過去の歴史なんて、誰も知らない
その場所は、観光地だった。
僕は、乱暴に砂利の上に落とされた。
「いた!もう少し、丁寧に降ろせよ!」
「これ以上?」
梨杏は、肩をすくめた。
観光客らしい女性達が、僕らのやりとりを診て、笑いかけた。
元は、御所だったのか、広い敷地は、敷き詰められた砂利で、歩きにくい。
広い庭園は、どこまで行っても、同じ景色で、
よくある日本庭園だった。
とこどころに植えられた花が、その庭の広さを、物語っていた。
変わり映えしない庭。
視界いっぱいに広がる池という池。
行き交う錦鯉。
連なる低い屋根の建物は、案内板がなければ、どこが、出口で、入口なのか、わからなかった。
観光客達は、案内版を元に、一方方向に進んでいる。
「観光しにきた訳では無いけど」
「それは、私も、同じだ」
梨杏は、観光客が、向かう方向から、外れた所にある垣根を指した。
「お前は、そっち」
「お前って?」
こうも、雑になる訳だ。
梨杏は、観光客のいない人気の無い建物を指した
備品を入れておく倉庫なのか、
スタッフの控え室なのか、
人気が無い建物が、そこにあった。
「何だよ」
入り口を垣根で、覆われ、人が入っていくのを、誰も、見る事ができない。
京都の町屋に、よくある建物だった。
「こんな所に、用事ないけど」
「向こうが、どうしても話したいと」
「僕に?」
古い扉。
油断すると、指先にささくれ立った木片が、刺さってしまいそうだった。
右手をかけると、意外に軽い。
カラカラと音を立てながら、扉は、開いた。
「あ?」
中には、目つきの鋭い男性、2人が立って、僕らを迎えた。
梨杏と目が合うと、軽く会釈する。
何者なんだ。
建物内は、意外と明るい。
重い空気が、漂っているが、差し込む日差しは、明るい。
正面の長い廊下を歩いていく
周りが、観光地で、人気が多い中に、こんな建物があるなんて。
針を隠すのには、針山か。
人を隠すには、あえて、観光地を選んだのか。
この賑わいの中で、この場所だけが、ひっそりとし、
時間が止まっているようだった。
誰も、人は、いないはずなのに、
どこからも、人の気配を感じられた。
ここは、一体どこなんだろう。
鏡のような廊下を滑るように、進む。
そこの一番奥が、
梨杏の目的地だった。
「入るといい」
梨杏は、言った。
「僕、1人?」
「ここで、待っている」
歴代物の襖に手をかける。
薄く開けた所で、僕の手は止まった。
「ん?」
御簾がかかっている。
「?」
思わず、梨杏の顔を見上げる。
「入って」
「・・・」
きつい香が、漂う。
僕は、気が乗らないまま、その部屋に入った。




