Ch3- Scammer./詐欺師(4)
「こちらへ」
エイミーはしぶしぶ、職員のあとについて扉をくぐった。大広間とは違い、小部屋はひどく簡素だった。中央に丸いテーブルがひとつ。背もたれの高い椅子が三脚。そのうち二脚には、すでにアカデミーの正装用ローブをまとった年配の人物が座っている。
「先生方」女性職員は軽く頭を下げた。「こちらの志願者は、予見の才があると申し出ています」
二人は興味を引かれたように顔を上げた。視線が一瞬だけエイミーの隣の本へ向き、すぐに彼女へ戻る。
「予見者?」
一人目の老人が、疑わしげに言った。銀の髭が、水中にあるようにふわりと揺れている。
「ガスパール家の者か?」
エイミーは唾を飲み込んだ。
「いいえ。私には名乗れる家がありません。少なくとも、皆さんがご存じのような家は」
二人目の試験官は、複雑に編み込んだ髪を頭上でまとめた、厳しい顔つきの女性だった。指先を組み、値踏みするような鋭さでエイミーを見る。
「あなたが修めている予見術の系統は?」診断でも下すような、鋭く無駄のない声だった。「時間投影? 夢渡り? 星辰予見?」
[時間を稼いでください]
本が、エイミーの頭の中で急かすように言った。
[更新はもう目前です。とにかく会話を引き延ばしてください。曖昧に答えて、相手に質問を増やさせるんです]
エイミーは必死に頭を回した。クロウとの会話で読者に植えつけた印象と、ここでの答えを合わせる必要がある。兆しを待ち、彼が現れることを知っていた謎の少女。
エイミーは背筋を伸ばし、できるだけ謎めいた人物らしく振る舞った。
「特定の系統を修めているわけではありません」
慎重に言葉を選ぶ。
「私に見えるのは、出来事に潜む規則性や、流れが一点に集まる場所……それから、道が交わる瞬間です」
銀髭の試験官は、編み込み髪の女性と目を見合わせた。
「岐路の予見者のようなもの?」
その声には、まだ疑念が残っている。
「近いです」
岐路の予見者というのが何なのかはまったく分からなかったが、エイミーはそう答えた。
「私に見えるのは、重要な瞬間――選択が未来へ波紋を広げていく、その起点です」
[うわ、本当に上手ですね]
本の声には、面白がるような響きがあった。
[その調子です。謎めいて。でも具体的にしすぎず]
編み込み髪の女性の目が、さらに細くなった。
「今日あなたをここへ導いたのも……その『兆し』ですか?」
エイミーはすぐには答えなかった。いかにも言葉を吟味しているように、少しだけ間を置いた。
「この扉の前に立つ自分が見えました」
エイミーは手で曖昧に周囲を示した。
「そして、ここへ来なければ、大切な何かが失われると分かったのです」
銀髭の試験官が鼻を鳴らした。
「そのわりには、準備する時間も残さないとは、ずいぶん都合のいい幻視だな」
[信じていませんね。方針を変えてください。自分の正しさを証明するのではなく、向こうにあなたの間違いを証明させるんです]
どうやって!?
エイミーは少し首を傾けた。
「何を、いつ見るかを、私が選べるわけではありません」
声には、かすかに反発を混ぜる。
「私にとって、時間は必ずしも一本の線ではないんです。明日起きることが、何か月も前に見えることもあります。逆に、何年も前の出来事が、今になって意味を持つこともある」
エイミーを案内してきた職員が眉をひそめた。
「それは予見というより、あとから意味づけをしているように聞こえますね」
「時間を一方向にしか見ない方々には、そう聞こえるのかもしれません」
[おお、言いますね!]
銀髭の老人が喉の奥で低く笑った。その声が、狭い部屋に重く響く。
「若いわりに、大きく出る」
彼は身を乗り出した。疑いは消えていない。だが、その目には興味も宿っている。
「いいでしょう。本当に予見の才があると言うなら、いくつか実演してもらおう」
編み込み髪の女性が、ローブの内側から小さな木箱を取り出した。無駄のない、正確な動きで、それを二人の間に置く。
「まずは簡単な試験から」
彼女の声はきびきびとしていた。
「この箱の中には3つの品が入っています。それぞれ何か、答えなさい」
エイミーの気分が一気に沈んだ。これは駄目だ。実際の力がなければ絶対に通れない、あまりにも分かりやすい試験だった。エイミーは隣に浮かぶ本へ視線を送る。何か、何でもいいから助言がほしい。
[まだ次の話は更新されていません]
本が頭の中で告げた。妙に軽い口調が、いっそう腹立たしい。
[落ち着いてください。こういう試験には、たいてい問題の出し方に穴があります。中身を当てようとするのではなく、文字どおり箱の外から考えるんです。試験そのものに目を向けてください]
エイミーは息を整え、選択肢を探した。拒めば即座に落とされる。外しても同じ。けれど、試験の前提そのものをずらせるなら……。




