第5話 商売、開始
武器屋でのひと騒動が落ち着き、数日後。
俺の部屋は、今までにないくらい物で溢れていた。
武器はもちろん、回復薬や解毒薬のアイテム。キッチン用具に畑の農具まである。
一見、古びた道具たち。
もう使い道はなく、ただ朽ちるのを待つのみだが……今の俺には、全てが宝の山に見える。
「みんなー! 人の役に立ちたいかー!」
『わー』
『にじゅーよじかん、はたらけます』
『やるき、げんき、みなぎり〜』
『めいびー、がんばれる』
『まだまだ、げんえきをつらぬけるゆえ〜』
みんな、気合いのこもった返答をありがとう。
古く見える道具たちも、素材は一級品。
間違いなく売れるぞ。
さあ、売って売って売り捌くぜ!
「ディーレルの成り上がり物語、始まりだ!」
「売れねぇ!!」
太陽が暮れて、辺りが暗くなった頃。
本日の売上、ゼロ。
『あ〜』
『そーいう日もあるますな』
『まちぼーけもわるくなし』
『しあわせは、あるいてこないのだ』
『もーだっしゅでくるよかん〜』
俺1人絶望してる横で、みんなは縁側の爺ちゃん婆ちゃんみたいなことを言っていた。
「ダメだぞみんな! 野望はでっかく! また日の目を浴びるのだ!」
『『『ほえ〜』』』
……ガチでのんびり屋ですね、君たち。
くそっ、何故だ! 何故売れないんだ!?
家の前に商品を並べてる! 値段も札に書いた!
どれも最高品質の素材を使った、最高の道具だぞ!
それなのに、何でだ!?
さめざめと涙を流していると、唐突に扉が開いた。
「どうしたのよ、ディーレル。なんか萎びてるわよ?」
「ルーフェン……」
あ、この匂い、おばさんのシチュー。
急に腹が減ってきた。そういえば、朝から何も食べてない。
みんなをテーブルから動かして、席に座る。
ルーフェンはぐるっと部屋を見渡して、やれやれと肩を竦めた。
「こんなにガラクタばかり集めて……行動力は一人前ね」
「ガラクタ言うな。みんなやる気に満ち溢れてるんだぞ。な、みんな?」
『そーだそーだー』
『ぼくほどのやるきは、なかなかみれないぞー』
『とってもすごいぞー』
『がおー』
な?
「いや、そんな『な?』って顔をされても、私には声なんて聞こえないわよ」
そりゃそうか。
「にしても、この様子じゃ売れなかったみたいね」
「う、うるさい。これからだ、これから」
まだ1日目だ。こんな事、つまずいた内にも入らないって。
お節介者から顔を背ける。
ルーフェンは落ちてた布で、ナイフを磨き始めた。
「多分だけど、このままじゃ売れないわよ」
「……何でわかるんだよ」
良い物を店先に並べてる。それの何が悪いんだ。
ジト目でルーフェンを睨み付ける。
けど、それも意に介さずにナイフを磨きながら、こっちに流し目を向けた。
「アンタが、商売を舐めてるから」
「…………」
何も言えなかった。反論しようにも、その通り過ぎて。
口を噤んでいると、ルーフェンはナイフをテーブルに置いた。
「アンタ、このナイフ、欲しい? どうしても今、必要としてる?」
「……いや、いらないな」
「それが需要よ。需要のない物は、どれだけ良いものでも売れないの。それが新品でもない、古いナイフだと余計ね」
需要……なるほど、そういうのもあるのか。
「ましてやこの町に住んでる人は、裕福でも貧乏でもない、一般庶民が大半よ。無駄なものに使えるお金は無いわ」
「た、確かに……」
少し考えたらわかることだ。
この子には申し訳ないけど、確かにパッと見は古いナイフ。他の子たちもそうだ。
もし自分が客の立場だったら、これが並んでても買わないだろうな。
「じゃあ、どうしたら……」
「少しは自分で考えなさい。……って言いたいところだけど、アンタは世間知らずだしね……しょうがないから、私が一肌脱いであげるわ」
「えっ!?」
思わず、たわわに実った胸に目が吸い寄せられた。
『さんけたおーばーのわたしのでばんですゆえ?』
「3桁!?」
「なんで知ってんのバカ!!」
顔を真っ赤にして、胸を抱いて隠された。
でかいとは思ってたけど、マジでとんでもねーな。こわっ。
「違っ。おっぱいが勝手に喋って……!」
「えっ、体まで喋るの? どういう原理?」
「俺に聞かれても」
マジで理屈はわからん。
多分、物質であれば何とでも会話ができる力なんだろうな。
「と、とにかく、明日は私も仕事が休みだし、手伝ってあげるから! 今日はもう寝なさい! じゃあね、おやすみ!」
バンッ! 思い切りドアを閉められた。
……今日、眠れるかな。
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