周りは、みんな敵!
「誰?」
目の合った瞬間、兄貴は、そう言った。
「誰って・・・」
僕は、言葉を飲み込んだ。
到底、わかるはずが無い。
そう予感したから。
「どこのお嬢さん?」
ゾッとした。
確かに、バイトから帰って、そのまま逃げ出したから、女装のままだったけど、
兄貴がそんな事を言うなんて。
いつも、下品で、最低な兄貴が使う言葉でなかった。
「綺麗な髪ね」
指先で、長い僕の髪をを指に絡める。
「触るなよ」
梨杏が、嫌った。
最初から、梨杏は、兄貴を警戒している。
こんなチンピラにも、成れない下の下のパシリなんて、誰でも、嫌うと思うが、
最初から、梨杏は、兄貴を敵視している。
空気でわかった。
「ごめんなさい」
兄貴は、僕の髪から手を離した。
「お嬢さんに、悪い事したのかな。嫌われているのかな」
兄貴は、寂しく笑った。
真っ直ぐに、育っていれば、こんな兄貴だったんだろう。
どこで、どう、曲ったのか、
クズ野郎が、僕の本当の兄貴だった。
「蒴?大丈夫?」
僕と梨杏の影に隠れていた美里が、顔を出した途端だった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
兄貴は、布団に体を沈めた。
顔を隠し、自分を抱きしめる。
「本当に、知らないんです。本当なんです」
「え?」
みんな一斉に顔を、見まわした。
「何があった?」
美里が顔を顰めた。
バイタルを監視していたモニターが、動き始める。
バイタルが狂い出す。
「え?待って?」
何が起きた?
整理する。
美里の顔を見て、怯え出す兄貴。
ぐるっと、辺りを見渡す梨杏。
廊下が、騒がしくなり、バタバタと白衣を着たスタッフが、走り込んで来る。
「ちょっと、待って!」
梨杏が、そのうちの1人の手首を掴んだ。
「あなた・・・スッタフじゃないでしょ」
「え?ここにも?」
梨杏が、手首を引っ張ると、あえ無く転倒するスタッフ。
その様子を見て、逃げ出す他のスタッフ。
「一体、何が起きて・・・」
梨杏は、周りを見渡すと、閉まっていた他のベッドのカーテンを開け始めた。
一人、また、一人と・・・。
ベッドにいた筈の、人影がない。
「気付き始めたか・・・」
梨杏が、僕の手を掴んだ。
「ここから、出る」
「いや・・・兄貴もいるし、どうして」
「始まっている」
「何が?」
梨杏は、兄貴や美里から、僕を引き離そうとしていた。
「誰も、信じるな!」
そう言った時、
美里が、兄貴の首に手を回した。
「動くな!」
僕にとって、衝撃だった。




