兄貴の記憶と僕の罪
「梨杏!」
兄貴は、苦痛に顔を歪めた。
そりゃ、そうだ。
怪力の彼女が、兄貴の頭を片手で、包み込み、握りつぶそうとしているのだから。
「僕は、美里を助けてと言った。兄貴を苦しめろとは、言っていない」
「だからです」
梨杏は、笑った。
「記憶がないふりをしているのかもしれません」
とんでもない。
イカれている。
僕が、拾ってきた女の子は、僕らの価値観と違う。
人ではない。
何処から来たのか。
「離せ!」
華と言って、こんな兄貴でも、害をなす奴は、放って置けない。
「兄貴の事は、僕に任せて。一切、責任は、持つから帰してくれないか?」
龍さんと梨杏に言う。
「美里も追い詰められて、こんな事をしたと思う。兄貴が、記憶を取り戻さない限り、進展しないし。家に帰りたい。龍さん、いいだろう?」
「命の保障は、ないですよ」
「相手が、どんな組織か、わからないけど。ここにいても、変わらないし、勿論、龍さん達も、僕らを見張るつもりなんだろう?なら、帰っても、いいじゃないか」
敵と思っていても、味方の場合がある。
「兄貴が、何をしたか、家に戻ればわかるかもしれない。美里だって、側に居てやりたい。」
「罪人の気持ちは、罪人しかわからないものです」
そう梨杏が、言って、手を離した。
「罪人?」
僕が?
「一番の元凶を作ったのは、あなたです」
「え?」
僕の全てを身母してくれていると、思っていた、梨杏の言葉は、全て、僕に向けられている?
「梨杏?君と知り合って、そんなに、時間が経っていないのに、何を言う?」
「それは・・・」
梨杏の動きが、少し、鈍くなった。
次第に目が虚になり、眠りにつくように、床へと崩れ落ちて言った。
「どう言う事だね?彼女は」
龍さんは、まじまじと、梨杏を見下ろした。
「わかんないんです。突然、現れて・・・」
敵か味方か、わからない。
ただ、僕は、僕の家族や友人を守りたい。
「龍さん、わかってくれますか?」
「だとしたら、約束して欲しい。もし、何か、手がかりがあったら、必ず、教えて欲しい。命に関わるから」
「命に関わるって・・・」
「私達も、然るべき所に返したい。だが、あまりにも、欲しがる輩が多すぎて・・・」
「一体・・・何なんです?」
「信じてくれないかもしれない・・・かぐや姫というお伽話を知っているか?」
「かぐや姫?」
動かなくなった梨杏の瞳の奥が、ほんの少し、揺らいでいた。




