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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第三章

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87話 付与士は毛の奥にある深淵に恐怖する

 

 質の良い長机が置かれた会議室。壁には有名な芸術家が描いたのだろうか難解な絵が飾られていた。俺は促されるまま適当な席に座り、シルクはすぐ後方で控える。年寄りを長時間立たせるのは気が引けたので座ったらどうだと声をかけてはみたのだが、さらっと断られてしまった。


 俺の向かいには二つの顔があった。

 王都ギルドマスターと二十代前半と思われる若い女性である。


 長く青い艶やかな髪の毛。利発そうなやや可愛らしい顔立ちと、真ん中分けされた前髪によって露出するおでこと綺麗な眉は、彼女の柔らかくも真っ直ぐな瞳を強調している。その手には立派な長杖が握られており、魔術師らしくローブを纏っている。その首には、卒業の証とは少し色が異なる、薄い青のネックレスがあった。


「自己紹介がまだだったね。彼女は王立魔術学院の講師を務める【ルルーナ・バレンシア】さんだ。毎年昇格試験では魔術学院に手伝っていただいていてね。今年も例に洩れずこうして招くこととなった」


 王立魔術学院――いわずもしれた歴史ある魔術師の学び舎である。高名な魔術師を輩出し続ける王国魔術の要。銀の護剣(シルバーブレイド)のライザも新人の魔術師ちゃんもここの卒業生だ。卒業した者が証としてネックレスを身につけるのは有名な話である。


「ご紹介にあずかったルルーナ・バレンシアでございます。名称未定(アンノウン)様のお噂はかねてより耳にしておりました。若輩ではございますが精一杯頑張らせていただきますので、どうか良き試験にすべくお力をお貸しください」


 ルルーナは丁寧な言葉遣いと所作で、俺とシルクへ軽く挨拶をする。

 バレンシア……どこかで聞いた家名だ。どこだったかな。魔術師の家系だった気もするが。


「魔術学院を創設した魔術師の家系だ。言動に気をつけるべし」


 シルクの声が脳内で響く。念話魔術だ。

 助かったよシルク。さすが俺が最も信頼する魔術師。


「バレンシア家といえば魔術学院を創設した一族だったと思うが。ルルーナさんももしかして?」

「よくご存じでしたね。ええ、私の祖母が現在の学院長を務めています。私はそんな祖母に憧れ講師になりました。そうだ、ラックスさんもシルクさんも遠慮無く私を、ルルーナとお呼びください。これから私達は共に協力し合うのですから」


 俺とシルクは見合わせる。

 まぁ本人がそう言うのなら別に良いけどさ。


「おほん。自己紹介も終わったところで、そろそろ試験について話を進めても構わないかな?」

「はい。お願いします」

「では。三人ともすでに聞き及んでいると思われるが、今年は豊穣祭を間近にしたタイミングで昇格試験を行うことが決定している。そのため、前年を大きく上回る数の参加者が見込まれている」


 B級冒険者として活躍をしている者は多い。ある程度経験を積み実力をつければスムーズに上がってこられるランクだからだ。しかし、A級から上は一筋縄ではいかない。そこに至った者は相応の責任を背負うことになるからだ。切り札として。看板として。冒険者達の憧れとして。在り続けなければならない。それら全てを満たせる者だけが壁を越え高みへと昇るのである。

 とまぁ大げさに言ってはいるが、ギルドが用意した試験をクリアすれば晴れてA級というだけの話だ。ただし、試験をくぐり抜けられるのはほんの一握り。生半可な奴を受からせれば逆に責められるのはこっちだ。厳しめに事に当たるつもりである。


「君達にやって貰うのは実技試験を担当する『特別試験官』だ。詳しいことはルルーナさんに訊くといい。試験官の講習も彼女が行ってくれる」

「一つ質問。ギルドの試験だろ。なぜ魔術学院なんだ?」

「外部である魔術学院が、なぜギルドの試験に関わっているのかと聞きたいのだろう?」


 サリウスは続ける。


「魔術学院を招くのは一つに公平な視点を期待しているからだ。他にも学院が有する試験のノウハウ、実技試験における技術的な補助、ギルドに不足している多くを補ってくれる。そして、魔術師である彼らなら発生した問題も臨機応変に対応が可能だ。納得してもらえたかな」


 思い返せばA級試験でもS級試験でも大量の魔術師がいた気がする。じろじろ見ていると睨まれてさ。懐かしいな。とりあえず納得はした。


「じゃあさ、もう一つ質問いいかな。ルルーナも試験官なのか?」

「彼女は監督役補佐となっている。合否を決定する権限はないが、一歩踏み込んだ試験の内情を知ることができる立場にある。簡単に言えば学院側のまとめ役だ。とても優秀な子でね。さすがはバレンシア家のご息女だ」

「恐れ入ります」


 サリウスはコツンと、杖を床について終わりを知らせる。


「それでは試験官の講習を明日より開始する。期間は三日間だ。しっかり頭に詰め込むように」


 そう言ってサリウスが口角を鋭く上げる。

 どすんと、ルルーナが分厚い書類をテーブルに置いた。


「そ、それ、全部を覚えろと?」

「よろしくお願いしますね。ラックスさん」


 にこやかなルルーナに俺の顔が引きつる。

 なんかこの子、座学の時の師匠にそっくりだ。怖い。


 ひとまず挨拶は終わり俺は席を立つ。出口までシルクと向かったところで、ルルーナがシルクを呼び止めた。


「魔術師のシルクさんですよね? その、どこかでお会いしたことはありませんか? 学院に通われていたことがあるとか。少し気になって」


 足を止めたシルクはしばし考えるように沈黙した。


「在学した記憶はない」

「そうですか……すみません引き留めてしまって」

「気にするな。他人のそら似はよくある」

「ですね。失礼しました」


 今度こそ俺とシルクは部屋を出た。



 ◇



 露店や屋台が並ぶ王都の屋台通り。ここは各地の特産や掘り出し物を購入することができる知る人ぞ知る観光スポットだ。祭りが近いからかずいぶんと人の数も多い。露店の商品も祭り向けに派手なデザインのものが多い印象だ。

 王都ギルドを出た俺とシルクは時間が余ってしまったので、フェリス達を探しつつ王都観光をしようと話になった。もちろん講習前の現実逃避ではない。


 俺の狙いはシルクの悩みを聞き出すことである。あるいはその正体を探る。気が付けば名称未定(アンノウン)での同性はシルクのみとなってしまった。彼にパーティーを抜けられてしまうと戦力は大幅ダウン。俺の肩身もより一層狭くなる。一刻も早く信頼を深めることが急務となっている。

 もちろん男同士仲良くなりたいそんな気持ちも多分に含まれていたりする。彼の本当の姿とエールを飲み交わせる日が待ち遠しい。そのためにはまずは近づき悩みを聞き出すのだ。


 そんなことを考えつつ俺は、隣を歩くシルクをちらちら見ていた。


「なぁ、小腹が空いただろ。何か食わないか」

「……あれがいい」


 シルクが杖を突き出し屋台を指定した。

 よくみるとアバンテール名物の霜降りトカゲ焼きであった。ただ、売られているサイズは一回り小さい上に値段も高い。


「せっかく王都に来たのなら、別の名物を食った方がいいと思うけどな」

「ミルディアから戻ってきて一度も口にしていない。不思議だ。定期的に摂取したくなる味。見た目はひどいのに」


 それはそう。なんかこう癖になる味なんだよな。初見だとその異様な料理に驚くけど、口に入れるとさらにその美味さに驚く。アバンテールには毎日食ってる奴もいて、食わない日があると手が震えるそうだ。

 ちなみに霜降りトカゲには二種類あって、バラ肉と姿焼きがあったりする。

 肉質もサイズが違うから姿焼きの方は幼体なのかもしれない。なんだかんだ数年住んでいるけど生きている霜降りトカゲを見たことはないんだよな。謎の魔物だ。


 購入した霜降りトカゲをシルクに差しだす。彼は白い毛の一部を手のように動かし、俺が差しだす串を受け取った。そして、毛束と毛束の隙間から串を差し込み食べる。


 それとなくシルクの顔を覗こうとチラ見する。

 だがしかし、隙間の奥は真っ暗で何も見えない。じっと見ていると自分が何者か変わらなくなるようなおかしな感覚を覚え、慌てて目を背けた。


「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」

「なに、急に。怖いんですけど」


 お前が覗いている時に自分もお前を見ているのだぞと言いたいのか?

 それとも別の意味? なんか意味深で怖いんですけど。


「そうだ、この前買ったシャンプー&リンスってどうだった?」

「あれはいい。シルクの毛がつやつやさらさら」

「シルクの毛がシルクみたいってね」

「…………」


 だめか。会心の出来だったんだが。

 シルクが笑ったところを見たことがなかったから試しにボケてみたんだが。


 突然、通りが騒がしくなる。


 周囲の人々は上に視線を向け棒立ちとなっていた。同じく視線を向ければ、建物の上方で黒髪の女の子が僅かな足場を頼りに壁を背にしながら横に移動していた。どうやら目的はその先にいる下りられなくなった猫のようである。


「慎重に、猫を驚かせないようにね!」

「危ないってリノアちゃん! アカネちゃんも止めてよ!」


 その下では見覚えのある二人が騒いでた。

 壁際を渡るシーフちゃんはサムズアップする。


「大丈夫。アカネとベルより軽いから」

「アタシは重くない!」

「下りてこい! 今の発言を説明しろ!!」


 俺はポリポリ頭を掻いた。

 あいつらも王都に来ていたのか。本当に縁があるな。



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