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神災フィナの黙示録  作者: 鳩ポ
第二章 戦争編
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28話 戦争をしよう

丘の上に立ち、眼下に広がるロサドの街並みを見下ろした。

瓦屋根が連なる家々、細い路地を縫うように走る川、そして――街のど真ん中に突き立つかのような巨大な闘技場。


その闘技場を境に、街はまるで二つに割られていた。

白壁の立ち並ぶ一方には、商人や貴族が栄える豊かな街区。

黒い影を落とすもう一方には、労働者や兵の暮らす無骨な街並み。


そして二つを仕切る厚い石壁。

それはただの防衛施設ではなく、シャルムとザックス――二つの国の果てしない戦争を象徴する、冷酷な境界線そのものに見えた。

分断を忘れさせるどころか、逆に毎日突きつけてくるような。


この景色を見て思った。


私は、この街を知らない。

この国のことも知らない。

ここで暮らす人々の喜びも、悲しみも、何ひとつ分かっていない。


なら、本来は関わるべきではないのだろう。

互いに譲り合い、歩み寄ろうとしてもなお、どうにもならずに始まってしまった戦争。

それはこの国の人間が背負うもので、外から来た私たちが口を挟むべきではない。


……そう、分かっている。


それでも。


関係のないはずのダイルが、この街を暴力で塗り潰そうとしている。

その愚行を止められるのは、同じく「外の者」である私しかいない。

無関係だからこそ、私が立つしかない。


「だから……止めるのは、私なんだ。」


胸の奥で静かに呟き、視線を街に向けて立ち尽くした。

その瞬間、もう後戻りはできないと悟った。


――戦争がなぜ起きたかなんて、知る必要はない。

理屈も大義も関係ない。

私がすべきことは、ただ一つ。ダイルを止めること。


そして…街に足を踏み入れた。


血を含んだ土煙はやでも私の鼻を抉る、視界に入るのは、死体、死体、死体、間に合わなかった事は考えなくともわかった。


戦争は終わった、いや、消えたというのが正しいだろうか。これでまた軍神マルクの名は世界に刻まれる。


私は早足で中心に向かう。


街の中心――巨大な闘技場から感じるこの気配――ただの混乱じゃない。

闘技場の真ん中に、「あいつ」がいる。


胸の奥に黒い熱が灯る。


「……黒装。」


呟いた瞬間、全身を覆うように黒き魔力が走った。

足元の地面が爆ぜ、土煙を巻き上げた。


「ダイル。」


薄暗い中心の闘技場、そのさらに真ん中でただ1人立っている者がいた。


「フィ……」


低くよく通る声。

服は返り血に幾度も染まり、乾いては新しい血が上塗りされ、布地は重たく汚れている。

だがその腰には、余計な装飾もない細身の剣が静かに下げられていた。

そこにあるのは、誇示でも虚勢でもない――質素な強さだった。


「ダイル……私は、あなたを止めに来た。」


「また感情論か?」

口元にわずかな笑みを浮かべながらも、声は冷え切っていた。

「お前の正義の押し付けは、いつも空虚だ。」


「お互い様……だよね。」

私は静かにそして重く答える。胸の奥では抑えきれない熱が爆ぜていた。


「ダイルは 戦争を止めると称して人を殺す。

私は 人を殺させないためにダイルを止める。

違いはそれだけだ。」


ダイルは肩を落とし、深い溜息を吐いた。

「……付き合ってられない。もういい、フィ。お前は戦争には関係ない。早くここから消えろ。」


そう言い捨て、彼は私の横を素通りしようとした。


だが私は一歩、強く踏み出す。

「――なら、無視できないようにしてやる。」


「……何を?」

彼の足が止まる。


私は大きく息を吸い込み、全身に力を満たした。


「私は――技極の十席のひとり。十席《神災》フィナ。」

その声は闘技場の壁に反響する。


「お互いに意見が合わない時、どうするか。……知ってるだろ?」


ゆっくりと、静かに振り向く。

目の前の男は、すでに剣の柄に手をかけていた。


「……戦争をしよう、ダイル。」

長い沈黙ののち、私は低く呟いた。 


「やはり……すでに気づいていたか。」

そして、ダイルは己の名を告げる。


「俺は――技極の十席のひとり。第五席、軍神マルク。」


その瞬間、空気が凍り付いた。

互いの名乗りが終わった時点で、逃げ道はもうなかった。


こうして、二つの正義が激突する戦いの火蓋が、静かに切って落とされた。


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