第9話 本日の報酬
一日中歩き回り、日が暮れた頃。ようやく俺の家まで帰ってこれた。
つ、疲れた。運動不足の俺には、歩くだけって行為でも相当疲れる。
服にシワが着くとか考えずにベッドに横になると、ルーフェンが悪い笑顔で、麻袋の中をテーブルに広げた。
「ふっふっふ……古道具屋で買った銅貨20枚程度の仕入れ値が、最終的には金貨12枚! 錬金術とは、まさにこのことねっ!」
俺より喜んでるじゃん。
テーブルの上の金貨を、まるで小動物かのように愛でるルーフェン。
……正直、助かった。
俺独りじゃあ、たった1日でこんなに稼ぐなんて、出来なかっただろう。
ルーフェンの人脈の広さには、驚いたな。
……あ、そうだ。手伝ってくれたし、お金払わないと。
こういうのを、給料って言うんだっけ? 相場とかよくわからないけど。
立ち上がり、金貨1枚をルーフェンに差し出した。
きょとんとした顔で、俺を見上げてきた。
「な、なんだ?」
「こっちのセリフよ。何、この大金。私を買おうって魂胆?」
自分の胸を抱き寄せ、頬を染めてジト目で睨まれた。
どうしてそうなるんだ。頭ピンクお花畑か。
「ちげーよ、今日1日の給料だ。……ありがとう、助かった」
「あ、そういう……なら、ありがたく受け取っておくわ」
俺から金貨を受け取り、ホクホク顔で自分の胸ポケットに入れた。
そこに入れるなよ。目のやり場に困る。
「ディーレル、後学のために教えておくわね。この町で金貨1枚って、一般人の半年分の収入くらいなのよ」
「は!? じゃあ返せ! きっちり今日分だけ払う!」
「無知な自分を恨むのね、ばーかばーか。べろべろばー」
くそっ、腹立つ。
「そんなに返してほしかったら、取り返して見なさい。私のおっぱいに触る勇気があればだけどね」
ふふん、と胸を張るルーフェン。卑怯な……!
なら見せてやるよ、男の本気を!
ルーフェンの肩を鷲掴む。
一瞬目を見開いて、硬直する。
その隙に右手を胸に向かわせ……向かわせ……。
「……けっ。もういい、男に二言はない」
「そ……そう。け、賢明ね」
自分の胸を隠して、後退りした。
顔が赤い。恥ずかしがるなら、最初から挑発してくんな。馬鹿ルーフェン。
なんとなく気まずい空気が流れる。
ルーフェンがこほんと咳き込み、「ところで」と口を開いた。
「ディーレル。今日1日かけて一緒に歩き回った時、思ったことを言ってもいいかしら」
「なんだ?」
「アンタ、商売向いてない」
「ド直球」
まあ、なんとなくそんな気がしてた。
物の売り買いに必要な力。それは……コミュニケーションだ。
相手がいて、物があり、値段を交渉する。
出来るだけ安く買い、出来るだけ高く売る。
この差が大きければ大きい程、利益の額は膨れ上がっていく。
つまり……俺が一番苦手とする分野だ。
「ど、どうしよう。俺、やっぱり働くのって向いてないんじゃ……」
「大丈夫よ、安心しなさい」
どこに安心要素が? もう詰みじゃん。
へこんでいると、ルーフェンはやれやれと呆れたように首を横に振った。
「今日、何を見てきたのよ。私がいるでしょ、私が」
「……え、まさか」
「そのまさかよ」
ルーフェンは椅子に座ったまま脚を組み、少し妖艶に微笑んだ。
「私が、手伝ってあげる。酒場での営業と、売買時のコミュニケーション。私に任せなさい」
「い……いいのかっ? い、忙しいだろう、ルーフェンも……!」
「もちろん。それに酒場のホールの給料って、安いのよね。丁度、副業もしたいって思ってたし」
ルーフェンは立ち上がり、俺の頭を優しく撫でた。
「アンタのスキルと、私の美貌と人脈。まずはこれで、稼げるところまで稼ぐわよ」
「あ……ああ! やってやろうじゃん!」
ルーフェンと手を合わせ、しっかりと握る。
まるで契約書を交わさない、たった2人の儀式だった。
◆◆◆
今日の報酬。
金貨12枚。
商売の大変さ。
俺のコミュニケーションの無さの再自覚。
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