足元から崩れ落ちる日常
「大怪我?って」
僕は、龍さんの顔を見た。
「救急搬送されたって。事故らしい」
「事故って?」
「車道に飛び出したって」
追われている人間が車道に飛び出したって。
それは、追いかけられたからであって
その骨とやらは、一体、どうなったんだい。
龍さんの表情は、優れない。
「あの。どこの病院なんですか?」
「我々も、行くつもりだが、一緒に行くか?」
「えぇ・・・と。」
ここは、行くべきなのか。
躊躇していると、僕の携帯が鳴った。
美里だった。
「ごめん!」
僕は、謝った。
梨杏を預かってもらいに行く予定だったんだ。
「兄貴が、事故って・・・行かなきゃいけない」
「事故?」
少し、間を置いて、美里は言った。
そうだよ。
迷うよな。
美里と兄貴の関係があるから、事故ったって聞いて、迷うのは、当然。
「どこの病院?」
「K大病院」
「死にそうなの?」
「そうではないと思うけど」
携帯で、話しながら、龍さん達の車に乗る事にした。
僕らを捕らえる大芝居をして、兄貴から、遺物を取り返す作戦だったが、
あえ無く梨杏に大敗し、計画は、おじゃんになったが、
僕らという協力者を得て、兄貴から、遺物を取り返そうという作戦に変更になった様だ。
「事故にあったって、容態は何て説明なんですか」
「飛び出して、バイクに撥ねられたって話だ」
「意識は、あるんですか?」
「仲間の話だと、意識は、今のところ無いらしい」
「意識がない・・・か」
梨杏が、僕の表情を覗き込む。
「どうした?その顔は」
「心配なんだよ・・・この顔は」
「顔が、崩れている」
「泣く前なんだよ。くしゃくしゃになって・・・。悲しいんだ」
そう言って、気付いた。
悲しい。
あんなに迷惑を掛けられていた兄貴が、事故に遭って、悲しい。
居なくなって、欲しい。
何度、思った事か。
人寄せパンダ。
地下アイドル。
色々言われて、ステージで踊る日々。
韓国メイク
ネイルサロン。
付けまつ毛。
あらゆるサロンに生かされて、磨き上げられた人形。
僕は、男なんだ。
そう言い聞かせた日々。
兄貴の為の踊る人形。
事故にあったって聞いて、
嬉しいのに。
この思いは、何なのか。
「わからないね」
梨杏が言う。
「お前の気持ちがわからない」
何度も、無表情で、繰り返す梨杏。
「あいつに、苦しまされているのに」
「梨杏?」
梨杏が、僕の心を覗いている?
怪訝な顔をすると、
「心配するな」
返事するように答える。
「梨杏・・。君は?」
そう言いかけた時、龍さんに乗せられた車が、K大病院に着いた。
「何?」
外は、たくさんの救急車で、埋め尽くされていた。
「何があったんだ?」
それは、K大病院で、何らかの大きな事件があった事を示唆していた。




