表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/95

93話 茂みの中でふんばる付与士


 切り立った崖の上。ライザは目を閉じ集中していた。

 彼女は現在、使い魔の視覚を用いてフィールド全体の動きを観察している。


 崖から数百メートル離れた森の入り口上空では、三羽のカラスがゆっくりと旋回していた。眼下では受験者がラッパが鳴らされるその時を待ち続ける。入り口に設営されたテントにいるルルーナは、真上を飛翔するカラスに気が付き小さく手を振っていた。


「ふふ、お見通しって訳ね。さすがは学院長のお孫さんだわ」


 浮遊する長杖に乗るライザはくすりと笑う。

 ルルーナの祖母は魔術学院をまとめる偉大な魔術師の一人、ライザが在学であった時代にも彼女は学院長であった。どこか面影があるルルーナにライザは後輩以上の距離の近さを感じていた。


「いよいよね。さぁワタシを楽しませて頂戴、挑戦者達」


 二度目のラッパが吹き鳴らされる。受験者のスタートであった。

 彼らは一斉に走り出し、森へと拡散して行く。


 森の地形は決して平坦ではない。むしろ逆、高低差がある移動するのも一苦労するような地形であった。木々の太い根が縦横無尽に張り巡らされ受験者達の足を取る。妨害者として放たれている学院製のゴーレムが闊歩し、下位の魔物も新鮮な肉にありつこうと目をギラつかせる。A級昇格試験、毎年といって良いほど死人が出る危険な三日間が開始された。


 比較的森の浅い部分で爆発が起きる。

 使い魔であるカラスが上空を飛翔し、眼下を確認していた。


 眼鏡をかけた短髪の男が抜き身の剣を握り、地面に倒れている坊主頭の筋肉質な男を見下ろす。坊主頭の男は無数の火傷と立ち上がれないほどのダメージを負っていた。


「俺は、まだ、落ちるわけには」

「自覚がないようだから言ってやろう。君はA級になれる器じゃない。同じB級から見ても才能が無いとすぐに分かったよ」

「あ……あああああああ」


 ベンジャスの言葉は、男の心を容赦なく踏みつける。

 A級やS級に憧れて冒険者を志した者は多い。彼もまた自分もいつかあの高みに、そう信じ手を伸ばし続けてきた。だが、彼に突きつけられたのは、持つ者と持たざる者の現実。ボロボロの男と無傷のベンジャス。圧倒的なまでの差がそう理解させた。


 冷たい眼を向けるベンジャスの背後で、二人の男女が散歩をするようなゆったりとした足取りで現れる。


「報告をしろ」

「周辺にはいないようです。特別試験官がいるのはさらに奥かと」


 男女の問いに、ベンジャスは剣を鞘に収めながら返答する。


「想定内だ。このまま中央エリアに向かい待ち伏せをする。特別試験官達は期間内に各エリアを回らなければならない制約を与えられている。()()も必ず来るはずだ。しかし、ギルドも愚かな判断をしたものだ。よりにもよってバッファーに試験官を頼むとは」

「アタッカーに能力が劣る後衛を参加させたのはミスでしたね。ですがおかげで奴を見つけるだけで我々の勝利は約束されたも同然。間違いなく今試験の穴です」

「俺はアレに会ってその正体を見抜いた。ラックス・サードウッドは凡人だ。仲間に担がれS級となった運の良い男。アレそのものに相応の実力は無い。その証拠にギルドで出会ったあの場で、俺は奴をいつでも殺すことが可能だった」

「さすがベンジャスさんです」

「いっそ殺してしまえば良かったんですよ。あのいやらしい付与士を」

「「なんだって?」」


 女性剣士の物騒な発言に、ベンジャスと部下の男はぎょっとした。


「行くぞ。時間は貴重だ」

「「はっ」」


 三人は男をそのままに森の奥へと消える。


 ――気配が遠のいたところで、茂みよりマダニと回復師らしき男が顔を出した。


「いなくなったな? よし、回復するぞ」

「え? 助けるんですか?」

「馬鹿野郎。死にそうな奴を放っておけるかよ。試験の前に人の心ってものがあるだろう。ついてこねぇならそれでもいいよ。俺は行くからな」

「行きますよ。マダニさんにはスタートで助けて貰った恩がありますしね」


 マダニと男は茂みから出ると、倒れている坊主頭の男へと近づき抱き上げた。


「意識はあるか?」

「あんたは……」

「よし、こいつにハイキュアをかけてくれ」

「ま、待ってくれ、どうしてライバルの俺なんかに」


 マダニの指示に従い、回復師である男がハイキュアを施した。

 みるみる火傷は消える。坊主頭の男は二人のやったことが信じられず言葉を失っていた。


「あんな奴の言葉なんか気にするなよ。強さだけが冒険者じゃない。同じB級なら分かるだろ。一回負けたくらいで諦める必要は無いんだぜ。俺なんか四回試験に落ちてるからな」

「四回って諦めが悪すぎだろ。なぁ、あんた名前は?」

「マダニだ」

「助けられた恩を返したい。あんた達について行っても構わないか?」


 二人は握手を交わした。

 かと思えば、マダニは酒瓶をマジックストレージからとりだした。


「親睦と作戦会議をかねて一杯やろうぜ!」

「「いぇーい」」


 カラスで様子を窺っていたライザは、眉間に皺を寄せた。


「試験中に酒盛りなんて受かる気あるのかしら。ていうかこの顔、見覚えがあるわね。アバンテールだったかしら? 前々から感じてたけど、あの町って変なの多いわよね――」


 ぱちっと瞳を開いたライザは、目の前にいる()()に大きく目を見開いた。

 真っ白な毛玉が、至近距離でライザをじっと見つめていたのだ。


「ぎゃぁああああああああああ!!?」


 ライザの人生でもっとも驚いた瞬間であった。


「前々から気になっていたことがある。胸は大きいとやはり重いのか?」

「あー、び、びっくりした……驚きすぎて心臓が止まるところだったわ。いきなり現れないでちょうだい」

「胸は大きいとやはり重いのか?」

「人の話聞いてないし。そうね、確かに重いわ。肩も凝るし夏場は蒸れるし――」


 切り立った崖の上に並ぶ、氷の魔術師と白い毛玉。


 ライザは呆れた態度をとりながら冷や汗を掻いていた。

 油断していたとはいえこのワタシが、相手に近づかれるまで気付かなかったなんて。転移してきても即座に反応できる自信があったのよ。本当になんなのよこの毛玉。自信なくすわ。などとライザは心の中で毛玉の頭をぽこぽこ叩いていた。


「昔はシルクもそれが欲しかった。だが、いくら魔術を改良しても手に入らなかった。人生とは望むものほど手に入らない旅路、シルクのここまでの旅はそうだった」

「何の話? まぁいいけど。それよりあんた、こんなところにいていいの? 別に試験官同士の会話は禁止されていないけど、だらだら話すほど暇でもないでしょ」


 毛の奥にいる何かを、ライザは目を細めて予測する。


 ライザは魔力量に恵まれたヒューマンである。平均的な魔術師の三倍の魔力量を持って生まれた。魔術の才にも恵まれ、彼女は瞬く間に天才魔術師として名を上げた。いつしか彼女はエルフと同等あるいはそれ以上の力を持つ優れたヒューマンの魔術師として名をはせていた。

 そんな彼女が一目置いているのがこの白い毛玉である。


 エルフ……? もしかするとさらに上位のハイエルフかしら?

 ハイエルフなら納得だわ。五百年以上生きると言われる魔術素養の高い希少種だもの。反対の術式をぶつけるなんて馬鹿げた芸当もハイエルフなら可能かもしれない。あとは前々から考えている可能性。


 シルク・シルフィード――実は一人だけその名の人物を知っている。だけどあり得ない。生きているはずがないもの。


「問題なし。シルクはデコイの魔術で偽シルクを各地に飛ばしている。使い魔で受験者の動向も把握している。ちなみにラックスは茂みで大便中だ」

「ちょっと、止めて。その情報は必要ないでしょ。次からどんな顔して会えば良いか分からないでしょ。この前茂みでウンコしてた人だわなんて考えちゃうじゃない」

「ライザはしない?」

「乙女に何言っているのよ、その毛残らず燃やすわよ!」


 これ以上相手をしては精神が摩耗するだけ。毛玉は放置して移動よ、などとライザは考え北西に向かって飛んで行く。


「いつの時代もヒューマンと仲良くなるのは難しいな」


 長い髪が風に流されると、そこには杖を持った少女の後ろ姿があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版2026年6月5日発売!
bt1v9w6w5t2cj08rd09fcemy1wzo_171u_60_8w_
ドラゴンノベルス公式ページ
― 新着の感想 ―
マダニさんもちょっと前までは他人を蹴落とす側だったのに成長したね! まぁ、実力不足というよりも犯罪者予備軍を昇格させるわけにいかないから、これまで落ち続けたんだろうけど… 仮にA級が問題起こしたら査定…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ