↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神災フィナの黙示録  作者: 鳩ポ
第三章 神殿編
50/59

49話 旅人

全員が動かなくなる中、私は、何かが腑に落ちてしまった。


そうして口を開く。


「ねぇ……エリアノス。あなたは今から私が言おうとしてることも、わかるんでしょ?」


「もちろん……」


「『なら当ててみて』だろ?」


いちいち言葉を被せてきて、本当に嫌な奴だ。


「はぁ、因果とはややこしいな。君が話す未来を見てるからこそ、今僕が喋るという未来が見えている……。そうだな、神災フィナ……君は、君を旅へと誘った旅人について…………知りた……」



言葉の途中で、エリアノスの動きがピタリと止まった。



「どうしたの? そんな驚いた顔して」


なんとなく、エリアノスと戦っていて分かったことがある。それは――私が「未来を狂わせている原因」そのものではないということ。エリアノスの神眼は、数秒後を予測して映像を処理しているわけじゃない。最初から「すでに決まっている完璧な映像」を再生して見ているだけなんだ。


そして……それは根性や強い感情、ちょっとした魔法の力

なんかじゃ決して覆せないはずのもの。



「誰だ……」



エリアノスがガタガタと震え出した。金色の目を見開き、顔に手を当て、顎からポタポタと冷や汗が滴り落ちる。


「おい……フィナ、こいついきなりどうしちまったんだ!? 今なら攻撃が当たるんじゃないか!?」


シドが叫び、ユーズとライトが速射の体勢に入る。


「待って! エリアノスは……本当の敵なんかじゃないよ」


「おいフィナ……私ですら今の状況が理解できん。一体何が起きているんだ!?」


肩の上でアストが困惑の声を上げる。


「私……自分の意志だけで旅に出たわけじゃなかったんだわ。私は、あの時出会った『旅人』にもう一度会うために村を出た。ねぇ? エリアノス」


「誰だ……!!! 誰なんだお前は……!? お前の言う……その『旅人』とは、一体誰のことなんだ……!?」


エリアノスが絶叫した。


世界のすべてを記録し、すべての未来を見通してきたはずの『神録』の少年の視界(映像)に――その「旅人」という存在だけが、最初から何一つ映っていなかったのだから。



「もう……私をどれだけ観測しても、正解の未来は映らないよ」


「フィナ! どういうことだ……なぜ、ここで『旅人』が出てくる!?」


アストが耳元で困惑を露わにする。


「アストは、私が旅に出た理由を知ってるでしょ? ずっと考えてたの。これほど絶対的な力を持つ神眼の予測を、私程度が狂わせられるわけがないって。アルマフィエルにだって、世界の理そのものを壊すような力はないわ」


「……確かに辻褄が合わない。フィナ、私も密かにそう思っていた。お前の存在だけで運命が破綻するのはおかしいとな」


「そう……辻褄が合うとしたら、未来を壊している本当の原因は、多分……私の探している『旅人』だと思うの」


「じゃあなにか、フィナ……その旅人って奴が、最初から『神眼』の管理下(システム)から完全に外れてる規格外ってことかよ……!?」


シドが頭を抱え、急展開する事態のややこしさに呻き声を上げる。ライトもユーズも、二人の対話に息を呑んで固まっていた。


「これで……私たちを殺す理由はなくなったでしょ、エリアノス」


私が静かに問いかけると、俯いて震えていたエリアノスがゆっくりと顔を上げた。その表情からは先ほどまでの余裕が消え失せ、狂気じみた探究心が渦巻いている。


「おい……神災フィナ……。そいつの特徴を言え……! たとえ因果の糸に結びつかず、未来に映らなくとも、私は世界の観測者だ……! 全てを照らせば、視界という現実にだけは必ず映るはずだ……!!」


私は大きく息を深く吸い込み、あの日、私の世界を広げてくれた「彼」の面影を言葉に乗せて伝えた。


黒い外套、風に揺れる漆黒の髪、そしてどこか哀愁を帯びた佇まいの――エルフ。


「――よろしい」


次の瞬間、空中神殿の空気が凍りついた。


エリアノスが両手を天へと掲げると、彼の両眸から眩く不気味な金色の光が爆ぜた。


少女のように可憐だった少年の背後に、幾重もの巨大な「光の眼輪」が、空間を削り取りながら展開していく。


「万象を記録せし神の瞳よ――全世界を巡回し、因果の外なる影を捉えよ!!」


カチ、と世界中の時計が同時に止まったような錯覚。


エリアノスの開かれた両眼が、金色の光を放つだけの器官から、無数の文字や星々が高速で流れる「世界の観測窓」へと変貌する。


眼球の虹彩が幾重にも重なって回転し、レンズのように幾何学模様を描いて拡大していく。



ドクン、と空間が脈打つ。



空中神殿を覆う雲海が全方位へと一瞬で吹き飛び、空そのものが巨大な「目」となって世界を見下ろしているかのような錯覚。


彼がただ一瞥するだけで、東の果ての砂漠、西の深海、北の極寒の地、そして南の密林――この瞬間に生きる全人類、全生物の営みが、彼の脳内に膨大な情報流として雪崩れ込んでいく。


「見ろ……全てを見ろ……! 世界のあらゆる粒子を、過去から未来に至る全フレームを精査しろ……!!」


エリアノスの目から血の涙が零れ落ちる。神の領域を行使する代償すら無視し、彼は世界の「今」を、指名手配犯を探すように貪欲に舐め回す。






そして――数秒の無音が世界を支配した。






「やつを……発見した」




エリアノスの血の滲む金色の瞳が、一点を凝視したまま凍りつく。


旅人が……見つかった。


その一言が落ちた瞬間、胸の奥で熱いものが爆発しそうになった。私の旅の目的のゴールが、ついに見えた。たとえ彼が世界の理から外れたどんな人間だろうと関係ない。私に外の世界の広さを、旅の愛おしさを教えてくれた、私にこんな幸せな道を見せてくれた……彼に、もう一度会える。


「場所は!? エリアノス、旅人はどこにいるの!?」


私は黒い翼を大きく広げ、身を乗り出すようにしてエリアノスに詰め寄った。


「――オルトゥスの森……。お前の生家がある……その、小さな……村だ」




――――は?





オルトゥスの森……? 私の生まれた、あの村?


なんで……?


彼はあの時、旅立ってどこかへ行ったはずじゃ……。


どうして今、私の故郷にいるの……?


思考が真っ白に染まり、理解が追いつかない。


問い詰めようと口を開かけた――その刹那。


「――ガハッ……!?」


全身の骨が内部から一斉に砕け散るような、凄まじい激痛が私を襲った。


「フィナ―――っ!?」


アストの叫び声が、遠く聞こえる。


胸の奥、アルマフィエルの意識が存在する場所から、どす黒い魔力が制御を失って暴走し、内側から私の肉体を破裂させようと吹き荒れ始めた。


「ぐ、あぁぁぁぁぁっ……!!」


激痛と不快な浮遊感。


黒い魔力が私の体を包み込み、視界が真っ赤に染まっていく。


「何が……起きているんだ……!? フィナの体内で、アルマフィエルの共有意識(ネットワーク)が拒絶反応を起こして暴走している……!?」


アストの悲鳴のような解析と、シドやユーズが叫びながらこちらへ手を伸ばす姿が、歪む視界の中でゆっくりと遠ざかっていく。


「やつ…を………殺す」


そして私の意識は飛んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。