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神災フィナの黙示録  作者: 鳩ポ
第二章 戦争編
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21話 アストノストの本気

――雷柱の光が地面を穿ち、大気が焼けた直後だった。


土煙が爆ぜ、視界は曇り、熱気の残滓が肌を焼く。


そのとき。


「……っ!?」


視界の端、ほんのわずかな感覚の歪みとともに、 それは現れた。


何の予兆もなく、まるで景色の一部が唐突に 人型を選んだかのように――

少女の姿をしたアルマフィエルが、そこに立っていた。


その腕に纏われた奴は、魔力などという軽い言葉で済むものではなかった。

漆黒の流体。濃密で、重い、あまりにも 異質な魔力。


視認した瞬間、私は反射的に魔術構築に入った。


《前略・完全防御結界》


詠唱を削り、意識から即時に展開する防御陣。

魔術言語の 省略法による、私の最速の防御展開――だった。


だが。


結界が、軋んだ。


耳をつんざく音ではなく、構造そのものが呻くような、音が、空間から滲んだ。


黒い魔力が、押してくる。


滑らかに、ではない。

鋭く、重く、波のように――否、津波のように結界を 削り取っていく。


「なんだ、これは……っ!」


息を呑んだ。これは、違う。通常の魔力とは 根本的に何かが違う。


魔力とは、火、水、石、氷、雷……物質への変換によって効果を発揮する。


だが。


こいつの魔力は、魔力そのものが 物質なのだ。


黒い魔力――それは、質量を持っていた。


重い。

圧倒的に。

それは、何かの理を越えている。質量のないものが、なぜ、これほどまでに重いのか。


その魔力は、壁となり、槍となり、腕となり、

地に根を張る蔓のように、意志をもって蠢いている。



魔力とは、形を持たぬはずの力。



だが、あの時のアルマフィエルが放った黒い奔流は、まるで 圧を持つ水のようだった。


柔らかく、しかし抗えない。

重く、しかし鋭利で。

流動しながらも、確かに、質量を携えていた。


 水だ。水圧の概念がそのまま魔力に適用されている。


水は自由であるが、高圧にすれば鋼を貫通する。

魔力もまた、一定の圧を超えれば、構造を崩し、存在すら圧縮して破壊できる。


 ならば――


私は戦闘の中で笑っていた。


村を壊され、人々が霧と消え、それでも私は、高揚していた。


目の前には 理屈を超えたものがあり、

私はそれに対し、 理屈だけで対抗しようとしていた。


魔術言語の省略。全略。


そして、私の脳内ではもう、勝ち筋が描かれていた。


―――――――――――――


「と、まあ、そういうわけで全力で戦って倒したわけだ」


アストの声が、柔らかく耳に返ってきた。


私――フィナは、唖然とするしかなかった。


「え? 終わりですか? 戦うところとか、もっと……こう、凄まじい魔法の撃ち合いとか……!」


「そんなの見せても退屈だろ? どうせ勝つし」


アストはあくまで飄々としている。


「いや、退屈じゃないですから。ていうか、どうやって倒したんですか、そこ大事です」


「倒し方? もう最初の一手で全部見えたんだよ」


アストは微笑し、肩をすくめる。


「相手は粒子にもなる。つまり、どんな攻撃も霧散すれば無効化できるってことだ。

なら、粒子ごと 凍らせて逃げ道を塞ぎ、

そのまま 極炎で一気に気化させれば――存在は保てない」


  《全略・氷塊》、そして《全略・極炎》。


それは 攻撃ではない。演算された処刑方法だ。


「相手が何に変態しようが、熱伝導と融解点は逃げられない。

物理現象の上に立っている限り、私に逃げ場はないってことだよ」


「…………やってること、異次元ですからね?」


私の呆れにも似た声に、アストは静かに笑った。

その微笑みにはどこか、誇らしさと憂いが入り混じっているように見えた。


「……技極は皆どこか狂ってるって言うけど、否定はしないさ」


その言葉に、私は眉をひそめる。


だが、次の瞬間に放たれたアストの声は、ただの回顧ではなかった。

そのまなざしは、真っ直ぐに私を射抜くように向けられていた。


「フィナ――私は自分の武勇伝なんかを語るために、この話をしたんじゃない」


「……え?」


「私が見たアルマフィエル……それは、君の姿と、重なって見えたんだ。

君には、あの 存在に至るポテンシャルがある。否、 すでに踏み出していると言った方が正確か」


何か、重いものが胸の奥に落ちた気がした。


思い返せば、私は普通の人間ではなかった。

幻影、潜伏、そして――黒点。

私の魔法は、すべて 普通ではなかったのだ。


「なら、今使える魔法を整理しましょう」


自分の中を見つめながら、私は言葉にする。


「一つ目は《幻影》――実体のない分身体を作る魔法。

敵の攻撃を誤誘導させるだけでなく、視線や音にも干渉できる。

二つ目は《潜伏》――気配、魔力、体温さえ遮断する。

完全な隠匿状態でも魔法が使えるのは、異常そのもの。

三つ目は《黒点》――あの黒い魔力を飛ばす攻撃魔法。

物理干渉、貫通、加速……複合属性すら超えてるかもしれない」


私は息を整え、問いを投げた。


「……やっぱり、おかしいですよね?」


アストはうなずき、言葉を継いだ。


「そこで私は、一つ仮説を立てた」


彼女は肩の上で足を組み直し、真剣なまなざしで語る。


「フィナ、君の魔力――正確には、 アルマフィエル由来の魔力――は、

『変換』ができないのではないか?」


変換が、できない?


「普通、魔力は火、水、雷、風、石……などに 変換して、初めてその力を具現化する。

けれど君の魔力は、そもそも変換という手続きを必要としない。

 魔力そのものに性質と圧力があり、それが武器になる。」


私の口元が、震えた。


変換できない、ではなく……変換する必要がない。


最初から 完成された魔力を持っているということ――それはつまり、私が使っている魔法は……魔術理論の枠外にある、ということだ。


「魔術言語は魔法を記述するものだが、君の力は 記述の外側から来ている。

だから幻影も潜伏も、似ているが君がやるのは根本的に原理が違う。君は、まだほんの一部しか力を引き出していないのかもしれない。」


アストの言葉は、私の中に新しい地図を描いた。


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