第6話 研ぎ屋ジン
結局ほとんど眠れないまま、朝日が昇った。
あぁ、眩しい。眠い。寝てたい。
布団にくるまり、日の光を遮る。ぬくぬく気持ちいい。
『たくさんつかってくれて、すーぱーうれしいなり』
ほら、布団くんもそう言ってる。
俺が悪いんじゃない。包容力のある布団くんが──
「いつまで寝てんのよ」
「ギャーッ!!」
網膜が! 網膜が焼かれる!
『あーれー』
ヒラヒラと宙を舞う布団。くそぅ、俺のお気にを返せっ。
仕方なく起き上がると、バッチリ服装を決めたルーフェンが、腰に手を当てて仁王立ちしていた。
「さあ、準備するわよ」
「……朝早いんだけど……」
「商人の朝は早いのよ。アンタは基本のきも出来てないんだから、それくらいは頑張りなさい」
うぅ、つらい。ねむい。つらい。
布団から出て、その辺に落ちてる服を掴む。
が、ペシッと手の甲を叩かれた。
「痛い」
「まずは顔を洗ってシャキッとしなさい。で、服は今日からこっちを着ること。ボロボロなものは捨てなさい」
少し上等そうな服を押し付けられた。
俺が着るには勿体ないぞ、これ。
「でもこっちも、まだ着られるんだけど」
「商人の基本その一、まずは見た目よ。とにかく小綺麗にしなさい。なんなら水浴びして来て」
「うげ、朝から……?」
「商人として成り上がりたくないなら、それでいいわよ」
ぐっ、痛いところを……。
今はルーフェンの言うことを聞いておくか。
水瓶に溜めていた水を頭から被る。
冷たいけど一気に目が覚めたし、少し気持ちいい。
意外といいもんだな、朝の水浴びも。
タオルで水気を取りながらリビングに戻る。
香ばしい匂いが、鼻腔を掠めた。
美味そうな朝飯だ。ルーフェンが用意してくれたのか。
「朝から豪華だな」
「出世払いでいいわよ」
「げっ、金取るのかよ」
「冗談よ。これから一日中働くんだし、力は付けないとね。ほら、座りなさい。髪の毛は私が整えてあげるから」
椅子に座らされると、櫛を使って髪を整え始めた。
まあ、自分では出来ないことだし、お任せしよう。
作りたてのパンと一緒に、濃厚なチーズと目玉焼きを食べる。
朝から暖かいご飯、うまし。
黙って食べ進めていると、ルーフェンは楽しくなったのか、鼻歌を口ずさんだ。
「ご機嫌だな」
「なんだか昔を思い出しちゃって。よくこうして、髪を結んでたなーってね」
「思い出した。おもちゃにされてた苦い記憶」
「あんなキラキラな思い出になんてことを」
受け取り方は人それぞれなんでね。
飯を食い終えた所で、髪もセットし終えたらしい。
貰った服を着ると、ルーフェンが目を輝かせた。
「おー! めちゃくちゃ似合ってるじゃん! やっぱ私の見立てに狂い無し!」
じゃじゃーん! と『光』スキルの応用で、鏡みたいなものを出した。
全身の映る鏡に、俺がいる。
なんか、服に着られてる感じがするな。
あと、落ち着かない。
こんなカッチリした服、俺には似合わないって。
「やっぱいつもの服で……」
「黙らっしゃい。さ、次行くわよ。今あるボロナイフ全部と、残ってるお金持ってきなさい」
もうこうなったルーフェンは止まらない。
今は大人しく、ついて行こう。
言われたものを持って、彼女の後に続く。
通りを幾つか超え、武具商環通りから黒炉通りに出た。
黒炉通りは、装備をメンテしたり、オーダーメイドの武器を作る場所だ。
どうしてここに……?
こっちの方にはほとんど来たことがない。
当たり前だけど、客層が全く違うな。
この前の輩みたいなイカつい奴が、沢山いる。
離れないように、ルーフェンにピッタリついていくと、小馬鹿にしたように笑われた。
「怖いの?」
「こ、怖くねーし」
「はいはい。お姉ちゃんがいるから、大丈夫よ。っと、着いたわ」
……ここ?
他の建物でも思ったが、ここもかなり古い建物だ。
あちこちに傷があり、空いた穴は木の板で雑に塞がれていた。
だというのに、重厚なオーラを感じる。
一見さんお断り、みたいな雰囲気だ。
雰囲気に圧倒されていると、ルーフェンは気にせず入っていった。
あいつ、意外と肝が据わってるよな……。
「あ、えっと……お邪魔します」
『わー。おきゃくさま、いらっしゃいです。おやじさん、いるですもし』
あ、良かった。家が相手でも、ちゃんと会話出来た。
ちょっと気が楽になって、店に入る。
ズラッと並べられた刀剣類に、迎えられた。
「……すげぇ……」
素人が見てもわかるぞ。全部名剣だ。
全部が均等に研ぎ澄まされている。水滴ですら真っ二つに出来そうな光沢だ。
「ディーレル、こっちよ」
ルーフェンに呼ばれて、奥へ進む。
工房のような場所で、頭にハチマキを巻いた老人が、長剣を研いでいた。
「紹介するわ。こちら研ぎ屋ジンの5代目研ぎ師、ジンゴさんよ」
ジンゴさんは手を止め、こっちに目を向けた。
なるほど。この人に研いでもらおうってことだな。
なら、俺から挨拶をするのが筋か。
「初めまして。俺──」
「帰れクソガキ」
コミュニケーションスイッチ、オフ。
決定。こいつ嫌いだ。
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