Ch3- Scammer./詐欺師(5)
「私には、物がそういう形で見えるわけではありません」
エイミーは慎重に言い、女性の厳しい視線を受け止めた。
「私の予見は、帽子からウサギを取り出す手品のように、望んだときに望んだ答えを引き出せるものではありません。見えるのは、流れが一点へ収束する場所……選択が未来を分ける、その分岐点です」
銀髭の試験官が眉を寄せた。
「都合のいい言い逃れだな」
エイミーの中に、ほんの少し怒りが湧いた。老人の疑いどおり、完全なハッタリをかましているのは事実だったが。
「言い逃れではありません。これが私の能力の性質です」
「でしたら」エイミーを案内してきた職員が口を挟んだ。「ヴェリタスの鏡を用いてはいかがでしょうか」
室内の空気が一気に張り詰めた。編み込み髪の女性の唇が、きつく結ばれる。
「ヴェリタスの鏡は、特例に限って使用するものです」
女性は鋭く言った。
「軽々しく持ち出すものではありません」
「ガスパール家以外から現れた、新たな型の予見者候補ほど、特例にふさわしいものがあるでしょうか」
職員は引かなかった。
「彼女の才が本物なら、鏡がそれを示すはずです」
エイミーは表情を保とうとした。だが内側では、焦りが一気に膨れ上がっていた。いや、ヴェリタスの鏡って何。響きからして不穏すぎる。絶対に詐欺師を暴く系のやつじゃん。
[時間を稼いでください!]
本が急かす。
[更新はもうすぐのはずです]
「その鏡は、何を映し出すものなのですか?」
エイミーはどうにか、恐怖ではなく好奇心に聞こえるよう努めた。
「門外漢が、ヴェリタスの鏡の仕組みまで知る必要はない」
銀髭の老人が、取り合わない口調で言った。
「だが、あなたの才が本物かどうか――あるいは、そもそも才などないのかを明らかにする」
[時間を稼いで!!]
エイミーは必死に頭を回した。三人の試験官が、疑いと興味の混じった目でこちらを見ている。
「皆さんが慎重になる理由は分かります」
自信があるように聞こえることを祈りながら、エイミーは言った。
「ですが……もう少し一般的な方法で、能力を示すことはできませんか?」
編み込み髪の女性は首を横に振った。
「あなたはすでに標準試験を拒んでいます。代替手段は鏡だけです」
「あるいは、このまま立ち去るか」
銀髭の老人が冷たく付け加える。
「もっとも、入学登録の締め切りはもう過ぎているがな」
老人は部屋の奥へ向かい、ほどなくして、黒いベルベットの布をかけた背の高い物体を部屋の隅へ運んできた。エイミーのこめかみに汗がにじんだ。銀刺繍のローブを着た職員が、その布へ手をかける。
[本当にぎりぎりですね]
本が囁いた。初めて、声に緊張が混じったように聞こえる。
「待ってください」
必死に抑えたつもりなのに、エイミーの声は少し震えた。
「手順に入る前に、申し上げておきます。ごく限られた状況で私の能力が強く現れた場合、予測できない影響が出ることがあります」
編み込み髪の女性が鼻で笑った。
「ヴェリタスの鏡を避けるために、似たような主張をした者は大勢います」
「……避けようとしているわけではありません」
エイミーは一秒でも長く時間を稼ごうとした。
「ただ……何か損傷が出たときに、私の責任にされても困りますので」
銀髭の老人は、取り合う気もなさそうに手を振った。
「アカデミーのアーティファクトには、魔力の暴走に対する十分な保護が施されている。さて、進めるか。それとも、我々の時間を無駄にしたと判断してよいか?」
「よく考えなさい、お嬢さん」職員が忠告するように言った。「この魔道具を動かすには、相応の費用がかかります。本当に予見の才がないのなら、今ここで認めたほうが良いでしょう。無駄に使わせれば、高額な罰金を科される可能性がありますから」
「ご心配なく」
自分で思っていたより、声は落ち着いていた。エイミーは一歩前へ出る。
職員がベルベットの布に手をかける。耳の奥では、自分の心臓の音だけがやけに大きく響いていた。
布が取り払われる。現れたのは、精緻な銀細工で縁取られた豪奢な鏡だった。だが、その表面は部屋を映していない。水銀のようなものが絶えず渦を巻き、形を変え続けている。
「鏡面に手を置きなさい」編み込み髪の女性が告げた。「あとは、ヴェリタスの鏡に任せなさい」
エイミーは手を伸ばした。指先が震えている。
終わった……。これで、元の世界に帰る希望ともお別れだ。
もっと別のやり方を選んでいれば。あの女神が、あんな器の小さい負け犬じゃなかったら。
ほんと、人生クソすぎない……?
指先が、水銀めいた鏡面に触れようとした、その瞬間――
奇妙な痺れが、腕を駆け上がった。
[待ってください――]
隣に浮かんでいた本が、空中でびくりと固まる。
[何か起きています]
周囲の時間が引き伸ばされたように感じた。試験官たちの顔がかすみ、その動きは、蜂蜜の中を進むように鈍っていく。
次の瞬間、堰を切ったように知識が流れ込んできた。映像。感覚。まだ起きていない会話の断片。
中庭に立ち、剣を抜いて影のような者たちと対峙するクロウ。黄金の鍵の前で、愕然と顔を歪める黒髪の男。クロウの父親と同じ顔をした男――アバドン。アカデミーの地下深くに隠された、古文書で埋め尽くされた部屋。そして、今まさにヴェリタスの鏡の前に立ち、指先から力を放っているエイミー自身の姿。
[最新話が公開されました!]
本が、エイミーの頭の中で歌うように告げた。




