歪んだ愛と償いと因縁と。
梨杏が走る。
僕を抱えて、いとも簡単に宙を舞う。
「あのさ・・」
梨杏の首にしがみついたまま、
見上げた。
女神。
そう言う言葉が合う。
闘う事もできるんだろう。
皮膚の感触は、女性のそれよりも、少し硬いだけで、
髪は、シャンプーの香りがした。
バラの香?
アンドロイドも、髪を洗うのだろうか。
そう思った。
風になぶく髪先が鼻をくすぐるので、
思わず、くしゃみをした途端、
危うく、落ちそうになった。
「やべ」
そう思った。
間違いなく、落ちる。
この感覚。
背中に翼が生えたような。
空を切って、落ちると言うより、
空気が、僕の背中をそっと支え、周りの空気は、抵抗した。
と言うより、
空気の塊に支えられた。
「えぇ?」
「いい加減・・・」
冷たい声が響いた。
「いい加減、辞めませんか?知らないふり」
「いや・・・本当に、僕は」
「ふん・・・」
見下ろす梨杏。
「いや・・・あの。あれ?」
僕の両腕は、梨杏の首から離れていた。
「どういう?」
梨杏と同じく宙に立っている?
下は、見下ろす緑の山々。
木立のてっぺんが、足先に届きそうな高さに、僕らは、立っている。
「え?落ちる?」
と思った瞬間、重力を感じて、下に落ちそうになる。
梨杏が気づいて、さっと僕の手を引く。
「君は、一体、僕をどう思っているの?」
味方なの?一体、何をするために、現れたの?
そう聞きたかった。
「私は、誰の味方でもない」
「だけど、司令されてたよね」
明らかに現れた、あの2人。
「あなたの命は、守るように言われている」
「だよね・・・」
少し、安心した。
「ただ・・・状況が変わった。あなたをまた、連れ戻しに来た。が、過去の間違いに気づいた」
「連れ戻し?過去?」
梨杏に手を引かれ玉砂利の敷かれた広い屋敷が立ち並ぶ一角に、降り立つ。
「ここは・・・」
過去に、修学旅行で来た事がある。
そう。
ここは、過去に御所のあった場所。
「思い出したか?」
「何を?」
「宙に飛んだ時、どんな感じだったか」
宙を飛んだ時。
風を切る肌の感覚。
流れる空気が、肌を真綿で包む。
柔らかく、そっと押し上げる感覚。
懐かしい。
梨杏と一緒だったせいか、怖くなかった。
あの感覚。
「初めてで、ない・・だろう?」
「え?」
梨杏は、軽く笑うと、スタスタを歩き始めた。
行き先は、観光客が入れない立ち入り禁止の奥の扉。
「そこは、誰も入れない・・・はず?」
重い扉は、軋みながら、その口を開けていた。




