96話 シスターの出張懺悔室・王都編Ⅱ
冒険者パーティーのリーダーに認知されていない。相談者の告白にシスタークラリッサ脳裏にいじめの文字が過る。重い相談だと察した彼女は、これまで以上に緊張感を持って臨む覚悟を決めた。
相談者は深く傷ついているかもしれない、言葉は慎重に。
クラリッサはしばしの沈黙の後に、できうる限りの優しさを込めて相手に語りかけた。
「お話しできる範囲で構いません。貴方の悩みをお話しください」
「はい。自分はとある冒険者パーティーに所属しているのですが、そのパーティーのリーダーさんが自分の存在を忘れているようなのです」
「忘れている、とは?」
「加入させたことをです」
クラリッサは相談内容が理解できず大量の疑問符を生み出した。
は? は? 加入させた仲間を忘れる?
どういうこと? この人も詐欺に遭ってる?? 詐欺が流行っているの?
壁の向こうにいる相談者は、がさがさと枝葉がこすれるような音を鳴らし、話を続けた。
「彼は何も悪くないのです。自分の体質といいますか、固有の能力と申しますか、少々特殊な体質でして」
「体質、ですか?」
「これまでずいぶん苦労をしてきました。そのおかげで拾っていただいたときは、天にも昇るような気持ちでした。よりどころのない自分に居場所ができたのです。最初はそれだけで満足していました。ただ、不思議なもので、一度満たされると欲が出てしまうようなのです。近頃ではもう一度拾ってくれた彼に自分を見てもらいたい。そう思うようになってしまいました」
なんだかよく分からないが、大変な人生を歩んでこられた方なのですね。クラリッサはそう思うと不思議と涙腺が緩み感情移入していた。と、同時にそのリーダーに強い怒りがこみ上げていた。なぜこの方を忘れてしまったのか、理由があったとしてもこの人が救われない。
人に忘れられるほど残酷なことはない。
今すぐそのリーダーの元へ走って行き胸ぐらを掴んでやりたい。
「相談内容は分かりました。では、そのリーダーにアピールするというのはいかがでしょう」
「それは、頑張って存在感を出せということでしょうか?」
「端的に言えばそうですね。とはいえこれまでのこともありますし、誰か協力してもらえる方はいらっしゃいますか?」
「仲間がいます。皆さん自分のような者に親切丁寧に接してくださる良い方々です」
「ちょっと待ってください。それはつまり、リーダーだけ忘れているということですか?」
相談者は「仰るとおりです」と返事をする。
沈黙したクラリッサは息を吐きながら天井を見上げた。その脳内では見知らぬリーダーに向かってダブル中指を立てていた。
相談者が優しいだけだった。やはりそのリーダーはゴミクズ。クズと言えばどこかのS級のリーダーを思い出しますが、さすがにあの人とは別人でしょう。などとクラリッサはぼさぼさ頭の付与士を思い出していた。
「仲間に悩みを打ち明け協力を取り付けるのです。そして、きちんと怒りをぶつけましょう」
「怒ってはいないのですが」
「いいえ、怒るべきです。人は痛みを伴わない記憶は忘れる生き物。刻みつけてやるのです。二度と忘れるなと。もし不安なら私が同行いたしますよ。そのリーダーには一言申したい気分ですので」
柔らかく語るクラリッサは瞬き一つせず真顔であった。
嵐の前の静けさ、噴火前の沈黙、たまたま懺悔室の外を歩いていた大司教は、背筋が凍り付くような寒気に動揺した。
「同行は大丈夫です。そうですね、頑張って怒ってみます」
「応援していますよ。女神様のご加護があらんことを」
相談者は懺悔室を出て行く。
クラリッサは静かに女神に成功を祈った。
祝・書籍版『最強付与士』の続刊発売が決定いたしました!!!
発売時期についてはもうしばらくお待ちください。
引き続き応援よろしくお願いいたします。ばちこん☆(ウィンク)





