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神災フィナの黙示録  作者: 鳩ポ
第四章 魔大陸編
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55話 固有種

雪が吹き荒れ、あたりの時間がピタリと止まったかのような錯覚に陥る。


ドクン、ドクンと高鳴る自分自身の心臓の音が、狂暴な吹雪の爆音すら塗り替えていく。氷点下の極寒だというのに、額から寒さに似合わぬ汗が一粒、頬を伝って滴り落ちた。


――その時だった。


目の前に、突如として巨大な黒い影が躍り出た。


大砲のような恐るべき速度で迫るその影は、認識した瞬間にはすでに自分の背丈を遥かに超える巨躯へと膨れ上がっている。


動けない……!!


身体が硬直する。人間の反射神経でどうこうできる速度じゃなかった。


視界を埋め尽くすのは、大木を一撃で薙ぎ払うであろう熊の手のような鋭く巨大な爪。


――死が直撃する、その瞬間。


俺たちのすぐ足元で、設置したばかりの魔法陣が猛然と爆ぜた。


衝撃波が俺たちの身体を強引に後方へと押し飛ばし、死の一撃から間一髪で軌道を外す。


それと同時に、爆発の光と高熱が猛吹雪を吹き散らし、敵の視界を一時的に奪った。


「ぐあっ……!?」


雪原を転がりながらも、俺は必死に体勢を立て直す。


「シド先生!」


「大丈夫だ!結界がなければ死んでた」


俺は体を起こし、それを見上げた。


融合魔物……最初に出てきた言葉はこれだった。


キメラとでも言おうか、全体のシルエットは巨大な熊に似ている。しかし、その顔は竜のように細長く、硬質な鱗で覆われ、口元からは異様に長い髭が雪原を引きずっていた。


フシュー……と、その顎から凍てつく白い息が漏れ出る。


「全員! 散会! 魔法陣の裏へ!」


俺の頭から降り立ったアストの叫びが、全員の体を動かすトリガーとなった。


一瞬の跳躍。直後、さっきまで俺たちがいた場所の大地が、爆音と共に巨大な爪で大きく抉り取られた。


「クソッ! 速すぎる……!」


「僕が出る」


エリアノスが一歩前に出ると、静かに手を掲げ、重層的な詠唱を始める。


「まばゆき光芒(こうぼう)よ、空間を紡ぎ、実体となりて我が矛となれ。凝縮せよ聖輝、研ぎ澄まされよ無数の刃。天を穿ち、地を縛る不滅の―――」


長大な詠唱の隙を、巨獣は見逃さずに踏み込んできた。


「遅い!! ――燃えよ、炎帝―『フレイ』!」


俺は強引に割り込み、最速で術式を組む。一気に体に重い疲れが押し寄せる――負担の大きい上級炎魔術の2節短縮詠唱だ。


俺の掌から放たれたのは、限界まで凝縮され、青く激しく燃えさかる炎の塊。それが滑空し、真っ直ぐに大熊の胴体へ向けて叩きつけられた。


しかし――


「……火が、凍った……!?」


青い炎が大熊の体表に触れた瞬間、爆発を起こすことすら許されず、バリバリと嫌な音を立ててそのまま蒼白色の氷塊へと変質し、雪原へと砕け散った。


吹き荒れる猛吹雪の中、激しい緊張感が立ち込め、両者は完全な睨み合いへと移行する。


「襲ってきません……」


「あの熊、さっきの魔法陣の危険性を学習しやがったんだ」


「エリアノス、詠唱を開始しろ。短縮してかまわん、光の魔術なら属性相性の減衰がないはずだ」


アストは膠着した状況を逆手に取り、即座にエリアノスへ指示を飛ばす。


「アストノスト、僕は……神眼に頼り切っていたせいで、実戦での高度な詠唱省略はまだ……」


「そのための睨み合いだ。集中しろ」


エリアノスはまるで師に教わる少年のように、素直に深く頷いた。


「まばゆき光芒(こうぼう)よ、空間を紡ぎ、実体となりて我が矛となれ。

凝縮せよ聖輝、研ぎ澄まされよ無数の刃。

天を穿ち、地を縛る不滅の杭となりて、標的の魂ごと撃ち抜かん。

逃げ場なき光の檻、その身に受けよ!

――『錬光・光輝穿杭(ルミナス・レイ・ピアサー)』」


眩い光が天へ昇り、一筋の巨大な光槍となって凝縮されていく。


「ライト、7番と1番の魔法陣をくれ!」


「了解です!」


ライトから素早く手渡されたのは2枚の羊皮紙――上級ヒールと電撃魔術の陣だ。


「しかし先生、電撃は直接相手の肉体に貼り付けないと、あの絶対零度の氷結効果で拡散して殺殺されてしまいます!」


「任せろ」


俺は躊躇することなく、安全圏である結界魔法陣を飛び越えた。


「シド! 何を――!?」


アストの驚愕の叫びを背に受けながら、俺は前に躍り出る。


「エリアノス、合図で打て!!」


あいつの異常な速度と学習能力から考えるに、遠距離からの魔法陣射出じゃ容易く避けられる。確実に死角なしで仕留めるには、肉弾戦で固定するしかない。


同時に、キメラ熊が動いた。


邪魔な障害物を越えて飛び出してきた俺を、逃すまいと爪を振りかざして死の速度で肉薄してくる。


ストック――『シールド』!!


さっきストックに仕込んで上書きしておいた防御陣を、今ここで展開!!


次の瞬間、キメラ熊の巨大な爪が直撃した。


気休め程度のシールドは一瞬で爆ぜ飛び、鋭い肉裂き爪が俺の腹部へと深く突き刺さる。激痛で視界が真っ赤に染まるが、俺は歯を喰いしばってその太い腕を両手で抱きかかえ、逃げ場を塞いだ。


同時に、残った魔法陣を奴の胸元へ強く叩きつける――電撃魔術の陣をキメラ熊に、そして上級ヒールを俺自身の腹へ!!



「やれぇぇええ!!!!」



「『錬光・光輝穿杭(ルミナス・レイ・ピアサー)』!!!!」



血反吐を吐きながら俺が叫んだ刹那。



体表で至近距離の爆烈な電撃が爆発し、同時にエリアノスの放った絶対的な光槍がキメラ熊の胴体を真っ直ぐに穿ち抜抜いた。


「グガァァァァァッ」


凄まじい衝撃波と閃光が吹き荒れ、拘束が弾け飛ぶ。


俺の身体は弾丸のような勢いで吹き飛ばされ、フィールド外の荒野でを転がっていた。

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