ドラゴンバレー
白い魔法陣が部屋に現れ、三人を新たな世界へと送り出したその瞬間——
別の魔法陣が突如として発動し、ライドを空高く弾き飛ばした。
彼の身体は、恐ろしいほどの高度で宙に浮かされていた。
「うわあああああッ! 死ぬ! 絶対死ぬ! こんな高さから落ちたら助かるわけないだろ!!」
次の瞬間、彼の体はそのまま急落下した。
凄まじい衝撃音が響き、大地には放射状に亀裂が走る。
深いクレーターが形成され、ライドは一瞬だけ意識を失った。
目を開け、ゆっくりと立ち上がって周囲を見回す。
そこには、いたるところから黒い鋭い岩が突き出した巨大な峡谷が広がっていた。
天井の鍾乳石のような岩柱。そして、その上空を無数のドラゴンが飛び回り——
彼を見下ろし……一斉に急降下してきた。
ライドは固まった。
「レッドドラゴン……? マジかよ……!」
すぐさま走って逃げ出した——が、すぐに異変に気づく。
自分とドラゴンとの距離が、ありえない速度で開いていくのだ。
ライドは急停止し、驚いた顔で振り返った。
「ちょっと待て……俺、こんなに速いのか? じゃあ力は……?」
ちょうど近くに中型の黒い岩のスパイクがあった。
両腕で抱え込み、全力で引き抜く——
ゴッ!
岩は地面からあっさりと引き抜けた。
目を見開いたまま、彼はその巨大な岩をレッドドラゴンへ向けて投げつけた。
岩塊は砲弾のように飛び、
ドラゴンの身体を真正面から貫いた。
峡谷全体を揺らす咆哮。
巨体が地面に墜落し、轟音が響き渡る。
ドシャァン! ズゴォッ!
ドラゴンが絶命したのを見て、ライドはニヤリと笑った。
「そういうことか……超スピードに、規格外のパワー。ああ……これだよ。こういう力が欲しかったんだ。」
彼は矢のように跳躍し、空中で一匹のドラゴンの首を掴むと——
強引にひねり折った。
グシャッ!
ドラゴンはそのまま落下していく。
ライドはその死体を足場にして再度跳躍。
拳を叩きつけたドラゴンは血を吐きながら空中で回転する。
悲鳴、羽ばたき、金属のような血の匂い——空は戦場と化していた。
生き残ったドラゴンたちは恐怖し、四方へ逃げ去っていく。
ライドは地面に落下した。
ドォンッ!!
足元から地震のような衝撃が走る。
「これが……俺の力か。たしかここは、カイとダン、そして俺で作ったゲームの世界——ドラゴンの峡谷だったよな……」
言い終える前に、
巨大な赤い爪が彼を襲う。
バキャアアアッ!
黒い石壁に叩きつけられるライド。
現れたのは、他のドラゴンより遥かに巨大な存在。
レッドドラゴン・キング。
咆哮が峡谷全体を震わせる。
痛みに顔を歪めて立ち上がったライドは、違和感に気づいた。
傷が——高速で塞がっていく。
「……は? 勝手に治ってる? スピード、パワー、再生まで……全部がMAXかよ……?」
彼は笑った。
「ハハハッ! 最高じゃねぇか! これが力ってやつだ。あの化け物を倒したら……“竜王殺し”の称号でも手に入るのか?」
地面を蹴る。
ドッ!!
大地が砕け、彼は弾丸のように突進し、
レッドドラゴン・キングを岩山へ叩きつけた。血飛沫が舞う。
ドラゴン・キングも反撃し、ライドを峡谷の端まで吹き飛ばす。
彼は地面を滑りながらも、つま先一本で踏ん張り停止した。
大きく息を吸い込むドラゴン・キング。
次の瞬間、真紅の灼熱炎が解き放たれた。
黒い岩が溶け、溶岩となって流れ落ちるほどの熱。
炎はライドを完全に包み込んだ。
だが——彼は動かない。
炎が収まった時、身体は黒焦げだったが、
数秒で再生した。
「なるほどな……」
狂気じみた笑みが浮かぶ。
彼は跳躍し、上空から拳を叩きつけた。
拳はドラゴン・キングの首を貫通する。
ズパァッ!
血が雨のように降り注ぎ、
巨体は地鳴りとともに崩れ落ちた。
ライドは大地に降り立ち、静かに呟いた。
「終わりだ……俺たちの戦いは。」
溜息をつきながら続ける。
「さて、カイとダンを探さねぇとな。最初の目的地は……セマか。本当に異世界に来ちまったんだな。しかも、俺らが作ったゲームそのまんまの世界に。」
峡谷を後にし、道を歩き始めるライド。
――一週間後。セマの街。
大きなホテルの豪華な一室。
緑の服を纏った銀髪のエルフの女性が、金髪の少女の前に立っていた。
少女はふわりと巻いた長い金髪に、輝く黄金の瞳。純白のドレスを身に纏い、華奢で可憐な姿——
エルフの姫、メイロナであった。
銀髪のエルフが口を開く。
「メイロナ様、レッドドラゴン・キングが討伐されたようです。現場には人間の足跡が残っていました……かすかではありますが。」
メイロナは瞬きを繰り返し、驚いたように言った。
「レッドドラゴン・キングを倒せる人間……どんな方なのかしら。」




