94話 たまには双子に狙われるのも悪くない
逃げ続ける俺に、双子ちゃんが矢を射る。
二本の矢は時間差で放たれ、正確にほぼ同じ軌道を描いた。一本目を躱す。しかし、先読みし射られていた二本目が迫る。
「さっすが獣歌の凄腕弓士。正確で速い」
二本目を短杖で危なげなく弾き落とした。
双子ちゃんは揃って舌打ちをする。
一人は茶色のストレートロングヘアー、もう一人は茶色のショートヘアー、どちらも頭部に兎の耳を生やしており、ヘソ出しの軽装だ。
「ラックス・サードウッド! 警告したはずよ、ギルに近づくなと!」
「ギルに変なことを教えるエロ付与士! 死ね!」
二人は獣歌に所属する双子の弓士。歳は十八だったと思う。
頭部からぴょこんと生えた兎耳と愛らしい容姿は、相変わらず見る者を引きつける魅力がある。それでいてヘソ出しスタイルはそこそこエロい。
ストレートロングは姉のラナ・スカイフット
ショートカットは妹のレナ・スカイフット
獣歌の中でも飛び抜けてファンが多い凄腕の弓使いである。
ちなみに兎族は、瞬発的な脚力に優れた獣人としてよく知られている。加えて優れた聴覚を有しており、ありとあらゆる会話を聞き取ることができると言われている。そのせいか兎族には耳年増が多い。
「懲りないね、君達。前もそう言って牽制に来たけど、俺に勝てなかったでしょ。仲良くしようよ。そんでもって割の良いお仕事をくれないかな」
ひょい、と俺は矢を避ける。さらに大木の枝に飛び乗り、枝から枝へと飛び移った。
地上を走る双子ちゃんは自慢の脚力で、軽々と岩や根を飛び越え、しつこく追跡を続けていた。
「名称未定に仕事は渡さない。この寄生虫が」
「おこぼれを狙う、クズ、碌でなし、ノミ」
「そこまで言うことないでしょ。俺は大人の楽しみ方を教えただけなんだけどな」
大人のマッサージを教えたり、大人の酒場を教えたりとさぁ、もちろん色々知識も与えてさ。世界は広いってことを教えているだけなんですけどねぇ。
「「純粋なギルを汚すな!!」」
双子ちゃんの連射が刹那に放たれる。
俺は延脚で一気に加速し躱す。隠れるのに適した樹に着地すると、素早く身を潜めた。
枝の上に上がった双子は周囲を見渡し気配を探る。
「相変わらず隠れるのだけは上手いわ。どこに行ったか掴める?」
「足音が多過ぎ。あっちじゃないかな」
身を隠した樹の陰から双子ちゃんを見送る。魔力の網から反応が消えたところで、一気に肺の空気を吐き出した。
「可愛い双子に追いかけられるのは嫌いじゃ無いんですけどね。状況が状況だからスタミナ温存を優先させていただきます、よっと」
地上に着地した俺は、反射的に銀光を躱す。
切り返される刃をさらに躱しながら相手の顔を確認した。
知らない顔だな。受験者であることは間違いない。腕輪を見れば分かるからな。
相手のナイフが鋭く的確に俺の急所を狙う。熟練のナイフ使いの動き。後ろに下がりつつ俺は短杖を抜いて反撃に転じる。
「水虫」
「なっ!?」
デバフである『水虫』は一時的にだが、足に痒みを発生させる。
受験者は猛烈な痒みに襲われ悲鳴をあげた。ナイフを投げ捨てブーツを脱いだ彼は、地面に座り込みぼりぼり一心に掻き始める。
「かゆいかゆいかゆいかゆーい!!」
「効果は長くないからさ。まぁ頑張って」
俺は殺気に反応し、その場から飛び退く。
先ほどまでいた場所にクナイやナイフが突きささる。魔力の網には五名の反応を示していた。
樹の陰、茂み、中には迷彩柄の布で隠れていたりと、全員潜伏スキルは高めだ。
思ったより見つかるのが早い。さすがはB級と言うべきか。
おまけにこっちは触れられただけでアウト。対して向こうは行動不能あるいはリタイヤしない限り何度でも挑戦できる。地味にきちぃ。
五人が我先にと飛びかかってくる。俺はその中の一人を踏みつけ跳躍、追いつけないであろう速さで移動を続け、適当な茂みを見つけると気配を薄め潜んだ。
「どこだ、どこに行った!」
「付与士とは思えない足の速さだ。信じられん」
「腐ってもS級か。他を探そうぜ」
追っ手の五人は見失ったと分かると、肩を落としぞろぞろと去って行く。
俺は茂みの中で安堵した。
「あれは……フェリス?」
フェリスが三十人以上の受験者を引き連れ駆けていた。
仮面を着けた彼女は、近づく者達の攻撃を躱しながら、時折反撃として炎をぶつける。
「はははっ、追い詰めたぜ炎剣。S級つってもたいしたことねぇな」
追いつめたと確信した受験者達はにやにやと笑う。
一方のフェリスは口元に笑みを浮かべたまま魔剣を鞘へと戻した。
「追い詰められたのは貴方がたですよ」
「何?」
フェリスは近くの木を両手で抱え、めきめきと地面から根を引きちぎった。
軽々と大木を抱える彼女に、受験者達は絶句する。
「頑張って次も私を探してくださいね」
ぶんっ、風を切る音が響き大木が振られた。受験者達は横薙ぎに弾き飛ばされ、岩や木にぶつかると気絶してしまう。
「やっぱパワー系だよな。どう見ても。お、あっちでもやってるな」
不意に戦闘の音が届く。
フェリスがいる場所とは別のところで激しい戦闘が行われていた。
無数の銀光をルークはこぼすこと無く大剣で弾き、隙を突くような蹴りですら、紙一重で躱しきる。直後に稲妻が奔り受験者達の身をこがした。
爆炎がブロンクを包む。爆発は連続し、間断なく複数の属性による攻撃魔術が直撃した。爆風が吹き抜け、円形にえぐられた爆心地で黒煙が立ち上る。
受験者達は「やったか!?」と叫んだ。
しかし、未だ残る炎の中から偉丈夫が大盾を持って現れる。その足取りはどっしりと重く確かに大地を掴んでいる。鉄壁のブロンクは涼しげな顔で受験者達の前へと戻った。
「A級に上がりたいのだろう? ならば、本気で来い」
身体の芯に響くような低く重い声。
ブロンクの大盾は全てを防ぐ文字通り鉄壁であった。それだけに留まらずブロンクの強烈な反撃が開始される。大盾を構えたままブロンクが突進した。大盾が直撃し、耐えきれなかった受験者達の骨が砕ける。彼らは地面を激しく転がり意識を失った。
銀の護剣の二人に圧倒された受験者達は一時撤退を決め、一斉に波が退くように消える。
「くっ、いかにも格上っぽい」
どうすればああいう強者感を出せるのだろう。羨ましい。
俺は悔しさに唇をかみしめた。
双子を待たせて茂みでウンコをするシーンは、文字数の都合もあり割愛させていただきます。楽しみにされていた方には大変申し訳ありません。





