第7話 太鼓判を押される
「あ、そっすか。じゃ、失礼しゃーす」
帰ろうと踵を返し、出入口へ――
「待ちなさい」
「ほげっ……!」
急に襟を掴むなッ、喉が絞まるだろ……!
その場に座り込んで咳き込んでいると、ジジイが呆れたように首を横に振った。
「ルーフェンちゃんが会わせてー奴がいるっつーから待ってたのに、ただのへなちょこじゃねーか」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ、ジンゴさん。ディーレルも、ごめんね。この人、ちょっと偏屈でさ」
ちょっと? ちょっとって何? 俺の知らない言葉?
仕方なく立ち上がり、もう一度ジジイを見る。
確かに……風貌は職人のそれだ。多分、研ぎ師界隈の中では、名の知れた人なんだろう。
けど、初対面にクソガキって言うクソジジイには違いない。
ジジイと睨み合っていると、ルーフェンが俺たちの間に割って入った。
「はいはい、ストップ。もう、喧嘩腰にならないの」
「「ふんっ」」
あ、被った。嫌だなぁ、この人と息が合うの。
ジジイはポケットから煙草を取り出すと、俺たちに断りもなく煙を付けた。
「ルーフェンちゃん。悪いが俺ァ、時間がねーんだ。まだまだ、研ぎの予約が残ってる。要件を頼むぜ」
「はーい。用っていうのはね、この子が見つけた古いナイフを研いで欲しいの。もちろん、お金は払うから」
ルーフェンがくいくいっとハンドサインを送ってきた。
ナイフを出せ、って意味なんだろう。
はぁ……どうせ断られるだろう。面倒くせぇ。
カバンにしまっていたナイフを5本取り出し、ジジイの前に置いた。
「おいおいルーフェンちゃん、話し聞いてたか? この先一年は、研ぎの予約でいっぱいなんだよ。こんなクソガキの持って来たナイフなんて――」
ナイフを見たジジイの、目の色が変わった。
すぐさま煙草を消して、ナイフを一本手に取る。
真剣な眼差しで、隅々まで吟味し始めた。
『あひー』
『すごいみられてる~』
『はずかしゆえ、はずかしゆえ』
あぁ、ナイフたちが恥ずかしがってる。
まあ人間でも、あんな近くであんな風に見られたら、気まずいよな。
「なあ、ルーフェン。この人大丈夫か?」
「しーっ。ま、見てなさい」
見てなさいって言われても……。
言われた通り黙っていると、ジジイが鋭い眼光で俺を睨んできた。
「クソガキ。このナイフ、どこで見つけた?」
「え。いや、その……ま、町の古道具屋で売ってて……確かそれは、銅貨3枚とか……」
「はぁ? こいつが銅貨3枚? 銀貨の間違いじゃなくてか? カーッ、目利きのなってねぇクソボンクラがいたもんだ」
本気で呆れているのか、愛おしそうにナイフを撫でた。
俺には声が聞こえるから、なんとも言えないけど……そんなにすごい物だったのか、このナイフたち。
ジジイはまた俺に目を向ける。
さっきまでの馬鹿にした感じじゃない。ちょっとだけ、暖かな目をしていた。
「その点、お前さんはいい目をしてやがる。5本全部、このジンゴ様が太鼓判を押すぜ。名剣と言ってもいい類いだ。やるな、ガキ」
「……ガキじゃない。ディーレルだ、ジジイ」
「ジジイじゃねぇジンゴだ、ガキ。年上は敬えよ」
初手でクソガキ扱いしてくる奴を、どう敬えと。
ジジイはナイフを全部手にして、作業場の隣に綺麗に並べた。
そのまま無言で砥ぎ始める。俺らのことなんて、もう眼中にないみたいだ。
『ふわぁ~っ。きもちよす~っ』
おぉ……ナイフも気持ちよさそうだ。
え、何? 請け負ってくれたってこと?
ルーフェンを見ると、ウインクしてジジイに話しかけた。
「じゃあジンゴさん。お昼過ぎでいい?」
「おう。邪魔すんじゃねーぞ」
「はいはい。また後でね」
フランクに挨拶して、店を出る。
ルーフェンはニカッと笑い、俺の肩を軽く叩いた。
「良かったわね。あの偏屈ジジイのお眼鏡にかなったわよ」
「……やっぱすげー人なのか?」
「ええ。国家御用達の研ぎ師よ。剣豪、剣聖、騎士団長から王家専属料理長まで、あの人以外に研いでもらいたくないと言うくらいにね」
めちゃめちゃすげー人じゃねーか!?
「そ、そんな人たちの予約をすっ飛ばして、俺たちの依頼を受けさせちゃって良かったのか……?」
「知らないわよ。私たちはお願いしただけ。砥ぎ始めたのはジンゴさんなんだから」
……確かに、そうかも。
「あんな人とどこで知り合ったんだよ」
「私の働いてる酒屋によく来るのよ」
あ~……確か一度、酒屋の制服を見せてもらったことがある。
アレはもう、男殺しの兵器だ。一部がボンッ、すぎる。
てか、ルーフェン目的のただのエロジジイじゃねーか。




