現実の裏
「誰?」
妙に甲高い声を出したのは、兄貴だった。
「やめろ!来るな!」
手に持っていた本を投げつけ、暴れる。
その狂乱ぶりは、目を見張る。
「だめだ!渡せない!」
急に、飛び出し、僕を抱きしめる。
「だめだ!だめだ!」
「ちょっと、待って!兄貴」
記憶を失くしてから、何処にでもいる、優しい兄貴。
眼差しも変わり、
これが、本当の兄貴なのかも。
そう思えていた。
思いは、吹っ飛んだ。
兄貴。
錯乱している。
「兄貴!どうしたの」
「だめなんだ・・・」
そう言い、僕を逃すまいと、衣服を掴む。
「すみません・・・どちらさん?」
兄貴の狂乱ぶりに、僕の身に起きた不思議な出来事を忘れていた。
「あの・・・助けに来ました」
「助けって?」
どう見ても、どこかの体操選手みたいな、衣装だった。
僕みたいな、仕事をしているタイプもいるから、そういう関係かと思った。
「まさか、誤作動するなんて」
「誤作動?」
梨杏の事だ。
「試験的に作られたアンドロイドなんですが・・・」
梨杏は、誤作動で、行方知らずになったと言う。
「回収にこさせてもらって」
じっと、見る兄貴の目が怖い。
「奏に触るな」
兄貴が、割って入る。
「あなた・・・」
女性の方が、僕の顔に見入る。
じっと、見つめて泣き出しそうだった。
「やめ!」
1人が、止めに入る。
どうして、僕の顔を見て、泣き出しそうなのか。
慰める様に、寄り添う1人。
一体、何があったのか、わからない。
「うっ!」
その時、様子を見ていた美里が、両手で、口を押さえていた。
「あ・・」
美里の容態が良くない。
「美里?」
口を押さえる指の間から、とめどめなく、血液が流れる。
「兄貴・・・」
美里は、兄貴が、不死薬を持っていと思っていた。
そこまで、追い詰められていたのだ。
「彼女は?」
「助けを必要としています」
僕は、言った。
どうして、その時、得体の知れない2人に言ったのか、意外だった。
何かを察したのか。
2人は、顔を見合わせると、
ちいさな小瓶みたいなのを、取り出した。
その体のラインにピッタリと吸い付いた衣服から、
「これを、飲めば一時的に良くなります」
得体の知れない人から、差し出された薬を安易に飲む事ができるのか。
余程、
僕は、追い詰められていたのだろう。
梨杏を回収に来たと言う2人の言う事を信じた。
小瓶を受け取り、匂いを嗅いだ。
どこか、懐かしい香がした。
「信じますか?」
1人が聞いた。
僕は、返事もせず、美里の目の前に差し出した。




