み、返事を考えるより早く、編み込み髪の女性がわざとらしく咳払いをした。
「ミス・ステイク」厳格な態度は残っていたが、先ほどの畏怖の名残のせいか、声はいくらか和らいでいる。「アカデミーでの生活を始める前に、いくつか手続きが必要です」
エイミーはすぐに姿勢を正した。授業中に手紙を回していて教師に見つかった生徒ではなく、きちんと話を聞く新入生に見えるように。
「はい、もちろんです」
「こちらへ」銀刺繍のローブを着た職員が扉を示した。「登録を完了させ、寮室を割り当てます。それから、学業に必要な物品もお渡しします」
エイミーが職員のあとについて歩き出すと、本も隣を漂い、期待しているかのようにページをかさりと鳴らした。
[更新内容の確認はあとにしましょう]
本が囁く。
[今は、アカデミーの基本的な手続きに戸惑いすぎて、不審に思われないよう集中してください]
職員はエイミーを連れ、曲がりくねった廊下を進んだ。奥へ行くほど、内装はさらに豪奢になっていく。磨き上げられた大理石の床は、やがて星々の営みや歴史上の出来事を描いた精緻なモザイクへ変わった。壁には魔法のかかった肖像画が並び、描かれた人物たちは、隠す気もない好奇心でエイミーを目で追ってくる。
「申し遅れました。リリエンヌです」歩きながら、職員は名乗った。「私は教授として、主に新入生の受け入れを担当しています。最初の一学期は、手続き面でも私が窓口を務めることになるでしょう。これからよろしくお願いします、エイミー・ステイク」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
内側で感情がぐちゃぐちゃに渦巻いているのを押し隠し、エイミーはどうにか落ち着いた声を保った。
最悪の山場を切り抜けた安堵。
ついに能力を手に入れた興奮。
そして、この先に何が待っているのかという、底の見えない恐怖。
控えめに言っても、これから数日は退屈しなさそうだった。どうか、それが命の危険とは無縁の意味であってほしい。




